第30話 東海林さんの誕生日③

 そして東海林しょうじさんの誕生日、9月7日はやってきた。準備万端だ。


 朝の通学時間に東海林さんには会えるかもと期待していた。でもいつも通り歩いていると学校についてしまった。いつもだったら一緒になるのに、なぜこうも今日に限ってタイミングが悪いのか? 登校中に会えたら渡そうと考えていたプレゼント大作戦は不発に終わった。


 東海林さんに会えなかった。いい思いつきだと考えたのにタイミングが悪かった。上手くいかないもんだね!


 学校についてからも東海林さんはなかなか登校してこなかった。なにかあったのかな? とちょっと心配になった。けれど、もう遅刻ギリギリといった時間になって、


「おっはよー、五十嵐いがらし君!」と東海林さんはいつも通りチョップして現れた。

「おはよう、東海林さん。今日は遅めなんですね。寝坊でもしたんですか?」と僕は答える。

「そうなのよ。昨日遅くまで起きてたら寝坊しちゃってね。乙女には色々あるのよ」

 なんていいながら東海林さんは、んふふーって笑ってた。


 まぁ、乙女には乙女の都合があるらしい。寝坊する何があるんだろう。よく分かんないけど、そういうものなんだと僕は思った。人間理屈じゃない時がある。そういう時はパッションだ! と自分を無理やり納得させた。


 そして授業が始まる。テストで手を抜きたいからこそ僕は授業をしっかり受け、日々の復習はきっちりするのだった。


 淡々と授業をこなす。黒板をひたすらノートに書き写し、気づいた点や先生の話をメモし休憩時間に見直して思い出す。


 そしてお弁当タイムである。


「泣いて喜ぶが良い」と東海林さんは自慢げだ。

「うぅ、ありがたき幸せ」とは僕は泣いたふりをする。

「うむ、良きにはからえ」と東海林さんは自信たっぷりだ。

「はは~」といって頭をさげ、本日のお弁当を東海林さんから僕はたまわった。


 今日のお弁当はなんじゃらほいとフタをいそいそと開けた。


 お弁当の中に入っていたのはご飯と梅干しとはし休めのたくあんがででんと存在を主張する。さらにお弁当の中身はニンジンのグラッセ、ほうれん草のおひたし、コーンバターと色どり鮮やか。そしてメインのおかずはコロッケだった。


 僕はひゃっほぅと喜びコロッケをぱくりと一口頂いた。衣はやっぱりサクサクで中に入ってる具もジャガイモをすりつぶして玉ねぎやら肉やらと混ぜ混ぜして、一緒に揚げたんだろうけど……食べた僕には天才か!? と思う味だった。


「美味しい……これ食べた人、嬉しすぎて死ぬんじゃないの、僕死ぬの?」といつも通り僕は思ったままをつぶやいた。

めすぎ。さすがに死ぬのはないって。たはは~」なんて照れてる東海林さん。


 ニンジンのグラッセもほんのり甘いお上品といった感じでできあがり、ほうれん草のおひたしも柔らかく仕上がってて変な芯が残ることもない。コーンバターもトウモロコシが大好きな僕にとっては周りに人がいなければ叫びだしそうな美味しさだ。


 僕の食事の感想が、だいぶ頭が悪そうなのはおいといてだ。ひいき目なしにみてもやっぱり美味しいお弁当だと思った。


「こんなお弁当を毎日、学校で食べられるって僕は幸せだねぇ」と僕の秘密はダダ漏れだ。

「んふふー」と、僕の呟きを聞いたぽい感じの東海林さんは、満更でもなさそうだ。


 最後のご飯一粒まで頂いた。


「ごちそうさまでした」と僕は手を合わせる。

「お粗末様でした」と答える東海林さんは嬉しそうだ。

「夫婦か」と前田さんが横やりを入れてくる。うん。ほんとうにいつも通りだ。そんな感じでお弁当の時間は終わりだよとチャイムが告げる。


 蓮野内君は、なんか無表情になっていた。死んだ魚の目という訳ではない。生気のない顔といえばいいのか、いつも一人で元気がなさそうだ。これはこれで心配になるけど僕ではどうしようもないしねぇ、なんて思ってた。


 お弁当も美味しいし、いつも通りでいい感じなんて思っていたら、本来の目的だった東海林さんにプレゼントを渡すということを忘れていたことを思い出した。


 今のお弁当の時間にそれとなく渡すでもよかったんじゃないの!? なんて後悔してる僕がいた。でも欲を言えばプレゼントを見た東海林さんの反応が見たかった。この余計な考えが今の失敗の原因か! でも、東海林さんにプレゼントを渡す反応を皆に見られたい訳じゃない。まだ大丈夫。放課後の図書室で渡すチャンスがある!


 過ぎた昼休みは戻ってこない。誕生日プレゼントを渡せずに、もう本日最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。


「じゃぁ私、部活行ってくるね!」と東海林さんはにっこり笑う。

「あ、いってらっしゃい。東海林さん」と言いながら内心、僕はまじか! 今日って部活の日なの!? と心の中で叫んでいた。今、言葉をださないともう今日中に会えないかもしれない、と思った僕は


「あ。今日、一緒に帰らない?」


 と慌てて話していた。


「いいよー。じゃぁ、部活が終わったら校門で待ってるね!」と東海林さんも元気に応えてくれた。

「うん、了解。下校の音楽がなったらでいいよね?」と僕は確認する。

「うんうん。それでいいよー。問題なし!」

「はいな~」

 

 と元気な東海林さんの返事を受けて、計画って全然その通りに進まないもんだねって思った。まぁ、登校時に渡すってだけしか考えてなかったのが、そもそもの問題なんだろうけども。


 もっと色んな可能性を考えておけば、もっと楽にプレゼントを渡せたんじゃないだろうか? と思わずにはいられない。そんな僕がいた。


 とはいえ、約束もちゃんとしたし、あとは図書室で本を楽しもうと思った。時間は学校から帰りなさいよと音楽が流れるんだから、それまで本を読んで待てばいい。 


 これ以上、ポカをするわけにはいかない。だって、今日は東海林さんの誕生日なんだから! と気合を入れる僕だった。

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