第29話 東海林さんの誕生日②

 オルゴールという商品を考えたのは、宣伝のための商品ポップが原因だ。その商品ポップには『贈り物にいかが?』と、ド直球にかかれていた。


 でもそのお値段と実際の商品を考えると、僕の感覚ではこれはありなんじゃないかと思えた。


 身に付けるものじゃないから、仮に仲が悪くなったとしても、装飾品等を外されてショックを受けることはない。家に置く物だから捨てられても見なかった振りをできるギリギリのラインだ。


 後ろ向きなのは仕方ない。僕は何度も言うけど小心者なのだ。不良グループと言い合いになったときは足の震えが止まらなかったしね!


 けれども問題はある。これがまた、なんでこんなに色々種類があるの? と迷うほどにたくさんあった。何か捕ろうとしてるポーズの猫が音を奏でてくるくる回るオルゴールがまず目についた。


 そうかと思えば、箱が音を奏でるオルゴールは箱の模様が可愛いのだ。猫に勝るとも劣らない。


そして人気アニメのキャラクターがくるくる回るオルゴールまであった。これもまた可愛い。アニメファンなら選んでもおかしくない。しかもそのアニメの象徴的な曲が流れるっていうんだからたまらない。アニメファンなら思わず買ってしまうだろう。


 僕がなんとか絞り込んだのは、この3つのオルゴールだ。東海林さんはどれなら喜んでくれるだろうか? と考えた。


 僕は東海林さんが好きなアニメは聞いていない。知らないという事実はあまりにも大きい不安要素だ。僕の好きなアニメだから聞いてくれ! っていうのもある意味ありだとは思うんだけども……


 自分が知らないアニメやゲームが原作の曲が流れるオルゴールをもらって嬉しいか?


 問題はそこだろう。自分が相手を好きであればあるほど、好きな曲を聞きたい。つまり相手の好きなものを知りたいという想いは加速する。僕は小心者である。そんな自信はないのだ。

 

 だからアニメの曲のオルゴールは却下した。


 捨てがたい選択肢ではあるけれども、せっかくなら東海林さんが好きなアニメのオルゴールを贈りたい。その方が東海林さんも嬉しいだろうと思ったのだ。


 だからこのオルゴールは東海林さんの好きなアニメを知ってから動き出す計画ということにした。


 次に可愛い箱型のオルゴールだ。見るだけで可愛いオルゴールだからこれも決して悪くない。けれども動きがまったくないという点が悩ましいと言わざるを得ない。


 そして僕は東海林さんの好きな曲を知らない。好きな曲を知っていればそのオルゴールを贈るだろう。好きな曲を知っていれば、その曲を贈るという選択肢はかなりいい。好ましいと思う。


 噂話という名のミサイル片手に携えて、前田さんを相手に情報戦を展開するべきなのだろうか? でも相手は前田さんだと考えると、僕の情報を全てだしまくって、やっと好きなアニメやゲームを知るところまでしか自分の戦いを想像できない。曲まで辿たどりつけるか怪しいのだ。


 噂話の情報戦は前田さんの方が、かなり上手だと見た方がいい。蓮野内君の情報も、東海林さんの情報も、全て前田さんから聞いたことだ。前田さんの話術にのせられて、何でもポンポン僕が話してる未来しか想像できない。


 そこまで考えて前田さんから、東海林さんの好きなものを聞いていたことを僕は思い出した。『モフモフなら何でも好き』と前田さんは答えていたはずだ!


 ザ・ベスト・オブ・モフモフだ! つまりこの情報から僕は『猫がくるくる回るオルゴール』を贈ることに決めたのだった。


 まぁ、前田さん頼みの情報しかないけど、東海林さんの親友だ。『こういう戦いはできる限り、公平に』と言っていた言葉を信じるしかない。


 東海林さんもそれを嘘だって言ってなかったし。とはいえプレゼントを絶対に外したくない。


 僕の内なる心は猜疑心さいぎしんしかない。


 どれが正解か分からない。でもまぁ、考えようによっては何を言われても迷うってことだ。この回答を正解だと信じようと思った。前田さんが僕をだます理由も全くないしね。


 そして決心して『猫がくるくる回るオルゴール』をレジに持っていく僕がいた。


「贈り物ですか?」と女性の店員さんに聞かれたので、恥ずかしかったけど「そうです」と正直に答えた。そしたら


「ラッピングいたしましょうか?」


 と言われ、あなたは女神か!? と思った。是非に! と思い首をコクコクと上下させ、ラッピングをお願いした。


 『猫がくるくる回るオルゴール』を買い、僕のプレゼント購入大作戦は終わりを迎えた。そう、まだ購入である。


 ここで終わりではない。ここからどうやってプレゼントを渡すか大作戦が始まるのだ! 


 何かいいアイデアはないかなぁと僕は考えた。極端な話でいえば郵送という手段もあるんだけど、それはそれでどうなのよってお話である。


 できれば、贈り物を受け取った東海林さんの反応が見たいではないか!? そう考えると、静かであまり他人の邪魔が入らない場所が望ましい。


 そんな場所はあるんだろうか? と考える。でもこの問題に関しては、あまり大きな問題にならないことに僕は気づいた。東海林さんとは登校時に会えるじゃない! と思った訳だ。


 準備は全て整った。あとは東海林さんの誕生日、9月7日を待つのみだ! 

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