第22話 体育祭④
ところがだ。なんていうことでしょう。
つまり1アウトすら取れてないということだった。2点取られ2塁と3塁に相手チームの選手がいる。そして
「カッキーン!」
といい音を響かせてライトの僕の方にボ―ルは飛んできた。しかも僕よりも後ろの方に飛んでいく。必死にボールを追いかけて半身になり落下地点へ僕は走った。
なんとか取れた! これで1アウトだ。そしてすぐに練習通り中継してくれているセカンドの選手にボールを投げる。無理はしない。ワンバウンドさせて確実に相手の取りやすいボールを僕は投げた。
セカンドもしっかりボールを取りキャッチャーへ投げる。3塁はもちろん、2塁の選手も走ってた。足が速い。ホームへ滑り込む! 土煙が晴れた時、キャッチャーはきっちり相手の足をグローブで止め、ホームベースを死守していた。これで2アウトだからあと1人だ。
3塁の選手はホームへ入っていたので1点失った。これで相手は3点とったことになる。僕たちとの点差は2点だ。そして打ったバッターはホームベースの混戦の間にきっちり3塁まで進んでいた。ピンチは続いている!
次のバッターはファーストとピッチャーの中間に内野ゴロ。勝負は決まったかに思われた。蓮野内君はそのボールを取るために走った。けれどファーストの選手もボールを取りに走っていた。
そして蓮野内君とファーストの選手は頭から激突して倒れてしまった。
みんな慌てて二人に
「「「大丈夫か?」」」
と駆け寄る。ぶつかったときにファーストの選手は足をくじいたらしい。大事をとって保健室に行ってもらうことになった。
当然、蓮野内君もドクターストップである。頭からおもいっきりぶつかっていた。手足もすりむいて血がでてしまっている。蓮野内君に
「俺は大丈夫だ! まだ投げれる!」
と言われても先生は納得しなかった。二人とも保健室行きとなった。そうなれば投手は今まで投げてくれていた野球部員に交代してもらう。
蓮野内君と代わっていたのでレフトにいた。そのためレフトとファーストがいない状態だ。レフトには補欠選手に入ってもらった。でも内野に入ってもらっても大丈夫そうな選手はいなかった。
3塁にいた選手は今のケガのどさくさの間にホームベースを踏み1点取られた。合計4点とられ、僕たちとの点差は1点となっていた。
「う~~ん……
「ファーストは1塁ベースに片足のせてボール取ればいいだけだから、いけるいける!」と前田さんは言いだした。まじか。断ろうと思ったら
「さっきの外野フライ取れるんだからいけるいける!」と前田さんは追撃してくる。
「そうだな。あれが取れたならいけるんじゃないか?」とクラスメイトも便乗しだした。
「「「任せた!」」」
君たちがファーストやりたくないだけでしょうと僕は思った。けれど僕はここで全力で「嫌だ!」と主張できるほど空気の読めない男ではなかった。天を仰ぎボールが飛んできませんようにと祈りを捧げた。
わちゃわちゃしてたけどみんな守備位置につく。ライトには補欠の選手に入ってもらった。そして僕はボールは飛んでくるな! と心の中で祈りまくった。
僕は(ボールよ、来るな!)といまだかつてない程に祈っている。こんなに真剣に神様に祈ったことなどなかった。不本意だけど空気を読んでしまったがゆえに僕はここにいる。僕は蓮野内君みたいな空気の読めない男になりたかった。
ランナーは2塁にいる。そして2アウトでしかも点差は1点だ。このランナーがホームベースを踏めば同点となり、試合は延長戦にもつれ込むだろう。もしくはバッターがホームを踏んでしまえば、特別ルールの7回裏だから次はない。
そのまま逆転負けで試合終了もありえる。そしてピッチャーは第一球を投げる。
そんな状況で僕はファーストを守ってる。ほんとに逃げ出したかった。
ピッチャーは2球目を投げる。高めのボールを投げて空振りを狙ったみたいだけど、つられて振ってはくれなかった。やっかいだなーと思った。
2ボールだ。ストライクはない。そろそろストライクをいれておかないとピッチャーが追い詰められてしまう。それはやはりバッターも考える当然の思考回路だ。
甘く入ったストライクを見逃してはくれなかった。
「カッキーン!」
といい音をたててボールは飛ぶ。ワンバウンドしたそのボールにサードの選手が飛びつく。なんとか取ってみせた。そしてすぐに立ち上がり僕にボールを投げてくる!
慌てていたせいだろう。そのボールは横にそれた暴投だった。ワンバウンドして普通のファーストの選手なら手を伸ばしても届かないボールだった。
けれど僕は身体ぐにゃぐにゃ人間である。ファーストベースに足を置き、180度前後に足を開いてべたっと地面に座る。そしてお腹を脚にペタッとつけてグローブを思いっきり伸ばし……僕はしっかりとボールを取っていた!
そして3アウトとなり、試合終了だ! 僕たちは野球で優勝した。
「「「よくやった!!!」」」
とみんなから
「すごいすごい!」と
「ワシが育てた!」と前田さんは主張する。
「ワシもワシも!」と東海林さんは便乗する。
「育てられてないからね?」と僕はツッコミをいれた。
「「たはは~」」
なんて息があった二人は答えてた。こうして僕たちはこの体育祭でクラス別で優勝した。
そして翌日、東海林さんは学校を休んだ。どこか体調悪かったのかなぁと僕は心配した。けれど、次の日には
「おっはよー、五十嵐君!」
「おはよう、東海林さん」
と元気で晴れやかに挨拶してくれる東海林さんと、それに応える僕がいた。体育祭も終わりいつもの日常が戻ってきたのだった。
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