第21話 体育祭③
「100メートル走!」
100メートル走だ。
「位置について用意……」
「パン!」
とスターターピストルの音と共にスタートをきる。蓮野内君のスタートは早かった。それでも蓮野内君の先を走る選手が4人いた。
そこからスピードを上げていかなければならない状況だった。本来ならそのままスピードをあげていたんだろう。
でもあまりにも連戦しすぎだった。体力が回復していないみたいでスピードは落ち蓮野内君は8人中7位となった。仕方ない結果だと思う。
◇
そしてすぐに最後の競技、野球となる。これが泣いても笑っても最後の種目だ。僕の出場種目でもあり、蓮野内君の出場種目でもある。
蓮野内君はピッチャーの予定だった。さっきの100メートル走の様子をみればピッチャーなんて無理だろう。それでも蓮野内君はやる気だった。ここでやる気を削ぐのも悪いかなとは思うんだけど、休むべきだと僕は思った。
「蓮野内君はちょっと最初はベンチで休んだ方がいいと思うんだけど大丈夫? 疲れてない?」
僕はやんわり聞いてみた。蓮野内君はこちらを
「お前には言われたくない!」
と、けんもほろろだ。
「蓮野内君はベンチで回復したほうがいいよ。体力を戻してからピッチャーで頑張った方がいいと私も思う」と前田さんも蓮野内君を止める。
「今まで一番、頑張ってたのは分かるから休めるときに休もうよ」と
「他の奴には任せられない! 絶対に俺は出場する!」
蓮野内君は汗をだらだら流しながらも気合を見せる。止めても無駄か。でもこのままピッチャーしてもらっても勝利は遠のきそうだなぁと僕は思った。
野球は2回連続で戦う必要がある。その代わりに7回裏までで試合終了の特別ルールだ。9回裏まで対戦しない。2勝は無理でも1回戦は勝ちたい。単純に1回戦で負けて終わるより2回戦で負けた方がもらえるポイントは大きいからだ。
「蓮野内君。まずこの1回戦を勝ちにいきましょう。出場するのは止めません。でもポジションはレフトです。外野でまず休んでください。そして中盤でピッチャーに交代してそのまま相手を抑えてください。どうです?」
僕は現状でとれそうな作戦を考えて蓮野内君に尋ねる。
「そうね。その方法が一番、蓮野内君の希望にもあってると思う」と前田さんも同調する。
「うん。疲れたら休む。体力が回復したら頑張る! それがいいよ!」と東海林さんも僕の発言を後押ししてくれる。
「蓮野内君が一番、出場種目が多いんです。誰よりもクラスに貢献してるのは、みんなが認めてると思いますよ?」と僕もダメ押しだ。
「「「うん!」」」
「蓮野内はちょっと休んだ方がいいって!」
「頑張ってるのは見てたから分かる!」
「ちょっとは俺たちも信じろよ」
「「「そうだそうだ!」」」
「そ、そんな信じてないなんてことは……」
と蓮野内君は戸惑った様子だった。
「じゃぁ、レフトに決定ってことで!」と僕はすかさず決定事項のように話した。
「「「賛成!」」」
みんなの同意に逆らう元気はさすがの蓮野内君もなかった。こうして野球部員だけど投手はしたことはないクラスメイトが、急遽ピッチャーをすることになった。
「野球!」
そして試合開始となる。僕たちは先攻、まずはこちらの攻撃だ。蓮野内君は休んでもらう必要があるので打順は9番となった。
「カッキーン!」といい音を響かせてボールは飛んで行った。先頭打者から塁に出た。すかさず盗塁を決める。さすが野球部員だ。しっかり仕事してくれますね~なんて思ってた。
あっという間に3塁まで行ってしまう。できすぎる野球部員がここにいる。つぎのバッターは内野ゴロ。これはダメかと思ったら3塁にいた野球部員はホームへ突っ込んだ。仕方なくキャッチャーへボールを投げる相手チーム。
キャッチャーのタッチを回避して滑り込み、ホームベースへ手を伸ばし華麗に1点が入る。その上、1塁も生き残った。
流れはこちらに来ている!
僕たちは次々に打ちまくり得点を重ねていく。蓮野内君を休ませたい。その目的で僕たちは意気投合し、やる気は爆上りだ。
スリーアウトで交代になっても勢いは止まらない。守備をしても相手を3人でピタリとシャットアウトする。そして僕たちの攻撃は3人じゃ止まらない。どんどん得点を重ねていく。
4回の表で既に12点の差がついていた。4回の裏の相手の攻撃も3人できっちりシャットアウトして試合を締める。。コールドゲームで僕たちの勝利となり試合終了だ。
「「「ナイス!」」」
僕たちは勢いにのっていた。負ける気はしない。
そして決勝戦が始まった。僕たちはこのままのポジションでいくことにした。レフトは蓮野内君でピッチャーは野球部員となった。
今回も僕たちが先攻だ。勢いにのってる僕たちは止まらない。点を積み重ねていく。5点差を相手につけて勝っていた。ほぼ勝負はついた状態だ。
そして7回裏になった。僕たちは守備になる。ここで3アウト取れば試合終了で、僕たちの勝利となる場面だ。このまま何事もなかったかのごとくいけそうだと僕は思っていた。ところが蓮野内君は
「俺が投げる!」
と言い出した。みんな割とドン引きである。それでも5点差ついてるし大丈夫だろう。休んでもらった訳だしということで蓮野内君にピッチャーは交代となったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます