第19話 体育祭①
いよいよ体育祭が開催だ。訓練の成果をみせて優勝する。とはいえ僕ができることは少ない。せめてみんなを全力で応援して、足手まといにならないことが最大の目標だ。
まずは200メートル走の前田さんを応援に行った。東海林さんも一緒に前田さんを応援だ。
「位置について用意……」
「パン!」
とスターターピストルが鳴り響く。みんな一斉に走り出した。前田さんもいいスタートを決めている。あとは後半の伸び次第だ。
コースに沿って綺麗にカーブを曲がっていく。横一線になった。だからこそ5コースにいた前田さんは有利な位置取りだ。アウトコースで追いついているということは……
直線になればそれだけリードをしているということだ。前田さんは集団から身体一つ抜け出した。そのままリードを維持したままゴールした。結果は1位だ!
幸先のいいスタートだ。勢いに乗ってどこまでいけるかどうか。200メートル走はまだ続いているけれど、待っていると次の種目の開始時間に間に合わなくなる。
だから複数の種目に参加してる人は、基本的に徒競走の走る順番は早めに組んでいる。他の種目にすぐに移動できるようにっていう作戦だ。
◇
「バレーボール!」
東海林さんと前田さんの出場種目だ。ついでに蓮野内君も男子チームの方で参加している。
東海林さんは確実にサーブを、敵チームの中間あたりにボールをコントロールしてお見合いさせて得点を稼ぎまくる。威力もスピードもたいしたことはない。でもサーブのコントロールが凄かった。バレー部員の近くにはボールを落とさないように徹底していた。あれは敵に回したくない。ヤバイね!
前田さんもうまい具合に点を稼ぐ東海林さんをみて嬉しそうな顔をしている。そして相手チームがスパイクしてきても、前田さんは回転レシーブでボールを拾いまくる。
そして反撃し点をとる。そしたらまたしても東海林さんにサーブすることになる。いい循環ができている。そして僕たちチームの勝利が決まった。
東海林さんのいやらしいサーブでミスを誘い、相手からのスパイクを前田さんは拾いまくる。勝利の図式は見えたと言っていい。順調に勝ち上がっていった。
男子の方も黄色い声援が大音量で聞こえるので、蓮野内君が頑張っているのだろう。たぶん。
そして決勝戦だ。
相手のチームはバレー部員が4人いるらしく強かった。弱点はバレー部員でない2人のメンバーの中間あたりだが、狙いがバレればカバーされる。バレー部員がフォローしてくるようになっていた。
けれどもそれでもみんな諦めない。全力だ。東海林さんも前田さんもボールに必死にくらいついた。バレー部員のスパイクは女子とはいえ、僕ですら逃げたくなるレベルの威力とスピードだった。
あんなのレシーブできるの? って思って見てたけど東海林さんもちゃんとレシーブしていた。あの威力とスピードのボールから逃げなかった。ソフトボールのお試しの時はボールが飛んできたら内股になり、グローブを前に突き出して目をつぶっていたあの東海林さんがだ。そんな東海林さんを見ていた僕には信じられないレベルの頑張りだ。
前田さんも、もちろん逃げない。積極的にレシーブで拾いみんなをカバーし、トスをあげてもらってスパイクで点を取る。
だからサーブで得点を奪う、もしくはサーブで揺さぶり
東海林さんのサーブのコントロールで相手の弱点を狙い続ける。それをみた相手のバレー部員がフォローするようになっても、東海林さんは今度はコートの白線ぎりぎりを狙うようになった。これは相手メンバーの中間を狙うより遥かにリスキーだけど、有効な作戦だった。
相手はお見合いも発生するし、ライン際のボールの行方も見たくなる。そして行方を見てる相手を尻目に、きっちりライン上にボールを落として点を取る。いぶし銀だ。
東海林さんと前田さんの試合内容をしっかり見た結果、凄いと言わざるを得なかった。そして僕たちのチームはバレーボールでの優勝が決まった訳だ。男子は2位、上々の結果だ。
僕は素直に東海林さんと前田さんを
「大活躍でしたね!」
「「そうでしょう。そうでしょう」」
なんて二人とも自慢げだった。でもあのプレーを見せられたら納得だ。
東海林さんは目をおさえて座っていたので「どうしたの?」と僕は聞いてみた。すると「ん、ちょっと立ちくらみしちゃった」と笑った。「今日の日差しすごいもんねぇ。大丈夫?」と聞くと「大丈夫、大丈夫!」と笑う東海林さんをみて僕は納得したのだった。
◇
「女子ソフトボール!」
「1,500メートル走!」
1,500メートル走は蓮野内君が出場だ。蓮野内君の体力は底なしか!?
そしてソフトボールは前田さんの出場種目だ。早速、僕と東海林さんは応援に行った。
前田さんはよく打つし走るし、ピッチャーもしていた。運動系に関しては前田さんも規格外だと思った。
試合は10点差をつけて大量リードだ。ほんとに前田さんの独壇場だ。ある意味やりたい放題だった。フォアボールで相手の投手が勝負を避けてきても、盗塁してあっという間に3塁に進む。
バッターがフライを打ち上げて外野に飛ばす。そのボールが取られたのを確認して、走りだし
前田さんがピッチャーをしているわけだけど、三振の山を築いた。最初は真ん中付近の甘い球を投げて、もっと良い球を狙おうと思うせいか慎重なせいか相手は見送ることが多い。
ストライクを稼いだあとは、厳しいコースをきっちり狙い打たせない。そして真ん中高めのボール球を力の限り投げる。2ストライクで追い詰められたバッターは、そのボールになる釣り球に手を出して簡単にバットを振り三振となる。
はっきり言おう。格が違った!
そういう小さな積み重ねが10点差という状況を作り出していた。こりゃ、相手チームが可哀想だねぇとすら僕は思って見ていた。
勝利が決まり、前田さんがやってきた。
「どうよ? 私の雄姿は!」
「「すごかった!」」
僕と東海林さんが素直に称賛するレベルの圧倒的勝利だった。
そして順調に勝ち上がり決勝も勝ち、僕たちのチームは優勝を決めた。
1500メートル走の蓮野内君も2位となっていた。優勝を逃して悔しそうにしていた。それにしたって2位でも充分すごい。でもバレーボールにもフル参加してたんだから、そこはしょうがないんじゃない? なんて僕はぼんやり思ってた。
◇
ここで一旦休憩をはさむことになった。東海林さんお手製のお弁当の時間だ。どか弁再び! そぼろ弁当だった。ひゃっほぅと僕は喜んだ。。
全体的に甘辛く卵はほろほろ、鶏肉はしっかり味付けされて、真ん中はほうれん草のおひたしがドーンと居座って、左右に卵と鶏のお肉がデデーン!と入ってた。
「美味しい……幸せすぎ」
今日のお弁当も称賛のため息とともに。僕の秘密はだだ漏れだ。東海林さんはにこにこしてた。東海林さんの美味しい食事を頂いたけど、僕の出番はまだまだ先だ。
というか今のところ僕は何もしていない。こんな美味しいお弁当を食べてもいいんだろうか? と思いつつがっつり頂いた僕だった。
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