第18話 体育祭の自主訓練②

 今日も今日とて自主訓練だ。ストレッチして身体をほぐしてからの練習だ。


「相変わらずの軟体人間だね~」と東海林さんは笑っている。

「これが野球に役に立てばねぇ」と前田さんは嘆く。

「ケガしないための軟体人間ですし、多くは求めませんよ、僕は」とストレッチを続ける。東海林さんと前田さんもストレッチを始めた。


「二人とも僕のことを散々、軟体人間とか言ってましたけど、東海林さんも前田さんも身体やわらかいじゃないですか」

「「たはは~」」


 東海林さんも前田さんも笑ってた。2人とも僕ほどではないしにしても柔らかい。前屈したら手がべたっと地面に手がつくくらいには柔らかかった。


「東海林さんと前田さんは練習の方はどうなんです?」

「いつも通りかなぁ」と東海林さんは微笑む。

「私は変わらずよ。運動得意だしね」と前田さんは自信たっぷりだ。


 その自信が欲しいなと思う僕だった。とりあえずストレッチしたら僕は野球の練習開始だ。みんなそれぞれの種目の練習のために移動した。


 まずはキャッチボールをした。これもぶっちゃけストレッチみたいなもんだろう。身体を慣らしていく前準備だ。


 まぁボールも投げれるし、取るのも何も考えなくてもできた。昔はボール取るのも苦労したんだけどなぁ過去を振り返る。



 少年野球に参加してるメンバーのお父さんたちが善意で監督やコーチをしてくれる。僕が所属していた少年野球のチームはそんな感じだったわけだ。


 幼い頃どうボールをとろうとしても、グローブからボールは弾かれてしまう。子供心になんでボールがとれないんだろうって僕はとても悩んでいた。


 そしたらコーチが


「グローブなしだったらどうボールを取ろうとする?」と聞いてきた。

「両手でとります」と僕は答えた。


「そう、ボールを包むようにとるよね。グローブしてても基本は一緒。両手で包むように取るんだ。片手でとろうとするのはプロになってからだよ」と優しくコーチは教えてくれたもんだ。


 けれども、そういわれて実際にやっても、それでもボールはグローブから飛び出した。どうすればいいんだと半泣きになりながら、とれないなぁと僕は悩んでいた。


 僕の状況をみたコーチは


「両手でとろうとするようになったのはよくなった。でもね、グローブをしてるのに素手でとるようにグローブを前に出すのはよろしくない」


 どういうこと? 両手で包むようにボールをとるんじゃないの? とさらに僕は混乱した。コーチは


「いいかい? 素手でとるのと同じように手を前に出すと、グローブの先の方にボールは当たって弾かれちゃう。だからグローブは前につきだすんじゃなく縦にする。手の指にボールを当てるイメージでボールは取るんだ」


 とアドバイスをくれた。


 実際にやってみるとなるほどって思った。素手でボールを取るようにグローブで取ろうとすると手のひらでボールは弾かれる。でも、手の指に当てるようにするとボールはグローブの深い部分にすっぽり収まってくれるのだ。


「そうそう、いい感じ。その感覚を忘れないようにね。そのあとは両手でボールを取るのと同じ。ボールが弾かれないように、空いてる手でグローブに蓋をするイメージ」


 そして実際に言う通りやってみて、しっかりボールを取れるようになった僕は


「ありがとうございました!」


 とコーチにお礼を言って感謝したんだ。懐かしいなって思いながら当時を思い出した。


 ◇


 キャッチボールも終わり、今度は内野と外野の連携の練習だった。なんか、割と本格的だねぇなんて思いながら僕は練習をしていた。


 野球部員がいるからかなぁと思う。外野の間を抜けて、さらに遠くにボールが行ってしまった場合の連携だ。


 ボールがそこまで飛んでいたら相手はホームを狙って全速力で走っているだろう。だから外野がボールに追いついたら、ホームと外野のちょうど中間くらいに内野は待機する。


 外野からボールをもらったら、そのままキャッチャーにボールを投げてホームベースでアウトにする。これはホームで敵をアウトにする目的もあるんだけど、敵チームの進塁を防ぐ目的もあったりする。


 これ以上進んできたらアウトにしてやるぞ、とみせることで止まってもらうためだ。どちらかというとホームベースでアウトにできる可能性なんてほとんどないから、進塁防止がこの訓練の目的なんじゃないかなと僕は思っている。


 でもアウト取れればラッキーだし、処理を速くできれば点を取られず進塁を防げる。1点とるかとられるかの戦いだから、この練習って思ったより重要だなぁって思った。少年野球のチームに参加してた頃は、よく分かってなかったけどね!


 と思っていたら今日の自主訓練は終了だった。終わりだ終わり~。ひと仕事終えてすっきりだね! なんて思っていた。帰り道で東海林さんと一緒になった。


「今日の自主訓練はどうだったの?」と東海林さんに聞かれた。

「少年野球でボール取るのに、むちゃくちゃ必死になってた昔の自分を思い出してました」と僕は笑った。


「へぇ。それって私と公園で遊んでた頃?」

「いや、東海林さんが公園に来なくなってから後の話かなぁ。公園行くのもつまらなくなったところに、両親に勧められて少年野球を始めた感じだったかな?」


 って話したら、東海林さんはにこにこして、なぜか上機嫌だった。東海林さんのご機嫌パラメーターは本当にわかんないなぁ、と僕は思ったのだった。

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