第17話 体育祭の自主訓練①
一通り、体育祭の出場科目の成績がでた訳だ。
それを参考に
前田さんは200メートル走、バスケットボール、卓球、ソフトボールにも参加する。
そして僕はかろうじて何とかなるんじゃないかと可能性がみえた野球のみと決まった。
「これで、出場種目はみんな決まりました。これからは自主訓練をする人は放課後に残って練習しましょう!」
と、いつの間にか場を仕切っていたのは前田さんだった。これは放課後の訓練に参加しないわけにはいかなさそうだねぇ、なんて僕は考えていた。
足引っ張って体育祭の当日に目も当てられないほどの失敗をしないためにしょうがないと
毎日コツコツ努力する。父さんと根性論を話すのが定番な僕にとっては、そんなに嫌なことでもない。本を読む優先順位が圧倒的に高いだけのお話だ。
◇
さて、次の日の放課後から野球の自主訓練は始まった。複数の種目に参加する人は自分がしたい種目をしてもらえばいいとのことだった。複数出場できる時点で運動神経はいい人たちなので割と自由だったみたいだ。
それにしたって自主訓練なのに出席率がいいのだ。みんなやる気である。この自主訓練の目的はぶっちゃけ、戦力の底上げだろう。最低ラインを引き上げる。運動できる人の伸びしろより、できない人の方が伸びしろは大きい。
自主訓練に参加してくれる人たちで、協力しあって連帯感を作る。運動できない人の出席率が思ったより高い。それだけで勝つ見込みありだ。だからその勢いで体育祭も勝とうという魂胆だと僕は勝手にそう思った。
僕は野球のポジションはライトと決まった。右打者が多い事情もあってまずライトにボールが飛んでくる可能性は少ない。右打者が普通に打てばレフトにボールは飛んでいくのだ。
右打者が流し打ちを狙ってくるとか、そういうのは本当に野球部のメンバーの中でもさらにうまい人くらいだろう。だからボールを後ろに逃さなければ、まず大きな被害にはならないのだ。
僕はベンチ待機だけあってボールが飛んできた場合「身体で止めろ!」というのをずっと言われていたので普通にそれができる。
それしかできないというのが本当のところなんだけどね! とりあえず、ゴロが飛んで来たら落ち着いて座りグローブで身体を守りつつ、前傾姿勢で身体全体がグローブだとでも言わんばかりにボールに
こうしてボールが絶対に後ろに行かないようにする。軟式のボールだから当たったってたいして痛くない。特に試合中なら緊張やら、やってやるぜ感で脳内にドーパミンがでまくってるせいか全然痛くない。理屈はよくわかんないけど人間そういうもんである。
練習中にできないことが本番中にできるなんてことは素人にはありえる訳がない。だから練習の段階からできるように頑張る。頑張ってるみんなの足だけは引っ張りたくはないのだ。
みんなのためであり、最終的には自分のためだ。自分のせいで負けたという状況は避けたい。後ろ向きな理由ではあるけれど、やる気は出ているのだからそれで充分だと僕は思っている。
その後も練習は続く。フライは前に落ちる打球はそんなに処理するのは難しくない。素早く落下地点に行って取る。それができなければ身体でアタックである。前に落とせばいい。
打球が前にくるか後ろにくるかの判断はバットで打った時のボールのあがるスピードで判断するしかないかなぁと思う。そこを判断できるようになるのがフライを取る練習の目的だと思う。
ヤバいのは後ろに飛ぶボールである。後ろに走りながらフライのボールを見失わずに取る。これがなかなかに難易度が高い。
そもそも後ろに飛んでいくボールだから勢いがあり、そして速い。ボール見ながら後ろ走りしていたら、ボールの落下地点に間に合わずホームランコースになってもおかしくない。
かといって全力で後ろをまったく見ずに走ると、今度はボールがどこを飛んでいったか分からないという事態になる。勘頼りで走るとボールを見失って、ホームランを生んでしまうという訳だ。
だから、後ろへ飛んでいく打球を取るには、まっすぐ落下地点へ走りつつ、身体は半身なって後ろを見ながらなるべく速く走る、という技術が必要になるという訳だ。
これはもう100回でも、1000回でも、それこそ毎日でもやって身に付けるしかない。これが苦手なんだよねぇと思いつつ、僕はひたすらボールを追いかけるのだった。
「ちゃんと練習してるね!」と東海林さんは明るく話しかけてくる。
「真面目に頑張ってるねぇ」と前田さんは揶揄い口調だ。
「それはみんなやる気になってるのに、足を引っ張りたくはないですからね!」
「「えらいえらい」」
2人してハモってた。
「でもほんとに五十嵐君って野球できるんだね!」と東海林さんは感心してた。
「僕は少年野球でちょっとかじってましたしね」
「昔とった
「僕もプロ野球の選手になりたいっていうのが夢だったんですよ」
「「なるほど」」
2人はそろって頷く。
「その頃って本は読んでなかったの?」と東海林さんが聞いてきた。
「ちょこちょこ読んでたんですけどね。その夢が叶わなかったので、色んな物語を読んでるうちにどっぷり本にハマったという訳です」
「なるほどね~」
「人に歴史ありだね~」
なんて東海林さんも前田さんも笑ってた。
「今回の体育祭は頑張りたいです。みんなやる気があるのはこの自主訓練の参加者の多さをみれば明らかです」と僕は話した。
「目指すはチームとしての勝利!」と前田さんは掛け声をかける
「「そしてクラス別優勝!」」と、僕と東海林さんハモる。
「「「頑張りましょう! 勝つまでは!」」」
と僕たちは気合を入れるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます