第16話 体育祭の準備編④

「男子、野球!」

「女子、ソフトボール!」


 先生が適当にメンバーを割り振って試合開始だ。僕は追い詰められていた。真面目にこれがダメだと、どこに参加したらいいのやら。ボール飛んでくるな! と心の中で叫びながらプレーした。


 僕はライトを守っていた。内野じゃないからボールはあんまり飛んでこない。でもボールが飛んできて後ろに逃せば、走者一掃のホームランにすらなりえる。


 外野とはそういうポジションだ。それでも下手な人は外野に配置しないといけない。内野に下手な人を配置したらそれこそ、その人が原因で負けてしまう可能性があるからだ。


 そして「カーン!」といい音がした次の瞬間は、僕にめがけてボールが迫ってきていた。打った瞬間走り出し、飛んできたボールの下に移動する。そしてすんなりボールは僕のグローブの中に収まっていた。


 そして僕はピッチャーにボールを投げた。試合は続く。


 次の打者も僕のところにボールを飛ばしてきた。そのボールの勢いを見て、ボールの落下してくる位置を予想して移動した。そして僕のグローブの中にボールはストンと収まった。


「「「ナイスー!」」」


 みんなから褒められる。こ、これは……野球はもしかしていけるんじゃないか!? 思ったよりいける、と手ごたえを僕は感じていた。


 僕は打っても「カーン!」といい音を出してボールは勢いよく飛んで行った。誰が驚くって打った自分が一番驚くっていうね!


 僕の打球は2塁打になって、1点入った。マジでいけるじゃないか! 少年野球の頃のベンチ待機はなんだったんだ? と思うレベルで僕は野球ができていた。


 小さい頃、ベンチ待機でプロ野球選手の夢は諦めた。ベンチ待機でも小学生の間はへこたれずしぶとく続けた。きっとそのおかげだ。試合にはでれなかった少年時代だけど頑張って良かったってつくづく思った。


 何が人生、役に立つか分かんないもんだ、と外野にボールが飛んだのをみて3塁に走り、そのまま一気にホームベースまでたどり着き1点が入る。


 僕の走るスピードでも間に合うくらいだ。よっぽどいいところへボールを打ってくれたんだろう。そして練習試合は僕たちのチームが勝利した。


「すごくない? 五十嵐君って野球はこんなにできたんだ」と東海林さんからめられた。


「意外。他の球技はてんで勝負にならなかったのに野球だけはできたんだね」と前田さんはころころ笑う。前田さんはさらに


「五十嵐君いいよ! 意外性が良い! どんな活躍を見せてくれるか楽しみにしてるよ!」

 

 なんて、にやにや笑いながら監督みたいなことを言っていた。


 そこまで言うならと、今度は東海林さんと前田さんのソフトボールの腕前をみることにした。


 東海林さんは正直あんまりうまい方ではなかった。東海林さんは僕とおなじライトを守ってた。ボールが飛んできたら内股になり、グローブを前に突き出して目をつぶってるのをみるに、ソフトボールではド素人かもしれない。そういうレベルだった。当然、ボールは東海林さんの後ろに飛んでいった。


「ごめ~ん」


 東海林さんは謝りながらボールをセンターを守ってる人と一緒に取りに走ってた。疲れたのか東海林さんは座りこんでいた。「頑張れー!」と僕は応援する。


 たいして前田さんは好きなものをソフトボールと言ってただけあって、無茶苦茶うまかった。普通の男子よりよっぽど戦力になる。つまり僕より戦力になる。そういうレベルだった。


 前田さんは運動系は何でもできる系か! と僕は今までの競技をみた結果そう思った。


 そして「カーン!」と一際、大きな音がした。音がした方を見ると、それは蓮野内君が打ったボールの音だった。蓮野内君は悠々ゆうゆうとベースを一周する。


 なんでこんな規格外の人がうちの学校にいるの? と思った。本当によく分からん。蓮野内君って何でもできるじゃんって思った。


 イケメンで高身長で勉強ができて運動もできてお金持ちだと? なんだ、銀座の高級物件かこの人は。東海林さんにだけはポンコツなのか。それが逆に女性陣の母性本能を刺激している状況なのか!?


 毎度のことだけど勝ち組の蓮野内君を、僕が心配するのはおこがましいってもんだ。蓮野内君の心配なんて僕がしなくても、蓮野内君は充分生きていけると思考を止めることにした。



「今日はお弁当をドカ弁にしてきたのよ! 運動するのは分かってたしね!」


 東海林さんが取り出したのはすんごい大きな弁当箱だった。この大きさってば弁当箱としては規格外だ。しかも、のり弁だ。そしてお弁当の定番の鮭ですよ! 僕は鮭が大好き人間だったりする。レンコンと人参が甘辛の味付けでこれまたいい感じ。ほうれん草のお浸しまでしっかり入ってる。ひゃっほうと僕のテンションは上がりまくる。


 色どりも鮮やかだ。海苔の下は醤油が染みこんだご飯ががっつり入ってた。丁度いい塩梅あんばいだ。この醤油のさじ加減が難しいんだよなぁ、と思いながら、がつがつ頂いた。


 僕は醤油をかけすぎてしまうところがある。つまり僕がのり弁を作るとご飯の下の方は醤油の海になっているという有様だ。それがないだけで僕としてはありがたい。


 梅干し、たくあんも健在だ。箸休めとはいうけれど、カニカマとキュウリの酢の物が入ってて女子高生がこんな玄人ぽい酢の物のおかずを作るのか!? と東海林さんらしからぬオカズの意外性に驚いた。


 けれど考えてみれば家族の分も作ってるって言ってたから、たぶん東海林さんのお父さんの好物なんだろうなぁと思ってありがたく頂いた。


 僕のお腹は満足だと訴える。どか弁をしっかりと平らげた。


「ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした」

「夫婦か」って前田さんがツッコミを入れてきた。

「「たはは~」」

 なんて2人そろって笑ってた。

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