第15話 体育祭の準備編③

 さて適当に先生がメンバーを選んでお試しだ。


「バスケットボール!」


 ボールを使った競技はそこそこできると過去の経験が教えてくれていた。戦力外の足手まといってことはないだろうと思いたい。足の速さは戦力外だったけどね! 


 そこそこ動けた。部活で頑張ってる人には歯が立たない。けれどまったくどうしようもないって程じゃなかった。


 そこは、ほんとに救われた。


「思ったよりできるんだね。五十嵐いがらし君」と東海林さんは褒めてくれたと考えよう。

「だねぇ。バスケは正直ダブルドリブル連発して、反則で相手ボールってなるんだろうなと思ってた。意外」


 前田さんもひどい言いようだ。ドリブルできただけで思ったよりできた扱いとはこれいかに。シュートを入れたらヒーローだなぁって思ってた。


 ゴール前で僕にボールなんて飛んでこないけどね! みんな分かっていらっしゃる。


 そこは僕も納得の判断だ。僕なんかよりバスケ部の選手に回した方が確実に点を取ってくれるだろう。


 僕のプレーはひどい言われようだったので、東海林さんと前田さんがどれだけ動けるか見てみることにした。東海林さんはボールの扱いは僕より上手かった。世の中って理不尽だね! しかも両手でボールを投げてシュートもちゃんと決めていた。


 東海林さんは僕より足は遅いけど女子のなかでは普通くらいの速さだ。それでボールも扱えるならこれは充分に戦力になるレベルだった。


 前田さんは? と思ってみてみたところもっとすごかった。ドリブルしてレイアップシュートで華麗に点をとっていた。マジか。二人とも僕よりよっぽどできるじゃないか。


 これは想定外だ。東海林さんと前田さんを素直に僕は称賛した。


「2人ともすごいですね~」

「ざっとこんなものよ」と前田さんは当然とでも言いたげだ。

「私もバスケはできるのよ」と東海林さんも自慢げだ。


 黄色い声援が聞こえるなと思ってそちらを見てみると、蓮野内はすのうち君がスリーポイントシュートを綺麗に決めていた。ほんとに何者なんだこの人は?


 こんなにできる人だと知っていたら、中間テストの勝負は受けていなかったなと思った。無知ってたまには役に立つね。無謀って意味でね!


 これを見る限り蓮野内君に勝てる訳がないと思うから、東海林さんをみんな遠巻きに見てるだけで話をしたくてもできない。そういう構図だったのかなーと思った。



「バレーボール!」


 バレーボールのお試しも、先生が適当にメンバー振り分けてお試しだ。よっぽどすごいスピードのボールが来なければ、レシーブはできた。スパイクは無理だった。


 サーブは問題なかった。ボールを下から打って相手の陣地に入れるって意味でね! 腕を振り下ろしてサーブは無理だった。戦力としては微妙かなぁと思った。


「バレーボールもそこそこいけるんだね」と東海林さんの評価は甘くしてくれているのだろう。 

「絶望的ってレベルじゃなかったねぇ」と前田さんはため息をつく。

「戦力として考えれば他の人の方ができる人いそうですよねぇ」と僕は答える。

「「そうねぇ」」と2人の息はそろってた。


 東海林さんはバレーボールもそこそこできるみたいだ。ちゃんとサーブもレシーブもできてたしね。前田さんは腕を振り下ろしてのサーブ、レシーブ、そしてスパイクもできる人だった。回転レシーブまでしてピンチを救ってたからバレーボールもできるということで間違いない。


 その隣のコートでは蓮野内君がジャンピングサーブを華麗に決めていた。黄色い声援が飛びまくる。どうなってるのと僕は呟く。


「蓮野内君ってあんなに規格外の人だったんですか?」

「そうだよー。だから楓に話しかけてくる男子なんている訳がなかったんだよ。いても勝負申し込まれて負けてたわね」と前田さんはニヤニヤしている。


 呆然ぼうぜんとしている僕にポンと肩をたたき

「まぁ、頑張れ!」

 と僕の肩をたたいて前田さんは笑いだす。これは前田さんは完全に他人事だなーと僕は思った。オモチャですね、この状況は。僕の無知が招いてしまった丸裸ということか。



「卓球!」


「卓球はどうなの?」と東海林さんは聞いてきた。

「授業でしてたくらいですねぇ」と僕は答える。

「じゃぁ、温泉卓球くらいのレベルか~」と前田さんも答える。

「そうですねぇ」と僕もうなずく。


 先生が適当に対戦相手を指名して対戦開始だ。ポーン、ポーンと山なりのピンポン玉が行ったり来たりしている。相手も僕と似たり寄ったりだ。いつまで経っても勝ち負けが決まらない。ある意味このレベルだと珍しい状況だった。


「ピンポン玉を確実に返せるくらいの実力はあるんだねぇ」と前田さんは冷静に分析する。

「でもこれくらい続くなら、ほんとの初心者よりは強いよね。頑張れ!」と、僕の腕前をフォローしてるんだかしてないんだか分からないことを東海林さんは叫んでいる。


 東海林さんの打つピンポン玉は山なりではない。僕より鋭い。前田さんに至ってはカットマンだった。意外だった。玄人好みの技巧派か! と僕は心の中で叫んでた。前田さんは卓球では、いぶし銀だ。


 そして湧きあがるひときわ大きい黄色い声援の原因はやっぱり蓮野内君だった。卓球部員とフォアドライブの応酬をしていた。ピンポン玉が速すぎる。爽快そうかいともいえるくらいピンポン玉の残す綺麗な軌跡きせきと一定のテンポはマジで規格外だ。


 体育祭では同じクラスだから味方でほんとによかったなって思った。去年も一種しか参加してなかったし、直接見たことなかったから全然知らなかった。体育祭では黄色い声援はあちこちであがってたしなぁ。


 なんというかほんとに1種目でいいから貢献できる種目を真面目に考えないと、これはまずそうだと僕は思ったのだった。

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