第2章 体育祭
第13話 体育祭の準備編①
「席につけー。それじゃぁ、1ヶ月後のメインイベント。体育祭の話し合いをするぞー」
バンバンと出席簿で机を叩き、皆を静かにさせて先生は話しだした。体育祭はあんまりしたくないなぁと僕は思っていた。
本の虫である僕が運動神経も抜群で、どんな競技でも大活躍しちゃうなんて、そんな話はないだろうという訳だ。
できれば帰りたい。いや、むしろ体育祭の当日に休みたい。なんて考えていた。
僕の運動スペックは女性の不良グループから、階段から職員室前まである程度の距離を取らないと、負けるかもしれないと自分で思うくらい足の速さは普通だ。子供のころは公園で遊んでたくらいで運動神経もそのあと必死に鍛えてない。
小学生の頃、両親に勧められて少年野球のチームに入れられて頑張った。僕も幼い頃はプロ野球選手を夢見たこともあったのだ。けれどもそのチームではベンチ待機だった状況だ。小学生で僕の夢は一度、敗れている。だから投げる打つもたいしたことはない。
そんな僕に何ができるっていうのかねぇ、なんて思ってた。
話し合いでは競技の種目の確認と誰がどの競技にでるかを話をしていた。
「俺は野球に参加したい」
「バレーボールなら任せろ」
「俺はバスケが得意だ」
「運動できるやつしか意見がでないじゃないか、他に俺がってやつはいないのか?」
「誰がどれだけ、どの競技ができるか? って実際やってみないと分からないと思うのよ。だから時間をとってみんなの運動能力を調べてから判断するのが良いと思うの」
と、かなりいい感じの結論をだしていた。
「言われてみれば確かにそうだな」
「「「賛成!」」」
鶴の一声というのかな? 前田さんの意見でまとまる話の流れになった。今度ホームルームや放課後の時間を使って色んな競技をちょっと調べてみようと決まった訳だ。
◇
ところが、死んだ魚の目をしていたはずの蓮野内君は体育祭の話をきいて、やたらやる気が
あれは獲物を狩る肉食獣の目だ。えっ!? 何々、蓮野内君って運動もできるの? どこかの西洋のヒーローじゃないか!? スペック高すぎだろう、と警戒していたらやっぱりだった。
「五十嵐! 俺と体育祭で勝負しろ!」
蓮野内君は自信満々で言い出した。
「やですよ。僕は本の虫で運動系は苦手だから。負ける勝負はしないんです」と僕はあっさり断った。蓮野内君は絶望しているようだ。
「なら期末テストで勝負だ!」
「やですよ。僕は中間テストの勉強で本を全く読めなかったから、期末テストまでは好きに本を読みたいんです」
僕の意見にショックを受けたのか、蓮野内君は床に手をついてうなだれる。これは土下座に見えるけど違うよね? なんてちょっと心配になった。まぁさすがにそこまでしないよなぁって思った。
「頼む! 俺と勝負してくれ! このままでは俺は
「そうなんですか?」と隣にいた東海林さんに聞いてみた。
「そういえば全く話しかけてこなかったわね。平和だったわ」
思わずぽろりと本音が出たみたいだ。聞かなかったことにした方が蓮野内君のダメージは少ないだろう。僕はあえて東海林さんの話には触れず話を進めることにした。
「そういう訳だから、蓮野内君も挨拶くらいはしたらいいんじゃないです?」
「俺は光り輝く東海林さんと話がしたいんだ! 挨拶だけじゃ不満だ!」
蓮野内君は拳を握りしめて力説する。どこかの特撮ヒーローじゃないんだからさ、と僕は内心
「話せばいいんじゃないですか? 僕は蓮野内君との勝負に負けても、話しかけてもいいってことになってましたよ。それを東海林さんに了承もらってましたから、負けても話す気満々でしたよ?」
それでも負けてたら、東海林さんと前田さんの力を借りて、蓮野内君に謝るつもりでいたけどね、と内心こっそり
でも約束をきちんと守って勝負を挑んできたのは、個人的には高評価だ。本と偉人たちはすごいんだと言えた僕は特に不満を感じていない。
「僕は本が読みたい。蓮野内君は東海林さんと挨拶も話もできる。東海林さんはそもそも勝負がどうこう気にしていない。三者ウィンウィンですよ」
東海林さんは何度も頷く。それを見て蓮野内君は目が点になってる。
「むしろ蓮野内君が東海林さんと話しをするのに僕の許可が~とか勝負が~とか言ってたら、それこそ僕の評価が大暴落ですよ。そう言う訳です。気にしないでください」
狐につままれたような顔をしている蓮野内君を一人残して、僕は
東海林さんは何事もなかったかのごとく、僕のあとをついてきた。そして図書室に着いた僕は中間テスト前に読んでいた本を一冊、手に取りいつも座っていた席について本を読み始める。
東海林さんは何か本を選んで、僕の隣に座って本を読みだした。それをみて不思議に思った僕は東海林さんに小さな声で話しかけた。
「東海林さんも図書室がお気に入りになったんですか?」
「うん。興味のあることがでてきてね。調べてみようと思ったんだ」と東海林さんも小さな声で答えてくれた。
「なるほど。それはいいことですね」
「うん!」
なんていって東海林さんは微笑んだ。ちょっとその不意打ちの笑顔に僕はドキドキしていた。僕は平穏を取り戻し、図書室で東海林さんと一緒の時間を過ごしたのだった。
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