第12話 五十嵐 琢磨とスクールカースト

 正直、昨日の話は参った。本を読んでも考えることは昨日の東海林しょうじさんのことばかりだ。どうしたものかね、これは。と授業もすべて終わった教室で考えていた。


「じ、じゃぁ、また明日ね。五十嵐いがらし君」

「そ、そうだね。東海林さん、また明日」


 僕たちはぎこちない挨拶をする。


「何々? 君たちはいつからそんなよそよそしい挨拶しかできなくなったんだい?」と前田さんは笑い転げる。昨日の話は相当インパクトがあったらしい。ツボにハマったと笑っている。


「だって、あんな自慢げに話してたのに、王子様が目の前にいるのに気づいてないんだもん!」


 前田さんはお腹を抱えて笑っている。


「昨日のかえでの真っ赤になった顔も、いいねボタンあったら押しまくりだよ。10回連打しちゃう勢い! ん~~もう! ほんとに可愛い!」


 前田さんは机をたたいて笑いまくってる。10回押したらキャンセルされて、5回も通知が行くのに何もしなかったことになるんだよ? と僕は心の中で前田さんにツッコミを入れる。


 ますます顔を赤くする東海林さん。照れてる東海林さんなんて滅多めったに見れるもんじゃない。そう考えれば照れまくりの東海林さんも見れて、これはこれで楽しいなと僕は思った。


「もう、知らない!」と東海林さんは教室から出て行ってしまった。

「待ちなさいって、楓! 話せばわかるから!」


 前田さんはにやにやした顔を隠さず東海林さんを追いかける。こりゃ、当分前田さんのオモチャだねぇと僕は思った。


 二人が教室から出て行った後で、佐藤さんと鈴木君が話しかけてきた。


「五十嵐君、話があるんだけど、ちょっと来てくれない?」

「はいはい。なんですか?」と僕はホイホイついて行く。



 なぜか校庭まで連れていかれた。これから何が起こるっていうんですかね? と思っていたら鈴木君は腕を組んで話しだす。


「お前さ。最近、目立ちすぎ。学年1位ってどうせカンニングでもしたんだろう?」

「そうよ。今まで100位にすら入れなかった人が、いきなり1位なんて取れる訳がないじゃない。おかしいわよ」

「そうさ。お前はその他大勢のグループがお似合いだ。特にお前はいっつも一人ぼっちで最低ランクだったろうが!」


 よく分からないけど何か怒っているんだろうか? これは。


「クラス内にはランクがあるんですか?」

「あるのよ! スクールカーストっていうの! 君はそんなことも知らないの?」


 言われて僕は考える。大抵一人で図書室にいて本を読み、一人で勝手に妄想していた僕だ。そんな僕にはランクなんて関係ないと思ってた。


 関係ないから最低ランクなのか!? だとしたら納得だ。


「お前は最近、東海林さんと話すようになっただろう。親友の前田さんも。蓮野内だってそうだ。みんなスクールカーストでいえばトップレベルなんだよ! それなのにお前みたいな奴がいきなりでてくると目障りなんだよ!」


 つまり僕の評価は最低ランクだけど、東海林さんも、イケメンでお金持ちな蓮野内君も。当然、東海林さんの親友の前田さんも、なんということでしょう。みんなスクールカースト高い勢だったらしい……知らんがな、そんなの。


「で、話はなんなんです?」


 どうしていいのか分からなかったので聞いてみた。


「だから目障りなんだよ! 目立つなよ、お前はそんな人間じゃなかっただろうが!」


「目立とうとしてる訳じゃないですよ? 東海林さんに話しかけられたから話しただけで、蓮野内君も勝負を仕掛けられたから応じたまでで」 


「だからさ。おま……」


「五十嵐君、どうしたの?」と話しかけてきたのは東海林さんだった。


「東海林さん!?」と鈴木君は一歩退く。

「なんでここに!?」と佐藤さんは声を上げる。

 ビビっているのは佐藤さんと鈴木君の2人だ。


「五十嵐君、もう話は終わったの? さぁ、一緒に帰ろう。鞄も持ってきてあげたよ。感謝してね!」

「ありがとうございます。じゃぁ、そういうことで僕はここら辺で失礼しますね」


 口をあんぐりあけている佐藤さんと鈴木君を残して、東海林さんと一緒に帰ることにした。



 学校から離れ、佐藤さんと鈴木君が見えなくなってから


「助かりました。東海林さん、ありがとうございました」と僕はお礼を言った。

「大丈夫、大丈夫。不良グループに比べればあのくらい全然ね!」と東海林さんは話してさらに続ける。


「平気、平気、全然平気。教室に戻ったら五十嵐君いなくなってて、佐藤さんと鈴木君に連れていかれたとか聞いてね。心配になったから念のため。私が鞄を持ってれば、きっと君は帰れないだろうって思ってね」


 と東海林さんは手をひらひらさせて笑いかけてくる。


「一緒に帰りたかったし、恩はちょっとでも返しておかないとね!」


 と言って、胸の前でぐっと東海林さんは両手を握りしめる。親指が見えるように手を握ってた。まぁ普通はそうだよねぇ、なんて思ってた。


 けれど一緒に帰りたかったって言われてちょっと照れる自分と、嬉しさを隠しきれない自分にも気がついた。僕は照れ隠しも含めてさっきの話をする。


「スクールカーストなんてあるんですね。僕は最低ランクらしいです。東海林さんは高いそうですよ」


 僕は盛大にため息をついた。


「気にしてたら、なんにもできなくなるから気にしなくていいよ。そんなの」

「ですね~」

「そうそう。ゆるふわ頭で考えるくらいでちょうどいいのよ」

「ふわふわ頭には自信があります」

「ふわふわすぎてもね~」


なんて言って、東海林さんはにこにこ笑っている。


「でも蓮野内君って人気あるんですね」と僕は呟く。

「イケメンで勉強もできて高身長でお金持ち。モテる条件が全部そろってるわね」


 東海林さんは真顔になる。


「このまえ東海林さんに絡んでた不良グループも、蓮野内君が目当てだったみたいですしねぇ。なんであんなに人気なんですかね?」

「私に聞かれてもねぇ? 蓮野内君って私に迷惑しかかけてこないわよ?」

「東海林さんが絡まなければ好青年ってことなんですかね~?」

「照れるね~、たはは~」


 なんて話してたら東海林さんのマンションに着いた。


「じゃぁ、送ってくれてありがとう! また明日ね!」

「はい。また明日~」


 東海林さんを家に送り届けた後で、僕は家路を急ぐのだった。

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