第11話 五十嵐 琢磨と東海林 楓の想い出
僕は幼いころ公園に遊びに行っていた。色んな子が遊んでいた。みんなが帰った後、いつも一人で遊んでる女の子がいたのだ。
もうあたりは夕焼けで赤くなっていた。でもその女の子のお父さんも、お母さんも、誰もその子の迎えはこなかった。残された僕とその女の子は、いつの間にか遅くまで遊ぶようになっていった。
ブランコをひたすら高くこげるか競って遊んだ。これは得意だったから女の子に負けたことなかった。
滑り台をひたすら登ってはすべりおりる。ジャングルジムで鬼ごっこもした気がする。僕はジャングルジムの鬼ごっこは自信があった。するすると逃げ回り結局、その女の子が諦めるまで続いた。
女の子が諦めると回転ジャングルジムで女の子の目が回るまでくるくる回したりしたものだ。
小学生5~6年くらいの大きな男の子たちに一回、僕たちは絡まれたことがあった。
「こんな時間まで遊んでるのか? 女と遊んでるなんて生意気だ。根性叩きなおしてやる」
と言われ、訳も分からず殴られた。体格も違うし力も違う。幼いころの成長差は1年ですらかなり大きい。僕は殴られたし蹴られた。それでも女の子が殴られないように守った。
ボロボロにされたけど女の子が「助けて!」と、大声を出したことで大人がやってきた。それを見たら僕を一方的に殴っていた男の子たちはみんな逃げ出した。
女の子は僕の顔や腕、足、あちこちから血が出ているのを見て泣いていた。僕は女の子を守らなきゃとそれだけを考えていた。
けれども、その騒動があってから女の子は公園に遊びに来なくなった。
◇
僕は夢から目覚めた。昔の懐かしい記憶だ。なんで今になって夢に見るかねぇと思った。「なんで今更~、思い出すの~」なんて適当な曲にのせて鼻唄を歌ってご飯を食べて学校へいく。平常運転だ。母さんは
「今日はご機嫌ね~」
なんて言ってた。殴られたうえに蹴られてボコボコにされた夢を見たんだけどね! 昔の話だし、まぁ、いいやと僕は思った。
◇
さて教室についた。早々に
「おっはよー、
「おはよう、東海林さん。今日も元気だね~」
「私は元気だよ!」
グッと左手をサムズアップして見せる。右手も握っているけれど、親指を四本の指で隠していた。普通は親指が見えるように手を握りそうなもんなのに、変なのって思って僕はみてた。けれども、元気そうな姿をみて
「それは様子を見れば分かる!」
と僕は笑った。東海林さんは
「そうそう、むか~しなんだけどね。すっごい男の子がいたんだよ! 私の王子様だったんだ」
「なになに何のお話? 恋バナ?」と前田さんもやってきた。
「そうなのよ! 聞いてよ
懐かしそうに東海林さんは話してた。僕は東海林さんの幼い頃のお話に興味津々である。
「私がポツンと一人でいつも遊んでたら、そこに男の子がいてトコトコ走ってきて、『みんな帰っちゃったから一緒に遊ぼう』っていってくれてね」
「何その勇気ある子。そんな子いたんだ? それでそれで?」と前田さんは相槌を打つ。
「ほんとに楽しくってね。ジャングルジムで鬼ごっこしたり、私が頼んだら回転ジャングルジムを走ってぐるぐる回してくれたりね」
「それでイケメンなら惚れちゃうね~」と前田さんは、にやにや笑っている。
「で、ブランコにのってどっちが高くまでブランコを高くこげるかとか競ったり本当に楽しかったんだ」
ちょっと待ってくれと内心、僕は思った……どういうことだろうか、これは?
「でもね。ある時小学生5~6年くらいの男の子たちが絡んできてね。私は怖かった。震えて何もできなかったの。でもその男の子は体を張って私を守ってくれたのだよ! どうよ! この男の子の雄姿は!」
「憧れちゃうね~、恋に落ちちゃうね~」と前田さんは、ころころ笑う。
「でもね。そのあと両親が私が公園にいくのを許してくれなくなっちゃったんだ。だからそれっきりあの男の子と会えなくなっちゃってね。あの王子様、ほんとに今どうしてるんだろうな~?」
「いいお話だね~。子供のころの甘酸っぱい想い出か~。いいね~」と前田さんはうんうん頷いてる。
東海林さんは胸を張って
「どうよ。私とその男の子の仲の良さにグゥの音もでないでしょ?」
東海林さんは自慢げだ。それに対して僕は目が点になっていた。ちょっと待ってねと僕は考える。そして東海林さんに聞いてみる。
「その男の子はいつも青いシャツを着ていて、半ズボンでジャングルジムで鬼ごっこしてたら、ほとんど捕まったことなかったんじゃないです?」
「そうそう。よく分かるね」
「その後、回転ジャングルジムに女の子をのせて、その子が目が回るまで回し続けたんじゃないですか?」
「え……なんでそれがわかるの?」
東海林さんは僕を
「ついでにいうならブランコに乗ってどっちが高くまでこげるか競って、その男の子は女の子に負けたことがなかったんじゃないですか?」
「な、なんなの? 君エスパーなの?」
僕はちょっと悩んだ後、
「それ……たぶん僕です」
と東海林さんに正直に言った。
「えっ。本当に? あの時の男の子は五十嵐君だったの!?」と東海林さんは慌てふためく。
「なになに、想い出の王子様は今の王子様だったってこと? きゃ~~、すごいな~。憧れちゃうな~。ほんっとにいい話ねぇ」
なんて言って前田さんは笑い転げている。盛大に自爆した東海林さんは、顔はもちろん耳まで真っ赤にさせていたのだった。
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