第10話 運命分ける中間テスト
そして先生が
「席につけー。これから試験だぞー」
と言って教室に入ってきた。僕はぎりぎりまで粘って、コピー用紙の内容を頭に叩き込んでいた。
1日目、まず日本史の試験問題と解答用紙が配られ中間テスト開始だ。
同じ日に実施された世界史に関しても問題集を解いた。ある程度解答を覚えたくらいから教科書の単語を赤マジックで塗りつぶし、緑のシートをかぶせれば赤マジックの部分が黒くなりそのまま問題集になった。それをひたすら繰り返した。
1日目に日本史と世界史を両方実施してくるのは生徒への嫌がらせかと思った。けれど、中間試験の範囲は教科書の単語を漢字も数字も含めて最後は全文を丸暗記だ。だから日本史と世界史に関しては試験が終わった後で負ける気はしなかった。
2日目、英語はとにかく単語のつづりのミスに気を付けた。注意不足のもったいない間違いは
2日目の英語と一緒にテストをした国語も、3日目の実施された理科も、基本的には問題集そのままの問題もいくつか出題されていた。サービス問題だと思って解いた。さくさくだった。だからこそもったいない間違いがないように気を付けた。
そして3日目、最後の科目である数学の試験用紙と解答用紙が配られた。今までの科目は上手くいってる。だからこそ、ここが勝負の分岐点だと考えた。そして試験開始のチャイムが鳴り響く。
まずは問題の確認だ。手に負えない問題はないかをまずは確認する。ざっと見た感じ全く分からない問題はなさそうだった。
あとは一つ一つ確実に解いていく。計算間違いをしないように、解答欄を間違えないように、そして順調に解いていったけど、最後の問題でつまずいた。
僕はこれはまずいなと思った。純粋に時間が足りない。この問題の完全な正解は無理だ。だから僕は今まで解いた問題に、間違えがないか確認した。
すると一つ選択肢を間違えて、記入していた問題を発見した。本当に間違えているかどうか確認した上で解答を記入しなおした。他はできてる。
あとはラストの難問だけだ。
記述式のややこしい問題だった。でも……と考え時間がある限り挑む。記述式なら途中までしか解いてなくても、部分点がもらえる可能性はある。
それに賭けるしかなかった。僕は教科書と今まで解いた問題集の中で、似たような問題を思い出しつつ最後まで
そして試験終了のチャイムが鳴り響く。最後まで解くには時間が足りなかった。最後まで書けなかったのが悔やまれる。
でも僕は6つの試験科目に全力を尽くし、満足していた。これで負けるようなら蓮野内君に謝るのも仕方ないかなって思ってた。
でも負けたらいけないとは言ってないのだ。
そこは心意気ってやつである。数字って奴は良くも悪くも、勝ち負けを明らかにしすぎる。椅子の上で背中を伸ばしながら、どこまでいっても無情だよなぁと僕は思うのだった。
◇
そして試験結果の発表のときが来た。ドキドキだ。2ヶ月の努力の結果がでてしまう時だ。
誰が考えたんだ、この迷惑なシステムと思う。けれど今回に限っては話は別だ。嘘の申告はできない。ここが最強だ。蓮野内君が
「俺の主要六科目の合計点は600点だ! フハハハ」
とか言い出しかねない。蓮野内君……ほんとに言ってきそうだよなぁ。
まぁ、そこは別にいいとして学校側の公正な発表だ。不正の入る余地はない。ここが一番大切だ。
そして怖かったので100位から僕の名前を探していく。そこへ
「よっ! 五十嵐君どうだい? 今回の試験結果は?」
にひひと笑いながら話しかけてくる。
「もう、心臓バクバクですよ。怖くてあんまり見たくない」
「そこまで緊張するものかねぇ?」
「かけた時間と努力は緊張感に比例するんですよ。頑張れば頑張ったほど緊張しちゃう、と今回の試験で初めて知りました」
「試験終わった後で?」と東海林さんはのほほんと話す。
「もちろん試験中も緊張しますけど、試験結果もおなじですね。僕の場合は」
東海林さんとそんな話をしていたら、蓮野内君もやってきた。
「お前には弁当の恨みもある。絶対に負けないからな!」と蓮野内君はものすごい気合の入りようだった。そうはいうけど、僕だって頑張った。最後は自分を信じるのみだ。
とりあえず50位までは僕の名前も蓮野内君の名前もない。祈るような気持だった。ある意味、順当な結果でもある。
40位、30位、20位、10位、ここまできても僕と蓮野内君の名前は見つからない。上位10位以内か。
やっぱり勝負仕掛けてくるだけあって負ける戦いはしてこないんだなと思った。蓮野内君は勉強が得意分野だったということだろう。
僕は基本的に本好きなだけで、勉強を必死になってやったのは今回が初めてだ。当然、上位に名前が載ったことなんて一度もない。
そして上位5位まで見ても名前はでてこなかった。実は100位より下だったって可能性もあるんだろうか? 僕は不安になってきた。5位谷内、4位佐久間、3位風馬、そしていよいよ次で運命が決まる。ここが本当の分岐点だ!
そして2位の名前を見ると、
「おめでとう! 1位だね、五十嵐君!」
勝利の女神の声がすべてを決した瞬間だった。
1位には
「よし!」
と声をあげる。
でも内訳は僕が583点、そして蓮野内君が577点。わずか6点差だった。まさに数学の選択肢の書き間違いに気づいたこと。最後の問題で部分点を粘ったことで、たまたま勝ちを拾っただけだ。
けれども勝負はついた。隣には口をパクパクさせている蓮野内君が青ざめた顔をして立っていた。
「本と過去の偉人たちのすごさ、身に染みて分かったでしょ?」
と蓮野内君に声をかけてその場を去った。この一言だけはどうしても言いたかった。この一言をいうために2ヶ月かかった。いいんだか悪いんだかと考え込む僕がいた。
今日は静かにお弁当を食べてた蓮野内君だったけど、目が死んだ魚のようになっていた。重症だねぇなんてぼんやり僕は思ってた。
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