第2話 東海林さんの親友兼キューピッド役 前田 華
「おっはよー、
「ああ、おはよう、
よくある教室の朝の慌ただしい時間だ。授業開始ももうすぐだ。
「この前なんだけど五十嵐君、猿田島公園にいたことあったよね?」
「たまに本を読みたいときは、行ってますけどそれが何かあるんです?」
「んふふー。私、見ちゃったんだよね!」
「何をでしょう?」
東海林さんの突然の質問に、なんのこっちゃいなと、いつだか分からないこの前のことを考える。アバウトだなーと思いつつも、公園に行ったときのことを僕は思い出す。思い返すけど特別、これ! といったものと思いつくことはなかった。
「降参です。教えてください」
「よろしい。教えてあげましょう」
なんでこんなに意味深な言い方するのって思いつつも、僕は興味を引かれ答えを待つ。
「五十嵐君ってば迷子になってた女の子のお母さんを、一緒に探してあげてたでしょ?」
遠い記憶を顧みる。赤い服を着てた子かなぁ。そういえばと公園をぐるぐる回って、女の子の手を引いて一緒に探してあげたことあったなぁと思いだす。
「赤い服を着てた迷子の女の子でしたっけ?」
「そうそう! なんだ、やっぱり覚えてるじゃない」
にまにま笑いながら東海林さんは頷いていた。
「それがどうかしたんですか?」
「謙虚なのか鈍感なのか……両方ぽいか。まぁ、いいや。それが私が五十嵐君を初めて見た日なのよ」
「はぁ」
「何よ。その覇気のない返事」
「い、いやだって。それくらい当たり前でしょう? 小さい女の子が泣いて困ってた。僕は本を読んでて暇だった。だからその子のお母さんを一緒に探してあげた。何も変なとこないじゃないですか?」
口を開いたまま固まる東海林さんだ。おかしなこと言ったかな、僕は。
「五十嵐君って、ほんとにいい人っていうか、得意げにならない辺り変わり者なんだねぇ」
しみじみと言った様子で一人で東海林さんは頷いている。
「損得って物の考え方も学んだ方がいいと思うよ? 君は純真すぎて私には
「僕のこと前に爺くさいって言ったかと思えば、こんどは純真ですか? 東海林さんこそ変わり者なんじゃないですか?」
僕は突っかかるように問い詰める。たじたじとしている東海林さんだったけど
「だって五十嵐君ってば、1時間も女の子を連れて歩き回ってやっとのことでお母さん探し当ててたじゃない」
「見てたんですか!?」
「いや『この子のお母さんいませんかー?』って、ずーっと女の子連れて公園を3周位してたら、さすがに誰でも分かるんじゃない?」
そういわれると「確かに」と僕も納得してしまった。そういえばそんなこともあったねぇと思い返す。
「だからなんだよね。君に話しかけたのって。きっかけは廊下でぶつかった時なんだけど、あの時の面倒見の良さを知る私からしたら、相当ずけずけ言っても大丈夫だと思ったんだよ」
東海林さんはニッと笑って見せた。気分よさそうに笑顔を見せる東海林さんとは対照的に、どう答えていいか分からない僕がいた。
そんな話を東海林さんとしていると
「おっはよー、
「おはよー。華は今日も元気だね~」
と東海林さんは返事を返す。前田華さんという小麦色した肌にボーイッシュな短めの茶髪にチャコールグレーの目をした、すらりとした女の子だ。東海林さんといつもよく一緒にいる仲のいいクラスメイトで東海林さんの親友といってもいいのかもしれない。
「あれ、珍しいね。五十嵐君と一緒にいるなんて。おはよう、五十嵐君」
揶揄うような笑みを浮かべる前田さんが東海林さんの脇腹をつついているのがよく見える。お返しだ~と言わんばかりに前田さんの両脇を東海林さんはくすぐり返す。この攻防はいつまで続くのか分からないなと思ったので僕は割り込み
「おはよう。前田さん」と挨拶をする。
「いや、実はね。聞いてよ、華! 五十嵐君に廊下でドーン! ってぶつかって吹き飛ばされてね~。大変だったよ~」と東海林さんが盛った話を展開しだす。
「なにそれ。五十嵐君、楓は乙女なんだからそこらへん考えて優しくしてあげないと! 男なんだから、こう、吹き飛ぶ前に楓を抱きしめちゃうとか! そんなことになったら私が先生にチクって、先生が来て大問題よね。いやー困った困った」
全然困ってなさそうな前田さんと東海林さんの会話を、僕はただ見ていることしかできなかった。女の子のぱわーは凄いなと、そんなことをなんとなく思っていた。
とはいえ、これは東海林さんに何かあったら許さないからね、とやんわりと忠告されてるのかなとぼんやり僕は思った。
「
「
「俺はいつだって変わりません。東海林さんの美しさと比べられたら、
このよく分からないことを言っているのは
でもどうやったらあんな言葉をひねり出せるのか、僕にとっては大きな謎である。あの発想の言葉選びは、僕にはちょっとできそうにない。一種の才能か。うらやましくなんか、ないんだからね!
「おはよう、蓮野内君」と僕は言い
「おはよー、蓮野内君。相変わらずだねぇ」と前田さんも乾いた笑みをみせている。
そんな和やかな朝の1ページに蓮野内君は僕の正面に立ち
「調子に乗るなよ?」
と開口一番、僕に言ってきたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます