順番待ち
梅緒連寸
⬜︎
その人はとても憔悴しきった様子で
「裏切られたんです。女と車に」
と呟いた。
「女に裏切られるのはよく分かりますが、車に裏切られたとは」
「僕はカーセックスがしたかったんです。車と」
「ほう」
「出来るものだと思ってた・・・向こうもそのつもりになってくれているものだと」
「ふむ」
「そしたら・・・そしたらあいつ、おっぱじめようって肝心な時に」
その人はさっきから随分身を乗り出しており、ついにかろうじて捕まっていた欄干から手を離す。
体操選手がひらひらと回っていくように落ちながらその人の叫び声が聞こえた。
「レストアしてくれなきゃ無理、だなんて言いやがって!!」
怨みに満ちた断末魔を飲み込むように靴底よりもはるかに下でおおきな水しぶきが上がった。
ダムに沈んだ村に住民がまたひとり増える。
私はもう少し後でいい。もうすぐ見える日の出の後で。
順番待ち 梅緒連寸 @violence_
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