第8話
おばあちゃんのお見舞いに行って一週間。おばあちゃんの退院のの目処が立って、恵実の夏休みも残り少なくなっている。
明日、恵実は自分の家に帰る。
つまりそれは八尺様とのお別れを意味するというわけで、恵実はいつにも増して自分にひっついてくる八尺様の腕をさすりながら、「私だってやですよぉ〜」と泣き言みたいな言い方で言った。
「ぽ ぽ ぽ」
「ね。もう少しで八尺様の目だって見えそうなのに…」
「ぽ ぽ ぽ ぽ」
「どんな顔してるんですか?八尺様」
サラリと八尺様の前髪をかき分けても、目の形はわからない。黒く靄がかかっているみたいに見えるのだ。
「ぽ ぽ」と言って、八尺様が恵実の手を取る。あれから八尺様は恵実の手を食べるのがお気に入りのようである。手首まで口に含まれて、もにゅもにゅと不思議な感覚。手が口から出されてもよだれらしいものは付いていないから、やっぱり八尺様って人間じゃないんだなぁと実感した。
「でも、来年また来ますからね」
「ぽ ぽ ぽ」
「んーと、やっぱり夏かなぁ。お正月はお母さんの方の実家で過ごしてるし。パパの休みが取れないんですよね、その時期。だから自然とっていうか」
「ぽ」
「八尺様が寂しいって思ってくれてると、なんだか嬉しい」
恵実がクスクスと笑う。八尺様はそれに応えるように、また短く「ぽ」と言った。
「来年の夏、絶対来るから、それまで私のこと忘れないでね」
「ぽ ぽ ぽ」
そして八尺様は、霧がなくなるように姿を消した。
恵実は誰もいなくなった空間に笑顔を向けて、「またね」といって、バッグを持ってママが待つ玄関の方へと歩いていった。
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