第7話

 おばあちゃんが入院している病院へは、おじいちゃんの軽トラで向かうことになる。

 というかおじいちゃんの家には軽トラ以外の車がないので、それしか選択肢がなかったのである。車がガタガタ揺れるたび頭が後ろにぶつかってちょっと痛い。


 道がすいていたのもあって、病院へはなんとか一時間かからないくらいでついた。スマホを持っていない分、時間は軽トラの中についてる電子時計で見れる。

 おばあちゃんの部屋は三階の個室。ママはこの近くにあるホテルに寝泊まりしている。パパも少し前まではそうしていたけど、仕事のために戻ったらしい。


「私もね、平気だ平気だって言ってるんだけどねぇ」

「パパが大袈裟なんだもんね〜」

「ねぇ」


 おばあちゃんに貰ったカルメ焼をぽりぽりと食べながら話をする。

 パパはマザコンで、おばあちゃんのこととなるとなんでも大袈裟に騒ぐ。ママは田舎が嫌だから、今回はあえてパパに従っている。

 実際、おばあちゃんもそれほど重症というわけでもないし、お世話らしいお世話も必要ないから、ママの仕事といえば花瓶の花を変えたり、おばあちゃんの代わりに売店に行くくらいなのだ。


 ちなみにおじいちゃんは、恵実とおばあちゃんが話をする時は、大体後ろの方で見守っている。曰く、そっくりな二人が話しているところは見てて面白いんだそうだ。


「あっ、それでねおばあちゃん。聞きたかったことがあるんだけど、八尺様って知ってる?」

「八尺様?どうしたの?そんなもの急に」

「えっと、坂本のおじいちゃんが言ってて」

「そう…。なんだか懐かしいわ」

「懐かしい?」

「ええ、ほら、うちの近くに神社があったでしょう?少し前に壊れちゃったけど。あれ八尺様の神社だったのよ」

「えっ!じゃあ八尺様って神様だったんだ!?」


 意外…。

 目をパチパチさせて驚く恵実に、おばあちゃんが「そうじゃなくてねぇ」とコロコロ笑う。


「昔はよく子供が行方不明になったものだから、村ではそれを皆八尺様に拐われたんだって言ってたらしいのよ。おばあちゃんも、おばあちゃんのおじいちゃんに聞いた話なんだけどね」

「ふぅん…?」

「それで、八尺様をお祀りして、『その代わりどうかもう誰も拐わないでください』ってするために作られたのがあの神社。だからまぁ、封じ込めるっていうのが正しいかしらねぇ」

「封じ込める、って、なんかやだね…」


 恵実がそう言うと、おばあちゃんが頭を撫でて、「恵実ちゃんは優しいねぇ」と言ってくれる。けれど恵実は複雑な気持ちで、何も返事が思い浮かばなかった。

 おばあちゃんが一度恵実を撫でる手を止めて、何かを言おうとする。

 けれどその前に病室の引き戸が開いて、「あら恵実、来てたの」とママの声がした。


「ママ…あっ、携帯ごめんね…」

「本当よ。後でまた買いに行かなきゃなんないし…。面倒なのよあれ。1日潰れるし」

「うん…」

「あっ、お父さんもお久しぶりです。恵実がご迷惑をお掛けしていませんか?」

「いんや、なんのなんの。聡よりよっぽどしっかりしとるわ」


 聡というのはパパの名前だ。

 ママはよそ行きの笑顔で、「それはよかった」と言った。

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