第4話

 それから。

 八尺様は時々、色んなところで恵実の前に現れた。共通しているのは恵実が一人きりの時ということ。それから屋外であるということ。


 石の階段。この先には元々神社があったのだけれど、この間の大きな台風が原因の土砂崩れに巻き込まれて流されてしまったので、今はこの階段が面影として残っている程度だ。

 辺りにはたくさんの緑があって、ここは少し森を進まないと来れないところにある。恵実と八尺様は、その階段に二人並んで座っていた。


「暑いですねえ」


 木陰になっているけれど、日差しがないわけではない。恵実がそうこぼすと、八尺様は「ぽ」と短く相槌を打って恵実の首に手を当てた。

 「ひゃっ!」とびっくりした声が出る。そんなつもりがなかった八尺様は素早く手を引っ込めて、「ぽ ぽ ぽ」と焦った風だ。

 相変わらず顔は見えないけれど、なんだかだんだん八尺様の考えていることがわかってきた。嬉しい時、楽しい時、焦る時、心配している時。

 悲しくなっているところはまだ見たことがないからわからないけれど、ないならその方がきっといい。


 恵実はさっき八尺様が寄越してくれた手を取った。大きいから両手で。そしてそれを自分のほっぺに押しつけて、「きもちいー…」と目を細める。


 八尺様はきょときょとしている雰囲気。

恵実は「えへへ」と笑って、八尺様の方に近づいた。


「八尺様、暫く影に入れてくれませんか?」

「ぽ ぽ」

「やったあ」


 今度は嬉しそう。

 八尺様はわざと身体を斜めにして、恵実に覆い被さるように恵実の向こう側に手をついた。

 日陰になったのもあるのだろうけど、八尺様の身体が近付いたからか体感温度が一気に下がる。恵実はコテリと八尺様の方に寄りかかって、「はぁ〜…」とリラックスした風に息を吐いた。自然と瞼が閉じる。


「一家に一台八尺様…」

「ぽ」


 今度は戸惑っている様子の八尺様に、恵実がふふふとくすぐるように笑った。

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