第2話

「それ、多分八尺様じゃないかなぁ」


 冷たいお茶を入れた湯呑みを片手に、坂本のおじいちゃんがほけほけ笑った。


「え、なんだっけそれ」

「迷信迷信。そういうお化けがいるってねぇ、おじちゃんのじいちゃんが言ってたんだよなぁ」

「へー」

「べっぴんさんだって話だよぉ」


 つまりただの冗談というわけだ。

 恵実はなんだか一気に拍子抜けしてしまって、目の前にある蒸したじゃがいもに箸を入れた。坂本のおじいちゃんが、お菓子が切れていたから代わりに、と出してくれたおやつである。


 それからも話を続けた坂本のおじいちゃん曰く、『八尺様』というのはその名の通り、八尺…調べてみると240cm程の長身の怪異であるという。手足も長く、「ぽぽぽ」と不思議な音を立ててやってくるお化け。主に子供や成人前の若い人間を攫うらしい。


 が、おじいちゃんが子供の頃にはすっかり姿を見かけなくなっていたらしい。

 やはり眉唾か、もしくは何らかの要因でやってきた外国人をそう名付けたのかもしれない。昔の人はよそ者に厳しいと聞くし、その方が現実味がある。昔はこの辺りにも長期滞在できる宿があったから、そのお客さんだったのかも。

 姿が見れなくなったのは、多分単純にその人がこの村からいなくなったのだろう。用事が済んだのか、それともお化け扱いされて居心地が悪くなったのか。どちらにしてもあり得る話だ。


 帰りは坂本のおじいちゃんに「おじいちゃんによろしくねぇ」とじゃがいもを持たされて、夕焼けになりかけた道を歩いた。


「ただいまあ」

「なんだ、遅かったなぁ。今ご飯炊けっから、机に箸並べろ」

「はーい。…あっ、ねぇおじいちゃん」

「ん?」

「八尺様って知ってる?」

「んー…?」


 おじいちゃんはおたまで味噌をすくって、お味噌汁を作っていた。その後ろ姿が一度止まって、「んー…」とまた唸る。


「しらね。多分ばあちゃんなら知ってんじゃねぇかなぁ」

「ふーん。そっか」


 恵実は、冬はこたつになる低いテーブルに箸を並べながら、「明日は私が作るね」と言った。

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