第13話:『愛してるゲーム』をやってみた。

「ねぇ、小枝。これやってみようよ」

「ん?」


 朱里にスマートフォンの画面を見せられる。

 そこには、とあるWebページが表示されていた。

 


「えーっと、なになに? …………『愛してるゲーム』?」


 朱里からスマートフォンを受け取り、そのままページを下部の方まで滑らせて内容を確認する。


「へぇ〜。こんなゲームあるんだ」

「そうそう。面白そうじゃない? 暇つぶしにどう?」

「んー……」


 愛してるゲームとは簡単に言うと、お互いに「愛してる」と言い合い、言った方言われた方に関わらず、照れた方が負けというゲームだ。

 二〇年ほど前のとあるテレビ番組発祥らしいが、未だに時々行われているらしい。

 が――


「これって合コンとかでやるやつなんじゃないの?」


 内容的には、ある程度人数のいる集団で楽しむゲームに思える。二人でやるなんて、バカップルくらいのものだろう。

 そう思っての疑問だったのだが――

 

「いいじゃん、別に。暇なんだし。それとも嫌?」


 そんなことはどうでもいいと言わんばかりに朱里は言う。


「別に嫌ってわけじゃないけど……」

「ならよし! やろやろ!」


 乗り気な朱里に押し負け、渋々ながら首を縦に振る。すると朱里満足そうに笑みを浮かべた。

 

 面白いのかなぁ。まあ、いいか。やってみたら案外楽しいのかもしれないし。


「じゃあ、先攻はどうする?」

「言い出しっぺは私だから……小枝からでいいよ」

「そう? なら遠慮なく」


 私は朱里の方を向き、目を合わせた。


 「――朱里、愛……」


 と、そこで言葉が止まってしまった。

 む。案外恥ずかしいぞ、これ。こんなこと、面と向かって言ったことないからなぁ。


 誤魔化すように咳払いを一つ。

 そうやって気合いを入れ直してから言った。


「朱里、愛してる」


 そして出来るだけ綺麗に、ニコッと笑う。


 ……どうだ!

 今のは結構上手く言えたんじゃないだろうか。

 きっと朱里も照れてくれるはず……!


 と思ったのだが――


「あれ? 照れてない?」

「んー、思ったより平気だね。というか、小枝。爽やかに言い過ぎなんだよ。そんなんじゃさすがの私も照れてあげない」


 む。気合いを入れて言ったのが仇となったらしい。

 確かに気持ちがこもってないというか……難しいものだ。

 なんだか悔しくなった私は、朱里に


「もう一度だけ、チャンスを……!」


 と願い出ると、朱里はしょうがないなぁという顔をしつつ、どこか嬉しそうに快諾してくれた。


 ひょっとして、私に「愛してる」と言わせることが目的だった? という考えが脳裏を掠めたが、そんなことは本人に訊かなきゃわからないし、今はどうでもいい。

 ゲームに勝つことだけを考えよう。

 

 朱里を照れさせるためには……やはり普段見せない姿を見せることだろうか。

 そう考えた私は、片手で頬杖をつき、瞳を潤ませた(つもり)。そして空いた手を伸ばし、朱里のほっぺたをツンとつつきながら言った。


「愛・し・て・る♡」

「――わざとらしすぎっ」

「あだっ」


 直後、私の脳天にチョップが落ちてきた。


「さすがにそこまでやられると照れを通り越して笑いが出るわ」


 やりすぎだったらしい。案外難しいぞ? このゲーム。


「じゃあさ、次は朱里が言ってみてよ」

「いいけど、これで決まっちゃうかもよ?」

「私を照れさせたら大したもんですよ」

「何キャラ?」


 朱里は呆れ顔をしつつ、先ほど私がやったようにコホンと咳払いした。

 

 さて、どんなふうに言ってくるのやら。

 いざ言われる方になってみると、思ったよりわくわくしてくる。

 このゲーム、言われる方が楽しいんじゃないの?


 朱里は「よしっ」と短く呟くと、私の目をじっと見た。


「小枝!」

「は、はい!」


 思ったより真剣な朱莉の顔に、緊張感が走る。

 そして朱里は先ほどの勢いとはうってかわり、おずおずと口を開いた。


 「……ぁ……愛……して…………――――る」


 朱里の言葉は尻すぼみに小さくなっていき、最後の『る』は消え入りそうなくらいの小声だった。

 同時に顔面はみるみるうちに紅潮。それを誤魔化すように、スススッと目線を斜め下へと逃していった。


 いや……ちょっと、朱里さん。それは……。


 どう反応していいか迷っていると、逸らしていた視線をこちらへ戻した朱里が、自棄になったように叫んだ。


「小枝、顔赤い! 私の勝ち!」


 言われてようやく意識する。いつの間にか顔へ完全に熱が上ってしまっている。鏡を見るまでもなく、真っ赤になっているのがわかるくらいだ。けどさぁ……


「いや、朱里も真っ赤だから! というか、言ってる途中から赤くなってたから! むしろ私の勝ち!」

「は? 赤くなってないし!」

「誰がどう見ても赤いわ! てか言い方! めっちゃガチのやつじゃん! そんなの誰が言われても照れるわ!」

「うるさーい! 負けを認めろー!」


 朱里は照れを誤魔化すように必死に抵抗する。

 多分、思ってたより恥ずかしかったんだと思う。


 私も負けじと叫んだ。

 思ってたより、恥ずかしかったから。

 

 ギャーギャー言い合った結果、結局勝負は引き分けとなった。

 まあ、両方赤かったし。


 そしてこの日、我が家に一つのルールが加わった。


 ――『愛してるゲーム』は禁止とする。



 ☆★☆★☆★☆★☆


 先週は更新できず、申し訳ありませんでした。

 また頑張っていきますので、よろしくお願いします!

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