第21話 バカだけど
「あれ?」
目が覚める。外は薄暗くなっていた。いつもよりやけに入眠が早かったような。
「あ、お目覚めっすか?」
「あぁ、うん……」
優しい笑みを浮かべた妹ちゃんの顔が視界に入る。周りの音もしないし、部長たちは近くにいないのだろう。
「めちゃくちゃ熟睡でしたね。校長並みに寝てましたよ」
「マジ?」
「マジもマジっす。三時間くらいは寝てたんじゃないっすか?」
なんてこった。割としっかり寝てるじゃないか。ここ最近じゃ、一番ぐっすり眠ってたぞ。そんなに疲れていたのか。というか寝る直前の記憶がない。
「なぁ、俺って寝る前何してた?」
「あ、それ聞いちゃいます?」
なんだろう。この言い方に不安しかない。ずっとニヤニヤしてるし。俺が寝ぼけている間に何があったんだ。
「いやぁ、それはそれは楽しい時間でしたよ。あんなこととかこんなこととか……」
「待って俺は何をしたされた!?」
手を出したのか!? 出されたのか!? どっちにしろ俺の純潔が記憶のないままさよならしちゃったってことですよね!? いや、でも妹ちゃんがからかってるだけっていう説もあるし……。
「ようやく起きたか」
思考を遮るように側近君がやってきた。疲れているのか、普段よりも口調が柔らかい。
彼はすぐ近くのベッドに腰を下ろすと、マグカップに入った白湯を口に含んだ。
「見つかったぞ。お前の武器が」
「どういうことだ?」
「ここだよ、ここ」
そう言って、側近君は自分の頭を軽くたたいた。
「俺の頭が悪いってか?」
「……そう思うなら、本当に頭が悪いのかもしれんな」
「なんだと!?」
「はーい、ストップっす。それ以上しちゃうと、ホントにバカみたいっすよ?」
「……わかったよ」
妹ちゃんにまで言われてしまっては仕方がない。どうやら側近君の言っていることは正しいのだろう。
だけど、どういうことだ? 頭が武器になるって。直接的な妨害は禁止されていたはずだから、頭突きでねじ伏せるということじゃないし。勉強だって、俺の頭は特段いいわけじゃない。
「あーもう先輩。実際にやってみたほうがいいんじゃないですか?」
「まぁ、そうだな……言っても理解できんだろうし」
そう言うと、妹ちゃんがこっちに来いと言わんばかりに手招きをした。さっきの言葉もあるし、めちゃくちゃ怖いんだけど……側近君がまた睨んでるし、行かないわけにもいかない。
妹ちゃんのところへ向かうと、彼女は優しく俺の頭をなで……。
「はっ!」
「びっくりさせないでくださいよ!」
「あぁ、ごめん……」
なんだ? 頭をなでられた瞬間、意識がぼやけてきた。別に特段眠かったわけではない。さっきまで寝てたんだし。それじゃ、もしかしてこれが……。
「気づいたか?」
側近君は不敵な笑みを浮かべながら、俺に言葉をかける。こっちの返事など待たずに、彼は話を続けた。
「お前は頭をなでられるとすぐに寝ることができる体質なんだ。言うなればそう……ナデラーだ!」
「は?」
また何を言ってるんだこいつは。てかナデラーって。もう少しなんかあっただろう。
くだらない冗談はともかく、頭ってのはそういうことか。
「けど、よくわかったな。俺自身が知らなかったのに」
「そりゃそうだろう。なでられた瞬間に寝息を立てていたからな。自分で気づこうにも気づけなかったんだろう」
「今回のも、結構たまたまっすからねぇ……ボクがなでないと、たぶん今でも気づいてませんでしたよ」
妹ちゃん、なんだかんだ勘が鋭いというか。バカだけど着眼点はめちゃくちゃいいんだよなぁ……バカだけど。
「なんか今めちゃくちゃ失礼なこと考えてないっすか?」
「い、いや……気のせいじゃないかな」
「とにかくだ。桜庭の武器が見つかったのは大きな収穫といえるだろう」
「何勝ち誇ったような顔してるんすか。見つけたのはボクっすよ!」
「う……とにかくだ。このことを部長に報告せねば!」
そう言って、側近君は走り去ってしまった。あんなにあっさりと言い負かされる側近君は初めて見たぞ。
「……逃げたな」
「逃げたっすね」
その日、下校時間まで彼が戻ってくることはなかった。
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