第22話 箸先が赤く塗られている人がメンバーです。
「えー、それでは対朝比奈高校メンバーを決めたいと思います!」
側近君の進行で作戦会議が始まった。試合本番まであと三日。部員一同がパジャマ姿でベッドに腰を下ろし顔を突き合わせている。はたから見ればパジャマパーティーにしか見えないだろうが、これが俺たち睡眠部の正装なのだ。仕方がない。
いつもは緩い空気の部室にも、少しばかりの緊張感が漂う。
「部長、選出方法はいかがいたしましょうか」
「んー、適当にくじとかでいいんじゃない?」
「御意!」
「御意! じゃねえわ!」
思わず口に出してしまった。いやでもそうだろ。仮にも部の存続がかかった試合なんだぞ。そんな思い付きで決めていいものじゃないはずだ。さっきまでの緊張感を返してほしい。
俺のツッコミなど耳にも入れていないであろう側近君は、そのまま戸棚のほうに走って行ってしまった。
「でもねぇ……結局のところ、みんな実力は同じくらいだからさぁ」
「そうとは思わないんですけど……」
「確かに前までは風太君の言う通り。実力差はあったんだけどね」
そこで部長は言葉を切る。何もしゃべらないまま、彼女は俺をじっと見つめてきた。
「風太君の睡眠力が上がったから、みんな横並びになったんだよねぇ……真面目に決めてたら日が暮れちゃうくらいに」
絶対大げさだろう。というか部長がめんどくさいからこう言っているのだろうが……。
「部長! できました!」
「おー、お疲れ。そんじゃパパっと決めちゃお」
「それでは皆さん、一本お選びください」
側近君の手には人数分の割りばしが握られていた。なんかどこかで見たことがあるんだけれどなぁ……。主に王様ゲームとかさぁ!
「皆さん選びましたね」
「ハイっす!」
「それじゃ、箸先が赤く塗られている人がメンバーです。いきますよ……」
緊張の一瞬。全員が静まり返る。
「メンバーだーれだ!」
「やっぱてめえ確信犯かよ!」
そんな叫びとともに手が開かれた。支点を失った箸を引き寄せる。俺はどっちなんだ……?
「……赤い」
晴れてメンバー入りというわけだ。少しだけ安心する。せっかく手に入れた武器もあったんだし、入りたいと思ってたんだ。
あとは他のメンバーが誰になるかだが……。
「あ、あわわ……」
情けない声を出しながら、部長がわなわなと体を震わせていた。いや、それはどういう感情なんだ。どっちにしろ寝れるんだろうから、察しようがない。
そんな彼女の箸先の色は……。
「やったー! メンバー落ちだー!」
何も塗られていなかった。
にしても出会ってから一番喜んでないかこの人!?
「おめでとうございます!」
「やったねお姉ちゃん!」
え、こんなに祝福ムードになるもん? またこの部特有の変なノリなのか?
二人の拍手を全身で浴びながら、部長は満面の笑みを浮かべていた。大げさな身振りは、選挙で当選した議員みたいだ。
「そんなにうれしいものなんですか?」
「当ったり前じゃないか! 今までどれだけいやいや出ていたか……」
あれ、この人泣いてません? そんなにいやだったの!? 確かに、側近君と対決したときも、乗り気じゃないとは思っていたけど。一体過去に何があったってんだ。
「先輩は知らないっすもんね。お姉ちゃん、『自由に寝させろー!』って、ずっと試合に出るの乗り気じゃなかったんですよ」
「あぁ……部長を説得するためにどれだけ苦労したか……」
おいおい、側近君まで泣きそうになってるじゃねえか。何があったんだよ……。聞くとまた話が長そうだから聞かないが。
「とにかく、当日のメンバーは俺とネム、桜庭の三人だ。そして今から作戦を伝える!」
「今から……って、もうあるのか?」
「ふふふ……俺を誰だと思ってる」
あ、めっちゃ腹立つ。なんだそのどや顔は。驚くんじゃなかったなこりゃ。
「とっくの昔に全パターンでの作戦はストック済みだ!」
こいつの行動力はどこから湧いてきてるんだ。まぁ正直助かるが、それを言えばまた調子に乗ることはわかっている。
というか、俺が褒めなくても調子に乗ってるしなぁ! 周りなど視界に入らなくなってきているのだろう。彼は有無を言わさず作戦の説明を始めた。
「まず桜庭! お前が真っ先に寝ろ!」
「俺か? わかった」
「ネムは桜庭を寝かしつけてくれ! その後は寝ることに集中」
「了解っす!」
まぁ、妥当な判断だと言える。だけどちょっと待て。
「なぁ、副部長。あんたはどう動くんだ?」
「む、俺か」
なぜ言わなければならないのかって顔をしてる。こいつ、俺が言わなければそのまま流す気だったな。危ないとこだった。
「避雷針役になる。やつらを引きつけるから、その間に各々の役割をこなしてくれ」
「あーい!」
まぁ、作戦としてはいいとは思うけど……こんな調子で大丈夫か? 何を言ったところで今更どうしようもないだろうけど。そもそも妹ちゃんの武器ってなんなんだろう。そういえば、ほか二人の個性が強いせいで気にしたこともなかったな。だけど部長も信頼しているみたいだし。うーん……って、あれ?
「いやもう帰ったのかよ!?」
オレンジに染まった部室に一人、俺は取り残されていたのであった。
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