第15話 初代生徒会長
「さてと……」
一同で部室へとたどり着く。いつもの倍以上はいるからどうにも落ち着かない。生徒会が全員来ているせいだ。
「あの、お茶いります?」
「いらん! 馴れ合いに来たわけではない」
妹ちゃんのもてなしも、彼らには余計なおせっかいなのだろう。にしても突っぱねることはないと思うが。あと一言でも余計なことを言っていたら大乱闘が開幕するところだったぞ。
というかだ。会長以外のやつらがいるのがおかしいんだ。おとなしく生徒会室で自分の仕事をこなしてりゃいいのに。
「なんであんたらも来てるんだよ」
「決まっているだろう! 校長先生が心配だからだ」
「そうだそうだ! お前たちだけに任せるわけにはいかん!」
皆が皆、口をそろえてそう言う。会長含めて、生徒会にはこんなやつらしかいないのか? これじゃ生徒会というよりも校長のファンクラブだぞ。
「まぁ、そう言うならいいけどさ……」
妙に気まずい。別に共通の話題があるというわけでもないし。かといって下手なことを言えばまた揉めることなど目に見えている。どうすりゃいいんだこれは。
「そういえば」
バカみたいに重苦しい空気を断ち切るように、妹ちゃんが口を開く。彼女に視線が集まるのは必然ともいえるだろう。この場の空気がどうなるかは、妹ちゃんの一言にかかっているのだ。頼むから変なことだけは言わないで
「皆さんどうしてそんなに校長を尊敬してるんすか?」
ちょっと待て。きわどすぎない? それ大丈夫? 内角高めギリギリボールな気がするんだけど!?
案の定、生徒会の面々は互いの顔を見合っている。その数秒が、永遠のように長い。誰でもいい。反応してやってくれ。そして、正解なのかどうか教えてくれ……。
「よくぞ聞いてくれた!」
誇らしげな顔でそう言ったのは、生徒会の面々ではない。その場で朗らかにお茶を飲んでいた教頭だった。
「校長先生はね、それはそれは素晴らしいお方なんですよ。まず……」
あー、これは長くなるやつだ。場が荒れるよりは何十倍もいいのだが、耐えられるだろうか。正直この手の武勇伝は苦手だ。聞いてて何が面白いのか全く理解できない。過去の栄光にすがりつくなら、俺だっていっぱい言えるぞ。小学生のときに近所のファミレスのメニューを制覇したこととか、給食のデザート争奪戦に負けたことがないだとか。
「そしてだね……」
生徒会の食いつきがいいせいで、話はさらにヒートアップしていた。途中から聞いていないせいで、なんのことだがさっぱりわからない。だが、どうやらこの学校の初代生徒会長が校長らしい……は?
「初代生徒会長!?」
「そうですとも。校長先生が生徒会長で、私が副会長だったんです。いやぁ、懐かしい」
それは確かにすごいわ。いくら興味がないこととはいえ、初代ってつくだけでもうすごい。だって最初だぞ? 一期生だぞ!? すごくないわけがない。生徒会のやつらがここまで慕うのも少しだけだがわかる。彼は確かにすごい人なのかもしれない。
「学生時代からいつも誰かのために動いてましてねぇ……多忙なのは当時から変わっていません。ですが歳のせいでしょう。最近になって睡眠に悩みだしたのは」
となると、だ。余計に部長だけを置いてきたのが心配になってくる。ヤバい、気が気じゃなくなってきた。とりあえず今からでも様子を見に……。
一人で勝手に焦っていると、誰かの着信音が鳴り響く。スマホを取り出したのは妹ちゃんだった。
「はい、はい……わかりました!」
パッと切り終えると、妹ちゃんは満面の笑みで俺たちを見る。
「校長先生眠りにつけたそうです! とりあえずは一安心みたいですよ!」
「本当か!?」
「よかった……」
各々が安堵の表情を見せた。それは俺も同じである。鏡なんてないから確認はできないが、人生で一番安心している。
「それじゃ、いったん校長室に向かいましょう! お姉ちゃんが呼んでるので」
またゾロゾロと部室から人が出ていく。テーマパークのアトラクションみたいだ。
妹ちゃんを先頭に、俺たちはまたしても校長室へ向かうのだった。
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