第14話 失敗があるはずなかろう

「はぁ……はぁ……」

 苦しい。苦しすぎる。やっとの思いで校長室へ着くと、すでに準備は完了していた。多分だけど、俺が到着するのを待っていたのだろう。

 室内は予想以上に人がいた。当事者の校長、部長たち睡眠同好会。ここまでは想定済みだった。だが、校長室には生徒会の面々や教頭先生もいた。

「遅いぞ風太君」

「早くせんか! 始めるぞ!」

 二人に急かされて、俺は近くの椅子に腰かける。

 ただ寝るというだけなのにここまで重苦しい空気になることがあるか? 

「さぁ、同好会の諸君! 早速始めてくれたまえ」

 相も変わらず脳にまで響きそうな会長の声。こんなものを聞かされた後にぐっすりと眠れるのか? 明らかにデバフを食らった状態でのスタートだぞ。

「そんなに不安がることないですよ」

 表情に出てしまっていたようだ。隣にいた妹ちゃんが声をかけてきた。姉の発明品を信頼しているからか、彼女は自信に満ち溢れた顔で俺を見つめてる。

「確かに、お姉ちゃんの発明品は少しやりすぎな部分もありますけど、あれで腕は保証されてるんです」

「保証されてるって……まさか商品化してるとか?」

「はい! 大森製薬? と契約してるんです。うちがお金持ちなのも、お姉ちゃんの発明品があるからなんですよ」

「マジか」

 冗談半分で言ったのに、マジで商品化してるとは。しかも大森製薬? テレビとかでコマーシャルを流しまくってる超大手会社じゃないか。そりゃ、稼いでいるわけだ。

 そんなことを話している間に、校長は布団の中へと潜り込んでいた。自然と好調に視線が集まる。

「……そんなに見られると寝れないんじゃが」

「あ、あぁすみません。部長」

「そうだね。皆、いったん出ようじゃないか」

 二人に促され、俺たちは校長室を後にする。が、皆が出ていく中、一人その場にとどまり続けるやつがいた。

「……部長?」

「私は残る! 君たちは先に出ていてくれ」

 また意味の分からないことを言い始めたぞ。なんだ? 今度は何をするつもりなんだ?

 やはり納得がいかないのか、生徒会と教頭は部長を連れ出そうと近づく。

「何を言っているんだ。校長の邪魔になるだろう」

 さすがです、会長。今だけはあなたを全面的に支持します。ようやく俺以外にツッコんでくれる人が出てきたことに喜んでいると、部長は彼女の手を振り払った。

「発明品に不備が出ないように見張っておくやつが必要だろう? 作った本人が居残るのが妥当だと思うが」

「そういうことなら……」

 諦めるのはっや。いや会長。もっと粘ってくれてもいいんですよ? この子だけにするとロクなことにならないですよ!? そう言いたいが、すぐ近くに側近君たちがいる。言い切る前に口封じをされるのは目に見えていた。

「行くぞ、桜庭」

 もはや疑問を抱く人はいなかった。全員が部屋を後にすると、ゆっくりと扉は閉まってしまった。

「校長、大丈夫かなぁ……」

「心配ありませんよ、多分……」

 妹ちゃんまで自信なさげなんですけど。校長は無事に目覚めることができるのか?

 それはこの場にいる誰もが思っていたようで、皆……側近君以外の面々は不安げな表情で待つことしかできなかった。

「何がそんなに不安なのだ。部長の作った発明品に失敗があるはずなかろう」

「いや、それはそうですけ……そうですかね?」

「おいお前ら。校長に万が一のことがあればわかっているのだろうな?」

 鬼気迫る表情で会長が割り込んでくる。この人なら本当に何かしかねないからこそ不安なのだ。

「まぁまぁ、皆さん落ち着いて。同好会の部室で待ちましょう」

 今にも飛びかかってきそうな中、教頭が会長をなだめに入った。この場に大人がいてよかったと心の底から思う。

 彼に促されるまま、俺たちは部室へと戻っていった。

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