第13話 完成! マイナスターボくん
「で、できた……」
四日後。生徒会に言い渡された期限ギリギリで部長の発明品は完成した。
台座の上に球体が乗せられているような発明品。球体にはまぬけそうな顔が描かれている。これは部長の絵なのだろうか。それ以外には変わったところもないし、何も聞かされていないと家庭用のプラネタリウム装置にも見える。
「マイナスイオン発生装置……名付けて『マイナスターボくん』だ!」
「素晴らしいです部長!」
部長をはさむように二人は盛大な拍手を送った。
側近君に至っては今にも泣きだしそうになっている。
「してお姉ちゃん、ターボくんにはどんな機能が?」
「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれた妹よ」
あー、また謎のノリが始まった。こうなったときにはロクなことが起こらない。枕投げとか、枕投げとか、主に枕投げとか。
「このマイナスターボくんはね。人が睡眠に必要なマイナスイオンを発生させる装置だよ」
「へぇ、他には何かあるんですか?」
「いや、ないよ?」
それじゃ普通の空気清浄機と大して変わらないんじゃ……。てか催眠の要素はどこいった。
「そ、それで大丈夫なんですか?」
「貴様にはわからんのか!? このマイナスターボくんの素晴らしさが!」
側近君が間に入ってきた。それにしても、いつもよりも熱量がすごい。
発明品の完成に携わるのは初めてだが、大体こんな感じなのだろうか。
「このマイナスターボくんはな……マイナスイオンを発生させるという一点だけに機能を集約させることで、他の製品よりも格段に濃密! 格別に上質! 格付けなど不要なほどに人々のニーズに合わせた装置となったのだぞ!」
「だいせーかい! いやぁ、さすがだね」
「ありがたき幸せ!」
なぜ見たばかりのこいつにここまで理解を示せるのか。こいつの部長に対する理解だけは素直に尊敬できるかもしれん。
ん? いや待てよ。部長に対する理解だけ?
「風太君、どした?」
「あ、いえなんでも」
そうだ。側近君とターボくんには共通点があるじゃないか。何か一点だけに特化しているところがそっくりだ。こいつさては共感したな? どうりでこんなにもスラスラと説明ができるわけだ。
「とにかくさ、使ってみましょうよ! ボクもう待ちきれないっす!」
「よーし、それじゃ早速テストプレイだ!」
部長がターボくんの鼻を押す。たちまちターボくんの口から水蒸気が出てきた。
「いいぞぉ、もっとだ……もっと出すんだ!」
マイナスイオンってそんなにも摂取していいものなのだろうか。何事も取りすぎはよくないっていうけれど。
ターボくんの勢いは強く、五分と経たないうちに部屋は水蒸気で満たされた。
「よし、これで第一工程は完了だ」
「第一工程?」
「そう、まずはマイナスイオンを充満させることからだよ。ちなみに今のこの空間をM.T.フィールドと呼ぶ」
部長、それだけはなんかまずいような気がします。
名前はともかく、この空間自体は思ったよりも悪くはない。部屋の居心地が心なしかよくなったように思う。こんなにも即時性があるのだとすれば、確かにすごい発明品であることは間違いない。
「さて、第二工程だ」
といって、部長はさらにターボくんの鼻をいじる。マイナスイオンを出すだけの装置で、第二工程とは何事なのだろうか。
「うおあ!?」
妹ちゃんが突如声を上げた。視線の先には、やはりターボくんがいる。これ以上こいつに驚くことが……おっと?
さっきよりもマシマシで出ている。いや、さっきのやつでも十分ヤバい量だったんだけど。なんかあれだ。ライブのスモークみたいだ。そこまで大きくない図体だというのに、どこにそんな量を隠していたのか。
「こ、これ本当に大丈夫です?」
「わからないから試してるんだよ! 実験だ!」
あはー、そうですよね。すんなりといくわけがなかった。このまま吸い続けても人体に影響はないのだろうか。ってかそもそも一介の高校生に許された技術なのか?
部室がどんどん蒸気に包まれていく。いや、これは蒸気なんて生易しいものじゃないかもしれない。何かと言われれば霧だ。濃霧だ。視界まで白くなってきたぞ。
「あー、なんかヤバくないです?」
妹ちゃんがふらつきだす。これ以上は続けるべきではないだろう。
妹ちゃんの様子に気付いたのか、側近君が慌てて装置を止めた。けど、すでに発生したマイナスイオンたちをどうにかしないと解決できない。
「ま、窓だ! 窓を開けよう!」
慌てて窓を開けながら部長が叫ぶ。後に続き窓を開けると、霞んでいた視界が一気に開けていった。
「し、死ぬかと思った……」
妹ちゃんが息を切らしながらそう言った。あと少し遅ければ俺たちもヤバかったかもしれない。とんでもない装置を作ってくれたなホント。
「こ、これ本当に安全なんですよね!?」
「大、丈夫……最初の感じで……使えばいい…………から……」
息も絶え絶えになりながら部長は言う。なんで妹ちゃんよりも死にかけなんだ。まぁ、確かに最初の使用感はよかったんだ。薬とか健康用品に書いている用法容量を守れって注意書きは正しかったんだなと身をもって学んだ気がする。
「ふぅ……落ち着きました」
「大丈夫? ホントに死にそうだったけど」
「えぇ、もう平気です。すみません、心配かけて」
へへ、と妹ちゃんは照れくさそうに自分の後頭部をなでた。
部長は運動不足で息を切らしているんだろうし、側近君は口は開かないものの少し疲れている程度に見えるし。とりあえず誰にも悪影響が出ていなさそうでよかった。
「さて、じゃあこいつを持って校長室に乗り込もう」
「おー!」
「さぁ部長! お乗りください!」
ターボくんを抱きかかえた部長を、側近君がおぶる。まるで合体ロボみたいだ。
そうして合体を完了させた側近君たちは、爆速で校長室へと向かっていった。
「ほら先輩! ボサッとしてないで行きますよ!」
こちらを見ることなく、妹ちゃんは慌てて部室を後にした。部屋には一人、俺だけが取り残される。
……あれ、完全に置いてかれた?
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