第4話 アンとロームの密談

 アンとロームは、庭師によって整えられた庭を歩いていた。周りには誰もおらず、二人きりだ。



「あの、ローム様」

「なんだ?」

「つかぬことをお聞きしますが……どうして私と婚約なされたのでしょう?」



 アンは恐る恐るといったようにロームへ尋ねた。理由が分かれば婚約破棄へ持っていくのもやりやすくなるのではと考えたからだ。


 ロームはその問いに面食らった。どうして? などと問われても答えられなかったのだ。なぜなら、ロームにはアンと婚約するつもりなどさらさらなかったからである。


 アンと会うのも初対面。とくに愛しているわけではない。当然だ。親が勝手に決めたのだから。


 しかし、それを思い切って答えてしまっても良いものか。ロームは迷っていた。


 親が勝手に決めたことだと、婚約の意思は自分には無いのだと、伝えてしまえば婚約破棄はしやすくなる。だが、正直に伝えて傷つけはしないか?


 ロームはそう考えていた。



「あー……えっとだな……」



 もごもごと口ごもる。


 エリスのため、自分のために伝えるべきだ。アンさんだって、愛されてもいないのに俺と結婚をするのは嫌だろう。後から知ったら、今伝えるよりももっと傷つける。


 ロームは数秒悩んで伝えることを選択した。



「その……アンさん」

「は、はい」

「実は……ですね。今回の、婚約なんですが、ちょっと……手違いというか……親が勝手に決めたのです」

「えっ?」

「それで、俺自身はついこの間そのことを知ったというか……本当に申し訳ない。婚約という大事なものなのに」

「そ、そうなんですね……」



 アンは拍子抜けしていた。


 まさか、ローム様も同じ境遇だっただなんて。じゃあこの婚約は私もローム様も突然のことだったということ?


 お母様からはあちらが申し出てきたと聞いていたのだけれど……ローム様のご両親と私の両親で勝手に進めていた?


 でも、でも! それなら婚約破棄ができるかもしれない! 私もそうなのだと伝えれば……だって、ローム様にその意思はなかったのだから……!


 驚き、混乱しながらもアンはロームの告白に希望を見出していた。



「あ、あの! 実は私もなのです!」

「え……? それはどういう……」

「私も親がいつの間にか決めていて、婚約のことを知ったのはつい先日で。その、ローム様のような素敵な方からの申し出は受けるべきだと言われて……」

「そ、そうだったのか……」



 ロームはアンが自分と同じ境遇であることを知り、驚いた。


 同時に、これなら婚約破棄ができると喜んだ。


 互いに婚約のことを知ったのが先日。俺はアンさんを今日まで知らなかった。アンさんも恐らく同じ。つまり、どちらも相手に対する情がない。


 これなら……エリスのことを伝えて恋人と実は結婚したいといえばアンさんも受け入れてくれるのではないか。


 ロームはそう考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る