第5話 アンとロームの約束

「アンさん」

「な、なんでしょうか?」

「少し……聞いてもらいたいことがあります」



 ロームは思い切ってエリスのことを伝えた。長く付き合っている恋人であること。エリスと結婚をしたいと思っていること。その矢先、この婚約が決まったこと。



「申し訳ない。突然こんなことを言ってしまって。だが……自分の気持ちを隠しておくのは卑怯だと思ったんだ」



 ロームはアンの琥珀色の目を真っ直ぐに見た。


 本来、女性に……しかも婚約者に違う人と結婚したいだなんて告げるのは失礼だ。


 それでも、それでもここで伝えなければ親に無理やり結婚まで押し切られてしまう。どうしても協力してほしい。


 ロームはこう付け加えて言ったのだった。



「ローム様……」

「すまない、本当に」

「い、いえ! あの、わっ私も結婚をしたいと思っている恋人がいるんですっ!」



 ロームのさらなる告白に釣られてアンも自らの恋人のことを伝えた。


 ロームと同じように長い間付き合っている恋人、ユージがいること。幼なじみとして子どもの頃から支え合ってきたユージと結婚をしたいと思っていること。そして、親から婚約を告げられたこと。


 アンが全てを話し終わると、ロームは一瞬目を丸くした。そして、豪快に笑いだした。



「まさか、俺ら二人とも考えていたことが一緒だったなんて!」



 予想外のことにロームは笑いが止まらなかった。アンもロームの笑い声につられて声を出して笑う。



「本当……驚いてしまいましたわ」

「こんなこともあるもんなんだなぁ」

「そうですねぇ」



 これまで張り詰めていた二人の間の空気が一気に緩む。


 いつ伝えるか、どう動くか、婚約破棄に持っていくにはどうすべきか。そう考えていた二人は変に緊張していたのだ。



「ああ、でも良かった」

「え?」

「これで俺らは協力できる。互いの目的のために」

「ああ! そうですわね!」



 互いの目的と意志を伝えあった二人は、相手に気を使うことなく婚約破棄のために動くことができる。



「約束しよう。俺らはそれぞれの恋人のために、婚約破棄をすることを」

「ええ。そのために共に協力することを」



 二人は顔を見合わせて、握手をした。これは、婚約破棄をするためにパートナーとして協力することを示す意思表示だった。



「それじゃ、よろしくアンさん」

「お願い致します。ローム様」



 まるでこれからを誓い合う夫婦のような微笑みを交わしながら、決別するための誓いを立てるのだった。

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