第3話 会合

「ごきげんよう、ローム様」

「わざわざお呼びだてして申し訳ない、アンさん」



 ロームとアンはにこやかに言葉を交わす。二人が顔を合わすのはこれが初めてだった。


 会ったこともない婚約者。互いに他人行儀になるのも仕方ないともいえる。


 この会合も二人の両親が決めたものだ。二人が望んだわけではない。だが、ロームもアンもこの機会に婚約破棄をするために動き出そうとしていた。



「ふふ、こんなに素敵な殿方と婚約だなんて……驚きましたわ」

「はは、こちらこそ貴方のような美しい令嬢と婚約できるだなんて思ってもみなかったよ」



 上辺の言葉を交わすロームとアン。互いの両親の目が光るこの場では、友好的な態度でいる方が良い。


 二人はそう考え、粛々と二人だけで話せる機会を狙っていた。



「あの……ローム様にお願いがあるのですが」



 アンはおずおずと切り出した。



「どうしたんだね? 言ってごらんなさい。ロームにできることならなんだっていいぞ」



 ロームの父親、ヴァンが答える。


 アンは窓の外へ目を移した。



「私、こちらへ来る時にちらりと見えたお庭が素敵だと思いまして。よろしければ、ローム様に案内して頂きたいです。……ローム様とゆっくりお話もしたいですし……」



 アンはロームと二人きりで話す口実を口にした。二人きりになった時に、ロームから婚約破棄されるように動こうと考えていたのだ。


 アンは庭に微塵も興味を持っていなかった。ただ、外へ出るために。ロームだけと話す機会を得るための言葉だった。


 ロームはアンの思惑には気がついていなかったが、その誘いはロームにとっても都合が良かった。


 ロームもロームで、アンだけと話す機会が欲しいと考えていた。


 ゆえに快く返事を返した。



「もちろんだよ。俺もこの庭が好きでね、ぜひ案内させてくれ。それに、貴方と二人で話したいと思っていたところだったんだ。いいよね? 父上?」



 邪魔をされないようにと、ヴァンに先手を打つローム。


 ヴァンは酒を飲んでいい気になっているようで、ロームの言葉を警戒することもなく受け入れた。



「せっかくだから、二人で親交を深めなさい」

「ありがとう」



 そして、ロームとアンは会合の席を離れ、二人で並んで歩きながら庭を目指した。


 傍目から見たら、相性の良さそうな婚約者。しかし、実際は互いに婚約破棄を目論む赤の他人。


 全ては婚約破棄をして、幸せを掴むために。

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