第6話 中央 後半

6話 中央 後半


「何ですかコレは」


俺はリングに送られてきた、たくさんの人の情報と"競技"について尋ねた。


「それは、この後行われる競技の出場者だ」


「競技?」


何だそれは。


俺は送られたリストをサラッと見ていると、


「んっ!」


ファルコの名前を見つけた。


「元々今回集められたのはただ交流するんじゃなく、この競技も含まれてんだ。この都市の

西のはずれにかつて戦地になってボロボロになった都市があってな。そこを利用して各訓練

所で一番の成績の物を集めて、射撃の競技を毎年やってんだ」


そんなことを毎年知てたのか、知らなかった。


「お前もこんな時代だとろくな娯楽がないのは知ってるだろ。だから、出資者や将校、俺み

たいな士官、あとはここにいる研究者が参加して賭け事して楽しんでんだよ」


まじかよ。


交流以外の目的もあって、それが賭け事って。


「そんなことしてていいんですか?」


「さあ?でも、この競技自体は本来は品定めの意で始まって、後から賭け事が乗っただけだ

しな」


「そうなんですか?」


「みたいだ。実際に見てみないとそいつの実力はわからない。だが、全員を見ている暇はな

い。だから、一人集めて行ったのが始まりらしい。それが、今は3人集めて行われるように

なったんだ」


それが、この交流会の歴史ってところか。


「それで、俺達もカケをするってことですか?」


サンダーズさんは俺を指さし、大きな声で


「その通り!」


と言ってきた。


「今から約1時間後に競技が始まる。君に送った資料は今回の賭け事のために事前に送られ

た物で、ルールや出場者の情報が事細かく書いている」


試しに俺はファルコの情報を見てみると、各成績や評価など俺が知らないことまで、細かく

記載されていた。


「上はコイツを使って、誰が競技で一位になるかを当てるんだ。昔にあった競馬ってとこ

だよ」


競馬って確か、昔やってた馬の駆けっこだっけか。


その走った馬の順位を当てるギャンブルだ。


「それで、俺らもやろうってことで?」


「そうだ。まあ、どっちがより順位が高いかで優劣をつけよう。君の選んだ選手が俺が選ん

だ選手よりも高ければ、君の勝ち。この本を見せよう」


そう言いながら、本を見せびらがせてきた。


「わかりました。なら、勝たせてもらいます」


「いいね。おもしろくなりそうだな」


サンダーズさんはリングの投影技術を使って、資料を広げた。


そして、次々と速いスピードで資料を切り替えて見ているのがわかる。


「でも、何で賭け事になったんですか?元々品定めで始まったんでしょ」


「ああ、上が面白がって順位予想をしたのが始まったらしい」


そんなことで、こんなことが始まるなんて。


大丈夫なのか、俺達、こんな事してるのが上で。


「まあ、そんな邪険にすんなよ。たまの息抜きだし」


確かに、息抜き。


気にしすぎだな。


「それに、順位を当てるのは人をよく観ないよできない。上に立つものはいかに人を使うか

が重要なわけだ。だから、この順位当ての賭け事も遊び以上にそっちの方向で見ている人の

方が多い」


「そう言われるとそうですね」


少し、この競技のイメージも変わった。


「君の目的はしらないが、もし上を目指すんだったら上位は当ててみるんだな」


言われなくても、勝つために当てるつもりだ。


「なんだったら一位をあてますよ」


俺は啖呵を切り、サンダーズさんは笑った。


そして、俺は両手を叩き、


「決めました」


と宣言した。


「おっ、いいのか?まだ、時間はあるぞ」


俺は頷き、


「俺は"ファルコ・ドッジ"にします」


自分と同じ訓練所で一番のファルコを選んだ。


「んっ、同じ所の奴か」


ファルコの情報を見ているのだろう。


「なるほど、中々いい成績だ。上位に食い込むなこいつは」


サンダーズさんは褒めていた。


上の立場の人から見てもファルコの成績はいいみたいだ。


俺も他の奴の情報を一通り見たが、ファルコの成績に並んでいるの人もいたが、射撃の成績

はこの中でも抜きんでている。


今回の射撃の競技は街のいたるところに投影技術で現れる的型の敵を狙い撃つ。


的には撃たれた場所によって得点が異なる。


的は反撃もしてくるらしく、減点になるらしい。


その点数を競うシンプルな競技だ。


ファルコの射撃の腕はこの身でよくわかっている。


十分上位を狙う事ができる。


「このまま時間まで考えるのもありだが、それじゃあ公平じゃないよな」


サンダーズさんはそう言うが、


「別にいいですよ、気にしないで」


なぜなら、俺が勝手に選んだのだから。


「まっ、いいか。俺はコイツにするぜ」


そう言いながら、俺に自分が選んだ人の写真を見せてきた。


「いいんですか?」


「ああ、もちろん」


こうして俺達の賭け事の対象が決まった。


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俺らは場所を上の大きなモニターがある階に移った。


「うまいなこのジュース」


「そうっすね」


俺はサンダーズさんに奢ってもらい、その階で飲み物を飲みながら二人でくつろいでいた。


そろそろ始まる時間だ。


「今回の競技で何が必要かわかるか?」


いきなり、サンダーズさんが聞いてきた。


「そりゃあ、狙撃の腕じゃ」


「そうだな。だが、今回の競技では動き回ったりするしなそういった力も必要だ」


わかっている。


その点も問題ない。


射撃の腕がいいだけで、一位になったわけではない。


あいつはその年を動き回るだけの体力だって、速さもある。


サンダーズさんが選んだ人にも劣っていない。


「君が選んだ彼はその点も問題ない。俺が最初に能力だけで選んだ中にもいるしな」


その発言が少し気になった。


「能力だけ?」


この競技で必要な射撃や体力といった能力を照らし合わせるのが一番いいんじゃ?


「能力だけで選んだならまだまだ、足りないぜ」


と、ぶやついた。


「君達の訓練所は森の中だろ?」


「はい」


「競技が行う場所はボロボロになってはいるが都市部だ。環境がまったく違う」


言われれば、俺達はいつも試験や訓練は全部森の中で行われていた。


都市なんかで行われたことはない。


だが、


「大きく変わるんですか?」


あくまで、射撃だ。


そこまで、変わるのか?


「そうやって、彼も考えてたらこの競技ではだめだな」


「そうしてですか?」


「森の中ではゲリラ的な動き、ばれないように動くことが多くなる」


俺らの訓練では森の中でばれないように動いていくことが多い。


「都市部や平野にある訓練所の奴よりも動きが消極的になっていく事が多いんだ」


他の訓練所の事は知らないが、そう言われればそんな気がする。


「さらに、スナイパーといった奴は敵にばれないように動くことが鉄則だ。彼の情報を読む

とそっちの基質がある」


俺がファルコを選び、宣言した時間はそんなにない。


何この人はまったく知らないファルコの性格なんかまで読んでたのか。


「いくら射撃が得意といっても、こういった動き回りながらやる射撃にはあまり向かないん

だ。まあ、それでも一位になるような奴し、応用力もあるから、上位は狙えるかもな」


そうだ、向かないっていってもファルコは俺らの一番だし、基礎的な能力はサンダーズさん

が選んだ人にも劣っていな、なんなら勝っているくらいだ。


「そうですよ、負けないっすよ」


「ああ、そうだな。サシなら俺が選んだ方が負ける可能性が高いと思うけどな」


サシなら?


んっ、そういうことか。


俺は急いで情報を再び開いた。


送られてきた中にはあった。


競技が行われる時のスタート位置が書かれているものが。


俺はファルコのスタート位置とその周りを確認した。


「気づいたみたいだな」


そう、この戦いはサシで行うものではなく、全員敵の戦いだ。


そして、ファルコのスタート位置の周りの人間を調べてみた。


射撃の成績はファルコと匹敵する対抗馬が一人いた。


他にも成績はファルコ程ではないが、高いレベルの人もいた。


一方で、サンダーズさんが選んだ人の周りには対抗馬になりそうな人がいなかった。


「これは不利ですね」


「これでわかったか?ただ能力を見るだけじゃ足りない。その周りの環境もしっかりと観な

ければならないってことが」


「はい」


この人は俺が選手の能力を見ている時間の間に、俺よりも選手の事を詳しく観て、その周り

の環境まで考慮して選んだってことだ。


これが、若手筆頭の男。


"ウィリアム・サンダーズ"少尉か。


「まあ、そう気を落とすなよ。あくまで、不利ってだけで勝負はついてないんだから」


そして、モニターを見ると始まった。


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1時間の"射撃の競技"が終わりを告げた。


ファルコの結果は8位に終わった。


ここに集められた人はどこの訓練所でも一番の成績を収めた人達だ。


そんな選りすぐりの人達の中で一桁の8位を取ったんだから、十分な成績だ。


だが、サンダーズさんが選んだ人の結果はなんと1位。


都市を縦横無尽に走り回るさまは圧巻だった。


ファルコも後半に盛り返しはしたが、前半のツケにより8位に終わってしまった。


「賭けは俺の勝ちだな」


「そうっすね。予想通りですか?」


「上手く行き過ぎたが、大体はな」


完敗だな。


「負けました。でも、また来ますよ。今度は堂々と見にね」


そうだ、俺は出世してまたここに来るんだ。


「いや、その必要はないぜ」


サンダーズさんはそう言って、一つ本を取り出した。


「こいつを君に貸そう」


その本を俺に渡してきた。


「これは?」


「昔使われていた歴史の教科書だよ。21世紀より前の事が書かれている」


んっ?


21世紀って事は、2000年前だろ。


「別にそこらへんはいいんですけど」


「そういうな、昔にも戦争が起きてるんだ。今を知ることはもちろん大事だけど、その前の

同じような出来事の始まりや終わりをしるのも勉強だ」


と、言われても。


俺の知りたいことは今の事だし、それがわかる本だってわかったんだ。


「ちなみに、お前に進めた本。読んでもお前の知りたいことはしれないぜ」


「はぁ!」


「俺らが習っている事をさらに細かく付け加えられているだけだ。色々知れるとは思うが、

答えはない」


「なんでですか?」


「あの本はこっち側の視点しかない。向こうの視点がわからないんだよ」


確かにそうだけど。


「向こうの視点が分からなきゃ、きっかけなんてわからないぜ」


じゃあ、俺が始まりを知るには、


「終わらせないといけないってころですか?」


「そうなるな」


じゃあ、今までのやり取りは何だったんだ。


「無駄に思ったか?」


心でも読んでんのかこの人。


「まあ、少しは」


思っている。


無駄だったんじゃないかと。


「意外と無駄じゃないぜ。だって、俺がこなきゃお前は今日一日ない答えをずっと探してた

だろう。それに、ここに来たら同じことを繰り返す。その時間が俺とあった事でなくなった

んだ」


「まあ、そうですけど」


「だから、良かったんじゃないか」


「そうですね。それに、終わらせられれば知れるんだ。俺の目標の通過点なんで、やること

は変わらないですし」


そうだ、知ることはできなかったが、俺が目的を果たせばわかるんだ。


それが知れて良かった。


俺はそう言い聞かせた。


「そうか、その目標は何だ?」


「俺はこの戦争を終わらすことが目標です」


どちらも仲良くするという部分を省いたが、サンダーズさんに堂々と言った。


「そうか、そいつは大変だな」


ああ、そんなのはずっとわかっている。


だが、俺の目標は変わらない。


「サンダーズさんの目標は何ですか?」


「俺の目標か?」


「はい。俺と一緒ですか?色々戦争についての本調べているみたいですし」


そうだ、この人は俺が戦争の始まりを知りたいととしって、ここにはないと断言している。


この人も俺と同じように調べてるんじゃないか。


そう、思った。


「まあ、そうだな。何でこんな事をするのかで調べはしたが、お前ほどではないぞ」


そうなのか?


「でも、お前の目標は俺の通過点だな」


通過点?終わらすことがか?


「俺の目標は誰よりも上に行くことだな」


「総司令官ってことですか?」


だったら、別に終わらせることが通過点ではなくないか。


その前にならなきゃいけないんだし。


「いいや、もっと上。火星に行くことだな」


サンダーズさんは上を指さしそう言った。


物理的に一番上ってことか。


「今の技術でもいく事は問題なくできる。だが、そんな暇はないんだよ。人を飛ばしてるな」


その通りだ。


今は兵器の開発や資源の確保にリソースを割いてるんだ。


宇宙開発が全く意味がないわけではないが、人を飛ばしたり、する暇はない。


サンダーズさんの目標は今叶えることはできない。


「わかるだろう。だから、俺は速く終わらせたいんだよ」


少し悲しそうにいった。


「だから期待してるぜ、君の目標が叶えば、俺は夢に届くかもしれないんだからな」


「まかせてくださいよ」


「ああ」


そう言って、サンダーズさんは立ち上がり、


「じゃあ、また会った時にそいつは返してくれ」


本を指さしながらそう言った。


「はい」


「それと、俺が出世して君が俺の部下になったら感想でも聞かせてくれよ。約束だぜ」


「はい」


俺は声を大きくして返事をした。


サンダーズさんはどこかへ行ってしまった。


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「サンダーズ少尉」


歩いていると呼び止められた。


俺は振り返ると、見知った顔だった。


「なんだレーゲン中尉か」


「なんだとはなんだ。お前パーティーにでず何してたんだ」


あれなんか怒ってる?


「いや、あんまし興味なかったんで図書館に」


中尉は思いっきりため息をつき、


「まったく。まあ、いいすぐいくぞ」


「了解です」


そして、二人で帰りの車に向かった。


「中尉は中佐が言った、"一期一会"って覚えてますか?」


俺はそう尋ねた。


「ああ、覚えてるよ」


「今日、昔の自分みたいにパーティーに出ないで図書館にいる奴を見つけましてね。なんか

懐かしくなりましたよ」


「へー、どんな奴だった?」


「面白い奴でしたよ中々ね」


このご時世、徴兵の仕様上仕方なく来る奴、敵討ちやらなんやらで来る奴が多いい中、あん

な理由で来る奴は少ない。


それに、まだなんか隠してそうだし。


「俺に似てね」


「そうか、ろくな奴じゃないな」


「それって俺にもいってます?」


「さあな。それで何かしたのか?」


「はい。賭け事して、そいつにおすすめの本を渡してやりましたよ。あと約束も」


あいつは俺になんていうのか、楽しみだ。


「そいつは果たせるといいな」


「そうっすね」


また、会って話せればいいが、


「でも、まあ"一期一会"っすからね」


「そうだな」


俺達は車へと乗り込んだ。


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サンダーズさんと離れ俺はパーティーの会場に向かった。


「何してたの?」


「まあな」


戻るとエヴァに聞かれたが、何て言っていいかわからない。


「話は聞いてる。とりあえず、終わったから帰りの支度をしとけ」


コンゴウ教官にそう言われた。


俺らは帰りの支度をして、電車に乗った。


「いやー、惜しかったね」


電車の中でエヴァが先ほど行った競技の話題になった。


「うん。少し悔しいよ」


「精鋭が集められた中で8位なんだからすごいだろ」


「あれ、バトラー君も見てたの?」


「まあな」


「フーン」


「それより、さっき持ってた本は何?」


ファルコは俺が行きには持っていなかった本を持っていたことが気になったらしい。


「まあ、なんだ。借りもんだよ。約束したんだ」


そう言いながら、俺は窓から空を見た。


二人はそんな俺を不思議そうに見たが、それ以上詮索しなかった。








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