第3話 旗取 前半

3話 旗取 前半


対抗戦の"旗取り"の説明から1週間が経ち本番となった。


俺達は現在Bクラスであらかじめ決めていた旗の位置で全員待機している。


この1週間俺達Bクラスはエヴァを筆頭に対策や作戦を考えて一つになっていた。


Bクラスのランキング上位勢がリーダーとしてそれぞれ何人かを引き連れて、攻撃・防御・偵

察といった感じで分かれて行うことになっている。


俺は今回リーダーとして、ベベ・ケン・ビルを引き連れて偵察することのなっている。


主な目的は相手チームの旗の位置とおまけで攻めている敵の位置などを確認することだ。


重要だが大変な役割だ。


「頑張ろうな、リーダー」


「おい、その呼び方やめろ」


ケンは俺を冷やかしにながら背中を叩いてきた。


「まあ、いいじゃないか。モモがリーダーなんだし」


べべも便乗して、ビルも頷いている。


「はー、まあいいけどよ。もう始まるんだからしっかりしとけよ」


「「「はーい」」」


と三人から気のない返事が返ってくる。


まあ、始まればちゃんとするだろう。


そういう奴らだ。


そんな風に仲良し4人組でいつもの感じでしているとアレンがこちらに来た。


「モモ、頑張って旗見つけてきてくれよ」


「ああ、そっちも頼むぞ」


俺らはお互いに握手をし、アレンはすぐに自分のチームの方に戻った。


「仲良くなったな」


「まあ、1週間も色々話し合ったら仲良くなんだろ」


事実この1週間で前よりもアレンとは対抗戦関係なく話したりと仲良くなった。


「えっ、じゃあエヴァちゃんも?」


ケンが少し食い気味に聞いてきた。


「まあ」


エヴァとも前よりは話すようになったきがする。


「いいなー」


羨ましがれはしたが、この1週間は大変なものであったため、そんないいものでもない気が

する。


『5分後の合図とともに対抗戦が開始だ』


教官のアナウンスと共さっきまでの雑談が終わり、全員が気を引き締めていった。


「じゃあ、最後に始まったら俺らは最速でココ目指すからな」


俺は最終確認として、予め予想をしていた相手の旗が設置されそうな場所に指をさした。


「それで違ったら、こうやって移動していくからな」


そのまま、マップを指でなぞって確認をした。


三人とも頷いた。


そして、時間が経ち。


『バンッ』


という銃声のような大きな音とともに対抗戦が始まった。


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「あれって」


最初の予想した場所に旗はなく2つ目の場所を目指していると、木々に隠れて見にくかった

が、高台があることに気づいた。


高台は少し高いが、ポイントで指定の位置に置くことができる。


「なあ、あそこに高台ならこっちにあるんじゃないか?」


べべはマップを出して、ある場所を指した。


俺たちが4番目に回ろうとした場所だ。


この場所は指定のエリアの端であり、また舗装されていない森に囲まれているため攻める場

所が限られているが、標高が周りと比べ低くて周りを見ることがしにくい地形で、奇襲に弱

く選ばないと考えていた。


「あるな」


だが、高台があればそんな問題も解決できる。


相手の拠点はできるだけ早く見つけておいた方がいい。


可能性も高いし、


「見つからないようにいってみるか」


ということで、俺たちはそっちの方へと移動を始めた。


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「あったな」


べべがマップでさした場所に相手の旗、拠点があった。


俺たちは少し離れた森の木を登って拠点やその周りを観察していた。


「とりあえず、ケン報告頼むは」


「りょ」


ケンは通信機を使って、報告し始める。


マップでわかるように攻められる場所は限られてそうだ。


意外と俺らの拠点との距離はないが、めんどくさそうな拠点だ。


「で、何かわかるか」


俺はポイントで得た双眼鏡で相手の拠点を見ているビルに聞いてみた。


「うん、旗の周りにテントはったりしてる。後、さっき寝袋とかも見えたよ」


「そうか、やっぱり長丁場になりそうだな」


予めポイントで買える物のリストで、暗視のスコープがあった事を確認してる。


ポイントもそこそこ高いが、10個ほど買うことができる。


寝床を準備していることから、おそらく向こうは夜まで対抗戦が続くことを想定しているだ

ろう。


もしくは、夜に仕掛けてくるかのどちらかだろう。


「後は、僕たちと違って食べ物が生ものばっかだな」


「そりゃあ、暗視のスコープや高台なんか買ってたら俺らよりポイント使ってるからだろう

な」


「モモちゃん、大体伝えたぜ」


「おっ、わかった。だったらとりあえず、ベベとビルはここに残って相手の動向見といてく

れ」


「ああ」


ビルも頷いた。


とりあえず、一つの目的は終わった。


俺とケンは拠点から離れた相手の動向のチェックする必要がある。


ケンはこの中で、体力は俺と同じくらいのため、この後の長丁場になる事にピッタリだろう。


俺とケンが移動しようと準備をしていると、


ガサガサ


と、突然後ろの茂みから音がした。


後ろを振り返ると、大きな男がいた。


「あら、ばれちった。でかいのも考えもんだな」


でかい。


ビルも180cmでこの訓練所ではトップクラスで大きいが、それよりもでかい190cmの巨体。


"マッド・マスティフ"だ。


ビルは大きいが細身であったが、ここの訓練で肉も付いてきて大きくなってきた。


しかし、マッドはそれよりもさらに一回り大きく、圧倒的な雰囲気を醸し出している。


「四人か」


「ビル」


少し呆気にとられたビルに俺は声をかけた。


ビルはその声に驚きながらもすぐに持っていた銃を取り出して、マッドを狙おうとした。


マッドはすぐに反応して、木の陰に隠れた。


「ごめん」


「いや、大丈夫だ」


すると、後ろからナイフが飛んできた。


「後ろ」


俺は大きな声を放った。


それに反応して全員が後ろを見たが、ビルは反応が遅れナイフを避けきれず腕に当たってし

まった。


「イッ」


脱落はしなかったが、ビルの腕には電流が流れたらしい。


そのスキにさっき隠れた木の陰とは別の場所からマッドから飛び出してきた。


ビルはなんとか銃を突き出して、


マッドは巧に左右に動き狙いを定まらないように動き近づいていった。


ビルは電流の痺れのせいで、狙う事ができず、近づかれてしまった。


そのまま、銃を持つ手を抑えて、ビルは制圧されてしまい、そのままナイフでビルは刺され

てしまった。


「あっ」


ビルは銃を落とし、脱落してしまった。


この間わずか10秒程。


やられた。


しっかりと潜伏ができるのにわざとばれて自分を囮にして、後ろから攻撃して、銃持ちを脱落

させる。


相手にはめられたか。


そのまま、マッドは銃を拾うとしたが、俺は勢いよくマッドにナイフで攻撃した。


それは防御されてしまったが、俺は銃をベベたちの方に蹴った。


「お前らは隠れて奴をなんとかしてくれ、俺はコイツをやる」


べべはすぐに銃を拾い、


「わかった」


と言い、ナイフを投げられた方に二人で向かった。


「いいのか?一人で」


俺達二人はナイフをぶつけ合っている。


「余裕」


相手が力で押そうとしてきたため、俺は足をかけて、距離を取った。


正直力勝負で相手の方が上。


でも、まあ負ける気はねえ。


俺はマッドにナイフを向け、


「さっさとやろうぜ」


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「さっそく始まったな」


「ああ」


講堂の一つ、ここはBとDクラスの教官や何人かの試験官でいくつものモニターを通してこの

対抗戦を監視している。


「えーっとマシューの相手はと」


Dクラスの教官"マイル・コヨーテ"はリングを操作し、名簿を見ている。


「あった、"モハメド・バトラー"か」


どうやら名簿からバトラーの事を見つけたらしい。


俺も操作をし、バトラーの相手である"マッド・マスティフ"の情報を見た。


「11位か中々の成績だな。でも、相手がマシューかあ、こいつは運がねえな」


確かに、ヨーデルの身体的能力のテストはどれも高得点をたたき出し、格闘訓練は1位を獲得

するほどの好成績である。


「確かにな。数字の対決ならバトラーの負けだな」


「なんだ、コンゴウもやっぱり自分の教え子はかわいいか?」


「いいや、どんなに好成績を収めたとしても実際に戦場で生き残るとは限らない。この対抗

戦もそうだ。平均点が高いほうが勝つならこんなことわざわざする必要はまいしな」


「確かにな。でも、あいつは少し単細胞基質だが、贔屓目なしであいつは強いぜ」


「まあ、見てればわかる」


「そうだな。会話も聞こえるしな」


そう言い、二人でモニターを見た。


『さっさとやろうぜ』


バトラーの一言で、一気に勝負が始まった。


二人は訓練で習った近接格闘術で激しく戦った。


格闘術といっても何も素手だけではなく、ナイフや銃剣などの武器を使用して行うこともあ

る。


「おっ、こいつはレベルが高いな」


コヨーテの言うように、二人の近接格闘術は相当高い。


「さすが、1位と5位の戦いだな」


バトラーも格闘術限定なら5位の好成績でもある。


「Bでは二番目か、一番が確か女の奴だったよな」


「ああ」


二人のナイフがぶつかりあっている。


技術はバトラーの方が上だが、身体能力はヨーデルの方が上。


「すごい技術だが、マシューの力をさばききるくらいのレベルではないようだな」


コヨーテの言うように、その力に手を焼いているように見える。


「時間の問題か」


そう考えていると、マスティフの下からナイフの振り上げに対して、バトラーは受けようとし

たが、受けきれずナイフが飛んで行ってしまった。


そのまま、マスティフはナイフを突き出した。


バトラーは左手でナイフを持つ腕を弾き、右腕でその手首を固定し、技をかけ、地面に倒そ

うとした。


コヨーテはその痛みでナイフを話してしまったが、踏ん張って、反撃をした。


バトラーたまらず、その反撃を避けるために、距離を取った。


その際に落としたナイフを蹴って自分の方に寄せた。


拾おうとしたが、ヨーデルがそれを許さず突っ込み、ナイフを遠くにやった。


『中々、やるじゃないかバトラー』


ここまでは一進一退。


両方とも譲らない。


『知ってたのか?』


『そりゃあ、相手を調べてるのはこっちも同じだぜ。お前はBクラスの3番目で、格闘術は全

体で5位だろ。ガットが警戒してたぜ。まあ、俺は1位だがな』


『そいつはどうも』


『だが、正直ここまでだと思わなかったぜ。女に負けて2番目だからな』


マスティフは少し挑発気味にバトラーに言った。


おそらく、動揺でも狙ったんだろう。


『そいつは手痛いな。まあ、あいつは強いしな』


だが、あんまり聞いてないようだな。


まあ、実際にデイビスはクラス内で1番で納得の強さだ。


『まあ、俺はたいしたことないと思ったぜ、お前のこと』


『ああ?』


負けじとバトラーも続いた。


『だってよ一番って聞いてたけどこんなもんかってな。まあ、格闘訓練はクラス内でのポイ

ントだし、クラスの奴がたいしたことないなら勝手に点数あがるしな。なあ、お山の大将』


マスティフは顔を赤くした。


「あっちゃあ、怒ってりゃあ。あいつは横暴ではあるけど仲間思いだからな」


確かに見るからに怒っている。


『てめえ、何馬鹿にしてんだ。うちのクラスをよ』


バトラーの挑発の作戦は成功した。


そして、今度は二人の素手による近接格闘術が始まった。


怒りのせいか大振りにはなっているが、その分パワーも上がっている印象がある。


実際バトラーは相手の攻撃を受けると顔を少し引きつっている。


「挑発は失敗だったか」


「かもな、マシューの攻撃は受けきれてないしな」


その瞬間、バトラーはヨーデルの顔への右ストレートを避けるのと同時に、相手に足を掛け

た。


ヨーデルは耐性を崩した。


そして、その場所にはナイフが落ちていた。


「おっ、いつの間にナイフが飛んだ場所まで移動してたのか。狙ってたのか?」


「そうかもな」


どうやら、バトラーは攻撃をわざと受けながら最初にナイフを飛ばされた場所まで移動して

、ナイフを拾う事を考えてたみたいだ。


相手を挑発して怒らせたのも周りの状況を見えないようにするためだろう。


そして、スキを作ってナイフを拾う。


どんなに攻撃を受けても、最後にナイフと銃でとどめを刺した方の勝ちだ。


ここまでは完璧だ。


だが、マスティフもそれに気づき、直ぐに体制を戻してバトラーに抱き着き持ち上げた。


そのせいで、バトラーはナイフを拾う事ができなかった。


「さすがだな、これでまだわからなくなったな」


「そうだな。このまま落とせるならヨーデルの勝ちだな」


ただのハグだが、あの巨体から放たれる力はまさにクマの力のハグ、まさに"ベアーハグ"だ

ろう。


しかし、決着は呆気ないものとなった。


バトラーの袖からナイフを取り出した。


ヨーデルは上を見ているためそのことに気づいていない。


そのまま、バトラーは抱き着き、ナイフを刺した。


『えっ!?』


ナイフでの背中への攻撃、文句なしの脱落だ。


おそらく、マスティフの無線から脱落の合図が流れたのだろう。


「決着のようだな」


「まじか、マシューの負けかよ」


最後の決着が隠しナイフの一撃で終わるとわな。


まあ、勝ちは勝ちか。


Dクラスの主力を落として、Bクラスは一歩リードってとこか。


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「えっ!?」


マッドからは間の抜けたような声が聞こえた。


そりゃあそうだろうな。


俺に力強く抱き着いて、打開しようとしたタイミングで自分の無線から脱落の報告が聞こえ

たのだから。


「お前、何したんだ?」


俺はマッドに向かって隠してたナイフを見せた。


「2本持ってたのか」


「ああ、頭になかったのか?」


俺はビルに支給された分のナイフを予め受け取っており、袖の部分に隠していた。


「んっ、ナイフを飛ばした時に新しいのを出さなかったし、落ちたナイフを拾おうとしてた

から、お前にはもうねえっては思ったが」


「だったら、よかったよ」


相手の俺の武器がもうないって思わせられてたのなら俺たちの作戦通りだな。


「ここまで、全部てめえの手のひらってわけか」


「いいや、そこまで読めるわけないだろ。隠した奴は絶対に決められる時、さっきみたいな

距離の近いときとかに不意で使う用で、拾ってそのままきめるつもりだったし」


「どちらにせよ、ナイフを拾う過程わハメられてわけか」


「まあ、そこわな」


元々、意外と仲間思いの短期ってことは知ってたからな。


わざと挑発して、周りが見えないように仕向けた。


作戦がうまく刺さってよかった。


「それより、速く荷物置いてエリアから離れな。ペナルティ食らう羽目になるかもしんねえ

ぞ」


「そうだな。負けちまったし」


マッドはすぐに持っていた荷物を袋にまとめて、ここを後にした。


荷物も回収したし、速いとこベベ達の方へ行かなきゃな。


そう考え無線で連絡を取ろうとしていると、


『こっちは終わったぞ』


連絡が向こうからきた。


どうやらほぼ同時に終わったみたいだ。


「だったら、最初のとこに一回来てくれ」


そう伝えて、しばらく待つことにした。


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「おまたせ」


「どうだった?」


「こっちは二人分回収したぜ。モモちゃんは」


「俺は一人分」


「相手の主力だろあいつって」


「ああ」


「ビルは落ちたけど、でかいよな」


べべの言う通りで、マッドを落とせたのはでかい。


それに、こっちの作戦的にも相手の持ち物わ必要なため、三人分回収できたのもいい。


「そうだな。とりあえず、俺がここで相手の拠点を見る」


「わかった。じゃあ、俺達が索敵か?」


「いいや、とりあえずリアムのとこに荷物を持っててくれ」


俺はベベとケンにマッドの荷物を渡した。


「わかった」


そう言うと、二人はすぐに離れた。


リアム達の状況は全くわからないが、作戦通り上手くいっていることを祈る。







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