*


 こうやって彼女と会うのは、今日で三回目だった。

 季節は完全に冬。近年、境界があやふやになっているように感じられる四季も今年ははっきりしていて、彼方から水面を駆けて私を掠めていった朔風が身に染みる。

 街を流れる大きな河の川路にて、一本前の橋で彼女と別れた私は独りである。

 冬の夜のしん、とした空気は大変好みだ。日中フル回転させてオーバーヒート気味の脳みそを、身体に張り付く外気が気持ちよく冷却してくれる。

 凪いだ川面に、街灯が等間隔で揺れていた。

 吐いた空気が静かに白く、後方になびいて消える。


 私としても、今冬の状況は信じ難いものがある。

 冗談ではなく、夢の続きにいるような、ふわふわとした現実感の無さがずっと続いている。これは一つの「可能性」のお話の中なんじゃないかと、たまに本気で思ったりしてしまう。

 夜寒の散歩は思考が促進するので、実に様々なことが浮かんでは消えていく。だから、今生きる世界が本物か偽物かなんて終わりの見えない不毛な問答は、こんなときにはぴったりだったりするのである。ただ、今日に限っては、「この世界が本物だろうが偽物だろうが、どうでもいいや」というのが結論になってしまった。それくらい、今は心が満ち足りていた。

 相も変わらず、私は湿っぽくて無駄に煩雑としている。ある種の面倒くささをアイデンティティにしている節まであって、突きつけられた不可能性に絶望し、数多の可能性にも結局届くことはないと悟って肩を落とす、基本的にそんな人間である。

 そんな私に、今年はいつもと違うところがあった。彼女と三度も時を一緒にしているのだ。

 全て、私から声をかけた。

 近づきたいと、本気で思ったから。

 私は私なりに思考して、充実した生活を送ってきたと自負していた。でも、彼女と喋った後は、もっと深くの、もっと心の根幹のところが、温かさと優しさを纏って鮮やかに色を取り戻していた。

 もちろん、彼女に近づいたところで彼女の気持ちに触れられるわけでもなくて、実際的な展開に発展させていく勇気なんてありゃしない。

 自分のことさえ言葉で固定するのが精一杯の私に、彼女の内までわかるはずがなく、あずかり知らぬ焦燥感に駆られて不安になることも増えた。

 でも、その苦悩を。彼女と出会ってしまったがために訪れた苦悩を、何故か私は愛おしいと思った。あれほど外部から断定されることを嫌った私が、彼女の世界に生きる私でいたいと願ってしまった。彼女の目に映る私が本来の私であると思い込みたい衝動に駆られるほど、抱きしめたいと願ってしまった。気づくと、今に意味を見出していた。いつだって過去を振り返れば未熟で、幼かったと抱きしめたいのに何も変わっていない今が嫌いだったのに。

「……信じられないな」

 月が見守る川路で、そう独りごちた。

 踏み出した一歩に、砂利が夜に鳴


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