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全ての情報を「データ」として保存し、管理する。
今から二十年前。それが世界の選択だった。
きっかけは脳みそを駆け巡るシグナル全ての解析が終了したこと。かつて研究者たちがヒトDNAの塩基配列を全て解析し終えた偉業に続き、それは間もなく人類が手にした玉手箱であった。思考プロセスが脳みそを移動する電気信号を元に明らかになり、小型・軽量な装置によって所謂人間の「心」を「データ」として保存できる技術も登場した。
人間は何故忘れるのか。
世界はそれを人間の不完全性故であると判断した。人間の脳みそには容量の限界があるから、日々新たな情報を取得するために、その容量を確保するために人は忘れるのだと。
ならば、無限の容量を付加してやればいいではないか。
人が知覚する文字通り全ての情報を、その後の思考も含めて外部ストレージに久遠保存する。
やがて人間として生きるために、それが義務となっていった。
世界は、技術によって忘れない生命体を人類と定義した。
到底受け入れ難かった。私は、忘れる弱さこそ人間であると考えていたから。
取り出せない個人固有の世界に生きる尊さを、抱きしめていたかったから。
だから、私は世界に置いていかれた。
生態系の圧倒的頂点に君臨し、もはや自然選択によって進化することがなくなった人間は、ことを急いで自らで進化する道を選んで歩み始めた。良し悪しの如何は誰にもわからない。ただ、世界に私が置いていかれたという事実だけは確かであった。
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