最終章 8-2
男児の誕生を感知した私は、全ての予定、工程を破棄し、二度と戻るまいと決めていた王都へと帰還した。
表向きには私は神の御許に召されたことになっているため、密かにクラウディと連絡を取り合い、屋敷の敷地の一角に設けられた別邸へと身を潜めた。
そこはかつて、私が身重の妊婦に
当面の間、私はここから彼を監視することにした。今までの男児たちは、早ければ三歳頃、遅くとも五歳までには
始めの内は、兆しは見られなかった。彼は健やかに成長し、魔法の適性が極端にないことを除けば、
屋敷で催された
幸いにして、そのときは私の回復魔法により彼は一命を取り留めた。マイナにより奪われた生命力を補填することで、翌朝には何事もなかったかのように起き上がり、周囲を安息させていた。
しかし、私には分かっていた。
その日、私はこれまでそうであったように、五歳の姿で彼の前に現れた。彼は無邪気に笑いながら手を差し出してきたが、私はそれを取るのを
空の力で生命力を奪われてしまうのではないか、私もお父様のように消滅させられてしまうのではないか、そんな恐怖が過ぎったのだ。
彼は少しだけ表情を曇らせたが、次には構わず私の手を握った。その瞬間、頭の中に懐かしい記憶が洪水のように溢れ出してきた。いつかお姉ちゃんと手を繋いで歩いた、あの遠い日の思い出が蘇ってきたのだ。
何故なのか、その理由は分からない。しかし、彼もまた同様であったらしく、私たちは
それから、彼に屋敷の中を案内された。もう誰よりも永く棲んでいた場所であり、知らぬことなど何もなかったはずだが、彼と歩むそこは何処か新鮮に感じられた。
屋敷の全てを回り終えた後、大事を取って彼を休ませることにした。彼は尚も遊び足りないようだったが、母親からこっぴどく叱られると、大人しく自室の寝台へと身体を横たえた。
彼女が部屋を出ていく瞬間、私と目が合った。その眼差しからは全てを覚悟していることが窺えた。
私はこの後、何をするのかを彼女には教えていない。それを話してしまうと本来の効果が損なわれ、折角の策が水泡に帰してしまう恐れがあるからだ。
しかし、私が何かをすることを彼女も確信しているのだろう。これが成功するのか、或いは成功しても良いものなのか、本当のところは分からない。それでも、私は彼女の信頼に応えねばならない。
部屋に残された私。彼と二人きりの空間。私は
「あなたはこのことを忘れてしまうけど……もしも、思い出したときには、必ず私に会いに来てほしい」
私はそっと瞳を閉じると、彼と口付けを交わした。他者にこの魔法を掛けるにはこうするしかない。だから……そう、仕方がないことなのだ。
それに実を言うと、これが始めてのことでもない。でも、何故か胸の鼓動が一段と高鳴るのを感じていた。
だから、彼の存在をその
その日から彼は、レイネリア=レイ=ホーリーデイは、女の子になった。しかし、私にも予見できないことはある。魔法の行使を完遂し、ゆっくりと目を開けた私の前には、幼き日のお姉ちゃんの姿があった。
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