この友情には名前を付けない

上野あき 無気力

ありきたり

「さーくーらー----!!!!」

後ろから声が聞こえ振り返ったと同時に抱き着かれた。顔を見なくてもいつものことなので誰かはすぐわかる。


「どうしたの?めぐ、今日は一段と元気だけど」


「元気じゃないよ!また、あいつが拓海君にべたべたしてるの!!付き合ってもないのに、絶対拓海君迷惑してるって!あー、もうマジむかつく!!」


拓海君とはめぐの片思いの相手でサッカー部所属というモテの王道を突っ走ってるような男だ。


あいつというのは、そのサッカー部のマネージャー木村桃花、サッカー部に恋している女の子の共通の敵(めぐ情報)らしい。


木村桃花はマネージャーなのでサッカー部とはため口で話すし、互いに下の名前呼び、バレンタインも普通に手作りチョコを私に回るという猛者だ。もちろん友チョコとして渡しているのは第三者の私から見ると一目瞭然だが恋をしている女の子から見るとそうじゃないらしい。



拓海君に恋して8か月ちょっとめぐは毎日拓海君と木村桃花の様子を伝えてくる。見ているのならば話しかければいいのにと言ったら「さくらはなんもわかってない!」と言われたので聞き役に徹している。



「昨日も部活の練習中に何回も話してたんだよ!マネだったら邪魔せず裏方にてしってろっつーの、選手の邪魔すんなよ!」


「めぐだって、練習中にマネの私と話してるじゃない。一個一個気にしてたらきりないよ」とからかいながら返す


「違うじゃん!さくらはうちらテニス部の癒しなの天使なの、頑張る力もらいに行ってるんじゃん!」

ほっぺを膨らませながらぷんぷんと効果音が付きそうなおこり方をしているめぐは本当にかわいいなと思う。拓海くんも早くめぐの気持ちに気づいて幸せになればいいのにと思っているんだけど、



「ねえねえ、さくらもいないの?片思いしてる人?JKでいられるのあと二年しかないんだよ高校卒業したらおばさんだよ?若くてぴちぴちの間に恋しないと!」


と人類の半分以上を敵に回すような発言は日常茶飯事。若気の至りってことで許してもらおう


「何回聞かれてもいないって言ってるでしょ、中学で片思いして告って振られてそっから恋してないの、何回も傷口えぐらないでよ」

自嘲しながら言うが本当にそのとおりである。塾の帰り道話したいことがあると呼び出し告った挙句振られたきり好きな人なんて一回もできてない。別に未練があるとそーいうのじゃない。


「さくらは私のあこがれなの可愛いし、頭いいし、マネだけど運動神経めちゃいいし女子の欲しいもの全部集めた感じなの、絶対さくらに片思いしてる人いるよ。実は告白されてました、なんて言わないでね私に言ってね見極めてあげるから」


「そんなに褒めても何も出ないし過大評価しすぎ、告白なんて気配も何もないよ、あったら言ってるし」


「ほんとに?幸也くんとの噂はどーなのよ本当なんでしょ、火のないところに煙立たないっていうし」


「この話、月1ではしてるけど幸也はなんもないよ。小中高一緒なのが唯一だからお互い同級生の情報交換してんの」


「しょうがないじゃん、さくらが恋みたいな話、中学校の話しかしないんだから新鮮な恋の話が聞きたいの、飢えてるのよ」


「飢えてるって、ふつーの友達だよ。なんもない、なんかあったら私が一番びっくりする」


「えー、つまんないよー」



そう、友達だ。わたしとゆきやはこれから先もずっと友達である。


ここの間に恋愛感情はない。





幸也の好きな人も私の好きだった人も同じだからだ。


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この友情には名前を付けない 上野あき 無気力 @uenoaki22

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