26話 お嬢様とメイド見習い誘拐されました

「お…さま…じょうさま…」


うーん…あと5分…


「お嬢様!」


ふえ!?


「よかった…お気づきになりましたか…。」


カーラが安堵の表情を浮かべている。あー、そういえば試験が終わって帰りの馬車の中で急に眠くなって…


「カーラ!あなたは大丈夫なの!?あと護衛の騎士さんは!?」


思い出した。カーラと騎士さんが変な寝方してて私も眠くなってこれはマズイやつなんじゃ…って思った瞬間から記憶がない。カーラに特段異常は見られないけど騎士さんが見当たらない…そして周りを見渡してみるとバスケットコート1面分くらいの空間に20人くらいの人がいる。中には受験の時に見た記憶がある同い年くらいの子もいるね。


「私は大丈夫です。お嬢様が中々お目覚めにならないので心配でした…。騎士さん…というかここにいる皆さんの護衛の方は私が気づいた時にはいなかったのでこの空間にはいないようです。あと恐らく魔力封じが施された枷が付けられているので魔術が上手く行使できません。」


この空間は何なんだろう?周りには木箱が見えるけど上にも同じ木箱が見えるってことは魔術か魔導具でこの空間を囲むようにされてるのかな?周りから隠されてるって事は用があるのは私達か…。


「この魔導具に付与された術式はこの辺りの術式じゃないね。魔力を封じるというよりは霧散させて行使できないようにしてるのか…。それなら…」


試しに思いっきり魔力を込めてみる


バキンッ!


枷に填まっていた魔石が砕け散ったのと同時に術式が無効化されたね。


「お嬢様…?」


「予想通り!術式の容量を超える魔力流し込んでみたら核の魔石が耐え切れなかったみたいだね。でも枷自体は私の身体強化じゃ引きちぎれないかな…」


使えはするけど元々フィジカル強くないからあんまり身体強化得意じゃないんだよねぇ…。それならカーラの枷を壊せばいけるかな?

カーラの枷に魔力を流しこんで術式を破壊してカーラに枷を壊せるか確認してみる。


「ありがとうございます。それでは…フンッ!…ダメですね…枷自体がかなり頑丈に作ってあるので壊れません…。それでも身体強化は発動していますのでもし何かあったときはお守りできるかと思います。」


まぁ私も魔術は使えるからいざとなったら大丈夫だけどこの人数守りながら戦うってなるとちょっとキツイかなぁ…。何より私とカーラはがない。護身術とかはティア達に習ってはいるけど最悪命を奪う覚悟が出来るかどうか…。まぁこんな事する奴らなんてロクなもんじゃないから命をくれてやる義理なんてないけどね!


「さて…あとはどうしたもんかな…。多分ティア達が探し出してくれるだろうけどここがわかるか…そうだ!カーラの義手ってもう新しいのに変えてある?」


「はい、おとといメンテナンスの時に少し中をいじったとチェインさんから言われています。」


よっしゃ!ならGPSは入ってるだろうからティア達が工房に行ってれば間違いなく見つけてもらえる。


「え…?助かるんですか…?」


近くにいた女の子が話しかけてきた。確か受験会場にいた子だ。


「少なくとも場所はわかると思う。大丈夫、うちの人たちは優秀だからきっと助けてくれるよ!」


「本当ですか…?受験が終わって馬車に乗ったら眠くなって気付いたらここにいて…ひっく…」


そりゃ怖かったよね…私でさえ最初は不安だったしカーラがいたからどうにかなってたところもある。


「大丈夫、いざとなったら私達が守るから。私はマリン、こっちがカーラ。あなたもアカデミーを受けてたよね?ここを無事に出て一緒に通えるといいね。」


「マリンさんとカーラさん…。私はアイラと申します。小さい男爵家の次女で侍従コースに通う予定です。」


「じゃあ私と一緒ですね!私は一般枠ですけど侍従コースなので仲良くしてください!」


こういう時カーラの明るさと人懐っこさは強いなぁ…。


そうこうしてると木箱に模した壁の一部が開いて人影が見えた。一番入り口側にいた私とカーラはアイラさんを背後に隠し身構える。




「お嬢様!カーラ!」




ティアだぁ…。流石我が家の…というかティアは仕事が早い。後ろにいるのはマックスかな?


「お嬢様…申し訳ありません…。私達がお迎えに上がっていれば誘拐などされずに済んだのに…。カーラがついていたので大丈夫かとは思いますがお怪我はありませんか?」


「うん、大丈夫。こればっかりはしょうがないよ、多分そこの隙をついてこうなったんだろうし。」


ティアが珍しく少し狼狽えてる。ホント私の事好きだなぁ…。


「ティアさん…すいません。私がついていながらこのような事になってしまって…。」


カーラも心底落ち込んでいるようだ。責められることがあれば助け舟を出そう。


「いいのよ、お嬢様でも抵抗できないくらいの強い術式の魔導具だったみたいだしあなたも無事でよかったわ。」


ティアだしそんな心配は必要なかったか…さて、ティア達と合流できたし今後の話をしないといけないなと思ってたら…


「おい!お前らは助けなのか!?なら僕を優先しろ!」


はい?よく見ると同年代くらいかな…?彼も受験後に拉致られてきたんだろうか。


「僕は伯爵家の人間だ!一刻も早くここから出せ!」


あー、甘やかされて育ったんだろうねぇ…。むしろ貴族家ともなればこれが普通なのかな…?あ、ティアとマックスはスルーして打ち合わせしてる…。


「おい!聞いているのか!大方田舎の下級貴族家の者だろう?上級貴族家のいう事が聞けないのか!」


「坊ちゃま…あまり大きな声を出されては…」


「うるさい!お前は黙ってろ!」


知らないって怖いねぇ…彼はお付きの人も魔力があるのか一緒にいるみたい。これで伯爵家ねぇ…育ちで言えばアイラさんの方がよっぽどいい育ちをしてるよ…

ティアがそちらを向いて一歩出たところで私が制止する。


「お嬢様…?」


「いいの、任せて。」


同年代だし私も一発かましておきますか。ここで主導権握っておかないと脱出する時に困る。


「落ち着きなさい!彼らは私達を助けに来てくれたのよ?この状態で優先順位なんてあるわけないでしょう!それに貴族だから何?貴族なら民を優先するのがあるべき姿でしょう!私達は民失くしては生活すらままならないんだよ!?それに民は王陛下の臣民、つまりは王陛下の所有物。あなたは王陛下の物を無下に扱えというの?」


…と早口でまくし立てる。


「うるさいうるさい!僕たち貴族は選ばれし者だ!僕たちがいなければ民などいくらいても意味は無いだろう!何も知らない下級貴族風情が偉そうにするな!」


あー、典型的な貴族思想だねぇ…。これがよく聞く貴族派ってやつの考え方かな?なんて考えているとティアがいい笑顔で前に出ようとするけどやっぱり止める。

…と向こうのお付きの人がティアを見て何かに気付いたようだ。おそらく仕事中にすっ飛んできたであろうティアはメイド服、大体の家の侍従はどこの家の者かわかりやすくする為に家紋の入ったカフスボタンをしている。


「坊ちゃま…どうか落ち着いてください…あの子…いえ、お方は…」


あー、お付きの人の顔色がただでさえ悪かったのに余計に悪くなってきてるよ。これ以上いじめるのも可哀そうだからとどめを刺すか。


「ならあなたの土俵に立ってあげる。初めまして、私はバルドフェルト侯爵家嫡男ラウール=バルドフェルトの長女、マリン=バルドフェルトと申します以後お見知りおきを。」


居住まいを正して優雅にカーテシーを決めてみる。


「侯爵家だと…」


あーあ、本人もお付きも真っ青になっちゃった。ついでに周りの人も

「バルドフェルト家…?」

「魔導具候か…」

なんて言ってる。ちらりと見渡すとアイラさんはぽかーんとしてるけど一人だけ顔色が変わってないのがいるね…同年代っぽいけど金髪金眼の将来は凄い事になりそうなイケメンがいる。まぁいいや。


「なんて名乗りはしたけど当主が偉いのであって私もあんたもその爵位を継がない限りはちょっとお金のある家の子って程度よ?そこまで威張り散らすなら爵位を継いでからにしなさい!」


「お嬢様…もうそろそろ許して差し上げてください…。なんだか見てるこちらが可哀そうになってまいりました…。」


おっと、ティアが止めに入ったからこの程度にしといてやろう。それにいい加減脱出の方法も考えなきゃいけないしね。

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