25話 メイドさんと騎士さん潜入します
「あの…なんだっけ?【じーぴーえす】だったか?だとあの倉庫か?」
チェインさんのところで見た地図だと恐らくそうでしょうね。私たちは大きなレンガ造りの倉庫を少し離れたところから様子を見ています。
「ありゃあ確か南部のなんたらって貴族の持ち物だねぇ…確か子爵だったか?一度依頼受けたことあるけど典型的な貴族主義だったからかなり足元見られた記憶がある。」
と紅竜姫の戦斧使いのキリアさん。
「あー、そういえば納品しに行ったのもあの倉庫でしたっけ?あの時も貴族付きの割にはゴロツキみたいな倉庫番ばっかりで嫌な感じでしたね。」
と魔導士のフィリアさんも顔をしかめています。
ならほぼ決まりでしょうか…?それにしても貴族が誘拐に関わっているんですかね…?
「シッ…馬車が出てきたぜ。」
倉庫の方を見ると荷馬車ではなく人を乗せる馬車が倉庫から出てくるのが見えます。しかも2台、倉庫なのにこのタイミングで荷馬車以外が出てくるというのは胡散臭いにも程がありますね。
「さて、どうするか…正面切って行ってもお嬢様やカーラはともかく他に誘拐された人がいたらそっちが危ないな…。裏から入りそうな馬車をつけてみるか?」
ちょうど1台それらしい馬車が来たのでそうしましょうか。
「アタシはこんなだから潜入には向かないから外で待機かね。なんかあったら外から扉ぶち破って入ってやるよ。」
とキリアさんは苦笑い、そりゃ私の身長くらいある戦斧背負ってたらそうですよね…。
というわけで私・マックス・フィリアさんの3人は裏手に、残った3人は表側で待機してもらってこちらが行動を開始したのを見計らって正面から入ってきてもらいます。一応表向きは「騒動が起こったようだから助けに入った」という体を装う感じですね。
到着した馬車を追いかけて裏手に回ると見張りらしき男と御者の会話が聞こえます。
「おせぇよ、お前らが最後だからさっさと入れ。」
「うるせぇ。一気に来ると怪しまれるからってタイミングずらせって言われてただろうが。おかげでいつ見つかるかヒヤヒヤだったぜ。」
「それにしても限度ってもんがあんだろうが。【荷物】は大丈夫だろうな?」
「あぁ。依頼人の提供してくれた魔導具のおかげでぐっすりだ。こんだけ時間がたっても起きる気配もねぇや。」
これは確定ですね…。マックスに目配せをしてそっと近づき…。
「うわなんだおまえr…」
はい、一丁上がりです。御者と見張りを縛り上げて人目の付かないところに転がしておきます。ついでにマックスには御者の服を剥ぎ取ってもらって御者のフリをしてもらいましょう。
馬車の中を確認すると恐らくアカデミーの受験生でしょうか、お嬢様と同じくらいの歳であろう男の子が護衛の騎士と思しき男性と眠っています。例の魔導具は…ありましたね。椅子の下に隠してありました…これはあとで研究所で解析してもらえば出所もわかるでしょう。
フィリアさんに治癒魔法をかけてもらうと2人が目を覚ましたので状況を説明します。
「そうか…馬車に乗ったとたん眠気に襲われて気付いたらこの状況だ。坊ちゃんともども助けていただいたことを感謝する。」
2人にはフィリアさんと表の紅竜姫の皆さんと合流してから冒険者ギルドと衛兵に通報していただくようお願いして私が誘拐されてきたフリをしましょうか。
「そんじゃ行きますかね。ウチのお嬢様にこんなことして生きて帰れると思ってもらっちゃ困るしな。」
マックスはいつもの軽いノリのようで内心かなり頭に来てますね。当然私もですが…。
倉庫の中は薄暗くぱっと見ではマックスの事に気付かれてはいないようです。
「オイ、おせぇぞ!」
コイツが親玉でしょうか?いかにもな感じの悪人面ですね。
「悪い悪い、分散する為に時間潰して来いっつーから潜んでたら眠くなっちまってよ。」
「まったく…。衛兵にでも取り押さえられてしまっているのではないかとヒヤヒヤしましたよ。いくら後ろ盾があるとはいえこれがバレたら私はタダでは済みませんからね。」
今度は違う男の声。馬車の中から覗いてみると身なりのいい小太りの男…これがこの倉庫の持ち主の貴族でしょうか?もちろんタダでは済ませませんよ?後ろ盾ごと叩き潰してやりましょう。
「で、お前の収穫は?」
「あぁ、乗ってきた貴族は大したことなかったんだがメイドの方が結構なもんでな。屋敷に送った後1人で出てきたから話しかけて途中まで乗っけてやるっつってそのまま連れてきた。」
「どれどれ…なんだよ三つ編み眼鏡でちんちくりんじゃねぇか。まぁ出るとこは出てるみたいだから用が済んだら楽しませてもらうかね。」
誰がちんちくりんですか誰が。そりゃ見た目こんなで身長は高いとは言い難いですが…。
「これならさっきのヤツが連れてきた赤毛で義肢のガキの方が将来有望そうじゃねぇか?まぁ育つまで飼い殺しにするのも面倒だがな。」
おや、カーラの事でしょうか?ここにいるか確認する手間が省けましたね。
「お、そんなんいたのか?ならコイツ連れてくついでに俺も見てくるかね。どこに連れてきゃいい?」
「このまま奥に行け、そこに今回の【商品】をまとめてある。引き渡しの確認が済むまで手ぇ出すんじゃねぞ?あと遅れたバツとして今の見張りと交代して見張っとけ。」
「へいへい。品定めするくらいにしとくわ。」
マックスが上手く会話を合わせて誘拐された人達のところへ向かいます。見張りの交代も好都合です。指示された通り奥に進むと高く積まれて壁のように並んでいる木箱の前に男が一人いるのを見つけ声をかけてみると
「俺で最後だ、遅れちまったからついでに見張りの交代もだとさ。まったくついてねぇぜ。」
「おおかたどっかで油売ってたんだろ?自業自得だな。降ろすの手伝うか?」
「こっちは1人だからいいや。この馬車戻しといてくれや。」
眠ったふりをしているとマックスに馬車から降ろされます。っていうかなんで俵担ぎなのよ!?こういう時はお姫様抱っこでしょ!これじゃお米様抱っこじゃない!!
「わーったよ。ホレ、魔力封じの鍵だ。」
といって木箱にカモフラージュされた扉を開けながらマックスに鍵を預ける見張り。中に入ると誘拐された人たちと思われる30人ほどの男女がいてどこかの貴族令嬢でしょうか…すすり泣いている子もいらっしゃいます。そしてどうやらこの木箱の向こうは防音やらの術式が施されているみたいですね、これならどんなに大声を出しても外に声が漏れることはないでしょう…。
そして泣いているお嬢さんたちをあやしているよく知った2人の影…
「お嬢様!カーラ!」
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