14話 騎士さんと武器屋さん

ティアがチェインさんに予想通り誘拐されて行ったのを見送って俺はアカデミー時代からの馴染みの武器屋へ。


「おう、マックスじゃねぇか。こないだそこらへんが騒がしかったって聞いたけどお前が来たからか。」


髭もじゃで背の低いまるで物語のドワーフみたいなおっさんはこの店の店主のガルストさん。性格もドワーフみたいに腕はいいのに偏屈で気に入った人にしか武器を売らないっていう変わり者だ。しかも値段も売る相手によってマチマチで本当に気に入った相手にはタダでくれてやったりしてる。


「ご無沙汰してます。俺だけじゃなくティアとお嬢様も来たからっすね。流石に俺だけじゃそんな騒ぎにならないでしょ。」


「んなこたねぇだろ。天下の最年少Bランク到達者の片割れだ、冒険者が多いこっち側じゃ知ってるやつは騒ぐだろうさ。」


そんなもんなんかねぇ…。どっちかってーと俺よっかティアの方が有名じゃねぇかな?あの見た目で暴れまわってたおかげで【黒脚】なんて二つ名で呼ばれてるし俺の【白刃】なんてどう考えても取って付けたようなセット商品みたいなもんだろ。


「そういやティアの嬢ちゃんは今日は一緒じゃねぇのか?面白い素材とかがあったらキープして持ってきてくれるって約束だからな。」


そう、俺がアカデミー時代にこの人に武器を打ってもらえた理由の半分は【面白い素材があったら可能な範囲で優先して持ってくる事】だったから。じゃなきゃ13歳やそこらのガキがこの人に武器を打ってもらえるどころか買えすらしねぇからな。


「ティアは義肢工房で捕まってます。一応魔石・金属・魔獣の皮で珍しいのは預かってきてますよ。ウチのお嬢様からのおすそ分けでミスリルとアダマンタイトも少々。」


「おっ!そうこなくっちゃな!金属関係はちょうど手持ちが減ってきたから助かるぜ。お前んとこはいい取引相手でもあるからこれからも頼むわ。よし、久々に来たならお前の剣出しな、ちゃんと手入れしてるか見てやる。」


こんなこともあろうかと帯剣してきて正解だったな。研ぎに関しては流石にプロに任せてるけど普段の手入れは自分でやってるから怒られないか内心ドキドキだけど。


「…研ぎはまぁまぁだな。普段の手入れも俺の言いつけをちゃんと守ってるようだし及第点をくれてやろう。基本決まった側で切る時に引く癖は相変わらず抜けてねぇみたいだけどな。」


見ただけでそこまでわかるのは流石だな…。入学したての頃はそうそういい剣なんか買えなかったから切れ味もイマイチで刃が当たると同時に少し引くことでちょっとでも食い込ませて切るって感じにしてたら癖になっちまった。


「まぁ悪い癖でもねぇから改める必要もないけどな。むしろそこに我流で辿り着いただけ十分だ。…ん?なんか手紙も入ってるな、マリンの嬢ちゃんからか。」


お嬢様からの素材の中に手紙が入ってたみたいだ。


「どれどれ…フッ…ガッハッハッハッハッハッ!!!どおりで金属素材は大盤振る舞いだと思ったぜ!そーゆ―事かよ!」


ガルストさんが手紙を読むなり笑い出した。何が書いてあったんだ?


「マリンの嬢ちゃんがよ、『最近ティアの装備がグレードアップしてってマックスが不満気だからこれで何か打ってあげてください』だとよ!ホントいい雇い主だなお前んとこは!」


えー…確かにちょっとは羨ましいと思ったけどそんなに顔に出てたか…?もうちょっとポーカーフェイスの練習しとかねぇとな…。


「しかもさっきの話でもあるがお前は片側しか使わないし引く癖があるからってんで東国で作られてるカタナとかいう片刃の剣ならどうだろうとよ。俺も聞いた事はある程度だが打ち方もご丁寧に書いてるから何本か試しに作ってみてその後でお前用を打っといてやる。気が向いた時にでも取りに来い。」


おぉっ!そこまで見越してたのか…。このカタナってのも面白いな。曲刀って程反っちゃいないけどこれなら切る時に引くとそのアーチに沿って切れるから振り抜きやすそうだ。


「お願いします。お嬢様がアカデミーに合格すれば在学中は俺もこっちにいる予定なんでその時にでも取りに来ますよ。」


「マリンの嬢ちゃんももうそんな歳か。魔導具候あのバカにくっついて来た時はまだこんな小っちゃかったのになぁ。俺も年取るワケだ。」


そしてガルストさんはグラン侯爵と古い付き合いでティアの親父さん・国王陛下とも親交があったっつーからこの人の交友関係は恐ろしい。


「まぁいずれにせよ貴族・平民中探してもこんないい雇い主滅多にいねぇんだから大事にしろよ?」


「もちろんっす。あの時ガルストさんに『主を命を懸けて守るため』なんて啖呵切ったしその気持ちは今もかわってないっすよ。」


俺がこの人に剣を打ってもらえた一番の理由は「俺の打った剣で何を成すか」とガルストさんに問われてそう答えたから。


「ならいい、その気持ち忘れんなよ。アイツの事もよろしく頼むわ。ティアの嬢ちゃんはなんか欲しいとか言ってなかったか?」


「あー…アイツの義足あるでしょ?お嬢様の手紙に書いてあった通り今えげつない事になってるんで大丈夫だと思います。」


…とティアの義足の状況をガルストさんに話した


「ガッハッハッハッハッ!!!!義足に魔導砲たぁそりゃおっかねぇや!そんな物騒なもんぶら下げてんの国内どころか世界中探したってティアの嬢ちゃんくらいなもんじゃねぇか?」


実はそのうちもう一人増える事を伝えたら更に腹抱えて笑ってた。


さーて…ガルストさんに顔出しもしたしそろそろ迎えに行ってやるか。

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