13話 メイドさんと魔導義肢装具士

「「こんにちわー」」


私とマックスは魔導義肢の研究所へ。扉を開けて中に入ると…



「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁいでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっ!!!!!」

「大の男がこれくらいで騒ぐな!世の中には年端もいかない女の子が泣き言も言わずにリハビリ終えたのもいるんだ!」


というリハビリ患者の叫び声が聞こえてきました。そしてなんか聞いた事のある話ですね。


「なぁティア、リハビリってそんなキツいのか?」


「キツいなんてもんじゃないわよ。まず生身の部分のジョイントが馴染むまで生傷に金属固定してるようなもんだし魔力流すコツが掴めるまでは思いもよらない動きしたりして接合部の傷広がるし…出来る事ならもう二度とやりたくないわね。メンテナンスで外して装着する時に神経繋ぐ時も何とも言えない痛みがあるし。」


「うへぇ…そんな大の男が泣き喚くようなリハビリを泣き言も言わずにやり遂げたと。」


「泣き言言う気力もなかっただけよ。領都に着いて多分魔法で眠らされて気付いたらこの義足になってるんだもの。」

といつもの光景に苦笑いしながら受付に向かうと


「あー!ティアとマックスじゃん!いらっしゃい!」


あ…やっぱりいたんですね…まぁ遅かれ早かれ会う事にはなるんですけど…。


「お久しぶりですチェインさん。」


私と同じくらいの身長でこげ茶色のロングヘアをポニーテールにして駆け寄ってくる彼女はチェインさんといってこの魔導義肢研究部門の主任さんです。すごく童顔で私と同じくらいといっても問題ないんですが確かラウール様と同じお歳だったはず…。


「久しぶりー!義足の調子はどう…!?ちょっとそれ噂に聞いてたお嬢様と魔導具候の合作!?」


あ…さっそく食いつかれました…


「試作版は色々とあってこれは廉価版ですけど違うのは素材くらいで基本構造は同じとの事です。」


「えー!せっかくティア用にワンオフしてくれたんだからそっち使えばいいのに~」


「流石に宝物庫の一割くらいの値段ぶら下げて歩き回るなんて心臓がいくつあっても足りませんよ!?」


「道具は高かろうが安かろうが使ってなんぼ!使われない道具は道具にあらず!というワケで…」


彼女が指をパチンと鳴らすとどこからともなく女性研究員の皆さんが現れ…


「メイドさん一名ごあんな~い♪」


ちょっ!?私神輿じゃな…いや力強っ!?研究員っていうからそんなに力ないんじゃないの!?


「そりゃ暴れる患者取り押さえたりしてるからこれくらい余裕よ♪」


「うん、じゃあ俺はこれで…昼頃には戻ってくるからな~。」

ちょっとマックス!せめて助けてから行ってくれない!?そんなマックスは市場に売られる羊を見るような目をしていました。


「とーう♪」


彼女の研究室に担ぎ込まれるやいなや義足を剥ぎ取られ予備の簡易義足を取り付けられました。簡易とはいえ着ける時には結構な痛みがあるものですが彼女の作業スキルが高いおかげであまり痛みは感じません。こういったところはとても有能なのですがお嬢様曰く【狂科学者マッドサイエンティスト】という呼び名がしっくりくるくらいの魔導具…特に魔導義肢バカなんです。


そして例によって他の研究者たちもわらわら集まってきて

「やっぱり綺麗ねぇ…。こればっかりは実用一辺倒だった私達も考えを改めなきゃいけないわね…。」

「ここの魔力回路の通し方…この手があったかー!」

「何この細さなのに仕込みの数…暗殺者でもやらせる気?」

「どれどれ…うっわエグっ…つーかなんでこんなトコに50ミリ魔導砲入ってんだよ…」

「それにしてもこの細さで従来以上の運動性能と強度出すなら素材もケチれませんねぇ。」

「武装関係外してデザイナーにデザイン発注すればこれよりは安く貴族向けに作れるんじゃない?そうすればゴツいからって理由で敬遠してた貴族も着けてくれるようになるかも。」

「あー、そうすれば魔導義足の偏見も少しはなくなるか?上手くすれば研究費の寄付も貰えるかもしれんなぁ。」


皆さん口々に引きながら感想を述べていますが顔は楽しそうなんですよね…。研究者とは皆さんこんな感じなのでしょうか…?


…と持ち主の私は手持ち無沙汰なので収納鞄マジックバッグからお茶とクッキーを出して一人でティータイムです。


そして小一時間後…


「いやー!やっぱり魔導具候とマリンお嬢様は天才ね!ずっと研究してる私たちでさえ思いもつかないことをインスピレーションだけでやってのけるんだもの。そういえばお嬢様って卒業後はどうするか聞いてる?」


「今のところは国家魔導具師を目指すようですよ。」


「へぇ!これは是非ともうちに来てもらわないと…他の部署に取られる前に唾つけとかないとね…」


お嬢様…あなたのあずかり知らないところで進路が決まりかけています…


「で、ティアの方はどうなの?義足自体は問題ないようだけど生身の方は?」


彼女は魔導義肢の研究者の他に医師としても活躍している才女であの時の怪我も旦那様と彼女で診たと聞いています。そりゃ足が魔導義肢になるに決まってますよね…。


「とりあえず今のところ問題はありませんね。ジョイントの方もあの義足作る時に少し調整してもらいましたし。」


「それはそうだけど他の部分よ。お腹の怪我に関しては研究もしてるけどまだまだ失った器官の機能を取り戻すまでには至ってない、本来ティアの歳では稼動してる器官なんだからそれが機能を失ってると反動が別のところに出たりするものなのよ。今後はしばらくこっちにいるだろうから何か違和感があったらすぐに言うのよ?」


さっきまでのおどけた感じから一転、真面目な顔で私に向き合ってくれています。これが彼女のいいところなんです。


「ありがとうございます。とりあえず今のところはどこか調子が悪くなるという事もないですしなったとしたらすぐに相談させてもらいます。」


「そうして頂戴。この話はね、ティアだけじゃなく子供を諦めた人たちにも光をもたらすかもしれない研究なの。義肢ともども実験台みたいになっちゃって申し訳ないけどそのおかげで色んな人たちが救われる。この新しい義足だってゴツいのはどうしても見た目が悪いでしょ?それがオシャレにできるってだけでも怪我や病気で手足を失って家に籠ったりしてる人達が外に出られるようになるってのはとても大きい事なのよ。」


「はい。私自身も文字通りをもらいました、それに関しては旦那様と先生には感謝してもしきれません。今回一緒に来ているカーラも同じだと思います。」


「例の右腕が義肢の子ね。もしかしてその子の義手にも…」


「今は着いていませんが入学するころには魔導砲付きの義手になっているかと思います。」


苦笑いしながら既にデザインは固まっている事を話してしばし談笑しているとマックスが戻ってきましたね。


さて、お昼を食べて冒険者ギルドに向かいましょうか。

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