07話 メイドさん街に行きます

今日は領都にお出かけです。と言っても休みというわけではなくお仕事ですね。お仕事の内容は食材や工房で使う道具・素材等の発注がメインであとは街の人との顔繫ぎといったところでしょうか。


本来そういったものは商会の担当者が屋敷に出向いていわゆる御用聞きをしに来るのですが旦那様の方針として結婚等で屋敷を離れた際に市井の事を知っていないと後々苦労するという理由で我々侍従隊が持ち回りで注文して回るという事をしています。


その組分けは戦闘侍従隊の戦闘要員+非戦闘員で1班という形で

・屋敷のお仕事(即応待機組含む)

・休み

・買い出し

・お勉強(必要な者)

で割り振られ、私のように個人付きであっても基本的にこのシフトは変わらず特別な場合を除き私が休み・買い出しの時は別の者がお嬢様に付くという感じですね。これはお嬢様の発案で


「ただでさえお爺様がいろんな所から拾って来て人数多いからこうやってシフト分けすればちゃんと休めるし仕事も覚えれる」

といった具合に取り入れることとなりました。


勉強はアカデミーに入る要件(主に年齢、入学は12歳時)に届かなかった者に対して手の空いている者が外に出ても困らない程度に最低限の知識や侍従・騎士等の立ち振る舞いについて教育し後々お屋敷の仕事に就く手ほどきをします。


そんなわけで私ともう一人、赤い癖っ毛とくりくりした猫のような目の活発な少女…私の隊にいるカーラとお出かけです。年齢はお嬢様と同じ10歳。旦那様と仲のいい北部辺境伯閣下から頼まれて預かったとある貴族の庶子で、魔力もそれなりに高く更に右腕が魔導義肢という理由で私の隊(こう見えて私は小隊長です)で引き受けました。ちなみに試験に受かればお嬢様と一緒にアカデミーに入る予定です。


「カーラ、まずは屋敷の各所に行って何が必要か聞いて回ります。ほとんどはリストアップしてくれているのでそのメモを受け取るだけでいいですよ。細かい頼まれ物もたまにあるから忘れないようにね。」


「はいっ!」


「まぁ今回が初めてだしあと1年もすればしばらく王都に行くでしょうから街の人に顔を覚えてもらうのが今日の目的だからあまり気負いすぎなくてもいいですよ。」


…と歩きます。そうです…、カーラは10歳ですでに私と同じくらいの身長なのです…決して私が小さいわけではありません。カーラの背が高いのです。


「やっぱりティアさんの義足綺麗ですよね。私の義手もお嬢様にデザインしてもらってる最中なので完成が楽しみです!」


「カーラはまだ成長するでしょうから今回はみたいに物騒な代物にはならないでしょうけど卒業後は怖いわよ…?慣らしで今日も付けてるけど色々怖くてしょうがないもの。この義足奪ってくだけで一財産よ?」


「仕込み砲かっこいいですよね!」








これはもう搭載されるんでしょうね…。


などとカーラの右腕の将来を心配しながら最初の目的地である食材を扱う商会に到着です。


「いらっしゃいませ~。あら、今日はティアちゃんだけじゃないのねぇ。」

と昼間の商会なのに夜の酒場にいそうな気だるげでセクシーないつもの受付嬢。


「こんにちはヴァネッサさん、この子はカーラといいます。来年アカデミーに入る予定ですがそれまではお使いを任せることもあるかと思うのでよろしくお願いします。」


「カーラです、よろしくお願いします!それでは今回の注文書です!」


「ヴァネッサよ、ていうか来年アカデミーって事はマリン嬢と同じ10歳!?色々と将来有望そうねぇ…。」

ですよねー。

「この内容なら4日後にまとめて納品できるけど急ぎの物はあるかしら?」


「細かい物に関しては別に買い足していきますのでそのリストの中には特にないですね、それでは4日後いつものように配達をお願いします。」


「まいどあり♪バルドフェルド候のご注文はお抱えの人数が多くて大口だからいつも助かるわぁ。それじゃカーラちゃん、今後ともよろしくね♪」


「はいっ!」


商会をあとにして得意先を回って行く先々でカーラの元気な挨拶とヴァネッサさんと同じリアクションを頂戴して最後の目的地である冒険者ギルドへ。



お嬢様が私の義足を作るために盛大に素材を消費したため冒険者ギルドを通じて各種素材の調達をお願いするためです。昔諸事情で冒険者登録をしていたため私が来ることが多いです。


「ティアさんいらっしゃい!一緒の子は新人さん?」

と濃い茶色の髪をポニーテールにしたそばかすがチャームポイントの受付嬢ルインさん。


「ルインさんこんにちは。この子はカーラといいます来年アカデミーに行く予定ですがそれまではお使いに来ることもあると思うのでよろしくお願いします。」


「私もあんまり背の高い方じゃないから10歳でその身長はうらやましい…絶対まだ伸びるでしょ…。それにしても今回の依頼は凄いわねぇ…希少金属の収集依頼が多いけど戦争でも始めるつもり?」


「色々開発に使ったようで在庫が怪しくなってしまったようで…。急ぎではありませんが最終的にはまとまった量を納めていただければ結構です。」


「了解。侯爵閣下の依頼は報酬も良くて人気があるからそこまで時間もかからないと思うわ。」


いつものように滞りなく依頼を済ませて少し談笑していると…



「おいおい!ここのギルドにゃメイドさんも出入りしてんのかよ。給仕のバイト探してんなら俺が一晩雇ってやろうかぁ?」


と下卑た声が聞こえてきました。酒臭っ…てか色々臭っ…


「ちょっとゴードンさん!彼女達は依頼をしに来ただけですよ!そして色々失礼です!」

とたしなめるルインさん。


「あぁ?そうかい。俺はDランク冒険者のゴードンってんだ。背は低いが出るとこも出てるみたいだし今晩給仕してくんねぇかぁ?」


肩に手を回そうとして来ようとしたので払いのけて


「仕事中ですのでお断りいたします。まぁ仕事中じゃなくてもお断りいたしますが…。それにDで調子に乗ってると恥をかくだけですよ?」


冒険者のランクは下からF~SまでありFで駆け出し、Eで一人前、D~Cで中堅、B~Sは上位といった感じですがCからBに上がるには素行等の審査が入るのでかなりの隔たりがあります。


「言うじゃねぇか!この街にゃ戦闘侍従隊なんてのがいるらしいがまさか嬢ちゃんみたいなのがそれか?なら大した事はねぇなぁ!」


ほう、そちらこそ言うじゃありませんか。ならばそのご自慢のDとやらの実力を見せてもらいましょうか。


「左様ですか。ルインさん、奥の訓練場をお借りしてもよろしいでしょうか?」


「え?あぁそういえばティアさんは…。よろしいですよ、

と含みのあるいい笑顔で了承していただきました。周りからは


「おい、アイツ正気か?」

とか

「まぁこの辺じゃ見ない奴だし田舎モンだろ。お灸をすえてもらえば身の程を知るだろ。」

とか

「よし!ティアちゃんに銀貨1枚!」

「馬鹿野郎!賭けになんねーよ!」

といった声の中にこっちを見つめる視線を感じます…。あぁ、なるほど。


「ルインさん、審判にあちらに座っている方を指名させていただいてもよろしいですか?おそらく高位の方だと思いますが。」


視線の先の金髪を短く刈り込んだ褐色の男性はニカッと笑って立ち上がり



「任された!この模擬戦の審判はこの俺Sランク冒険者ドイルが承った!」



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