04話 メイドさんお嬢様の正体を知ります

~マリン目線~


「まっ、そのおかげでお嬢様付のメイドとしてこのお屋敷にずっといられるので悪い事ばかりではありませんよ!」

そう言っていつもの調子に戻るティア。いや、目の前で両親殺されて片脚無くなって子供も作れなくなるとか不幸しかないじゃない…しかもそれが半分血の繋がった兄…になるのかな?の理不尽な思い込みによってとか…。



「ジル伯爵はどうなったの?」

流石に捕まってるよね?



「健在ですよ。父の功績によって南部伯の領地境と南方国家の国境を領地としておりますのでそうそう取り潰せませんし何より『貴族社会ではよくある事』ですので。そして何より伯爵は有能なのです。」



言葉も出なかった。私がいた日本ではどんな理由であれ人を殺せば捕まって裁かれる。なのに貴族でそこそこ有能だから「よくある事」と片づけられる…。


「ごめんね。そんな辛い事話したくなかったよね…ごめんね…。」

涙が止まらない。生前でもこんなに誰かのために泣いた事なんてなかったのに。



「いえ、お嬢様付である以上いづれどなたかからされる話でしたので丁度よかったですよ。確かにあの男が生きている事は腸が煮えくり返る思いではありますがそれ以外の事は割り切れておりますので。」

「ティアは強いんだね。私だったら一生立ち直れないと思う。」

「いえ、私は強くなんてありません、このお屋敷に来た直後はそれこそ息をしているだけの屍状態でしたね。しかしその後の魔導義足のリハビリやら侍従教育やら戦闘侍従隊の訓練やらで塞ぎ込む余裕すらありませんでしたから。」


お爺様なにしてんの!?リハビリついでに侍従教育ならまだしも戦闘訓練とか!?あぁ、でも護身と魔力のコントロールの訓練も兼ねてなのかなぁ…。お爺様見かけはいかついけど結構策略家だしなぁ…





…うん、ティアにはやっぱり話しておこう。



「ティア、私もティアには話しておかなきゃいけないことがあるんだけど聞いてもらえるかな?」




私は10年前、この家に生を受ける前の記憶がある。



当時私は18歳の高校3年生。家としてはいたって普通の家族で仲もまぁ悪くはなかったかな?でも両親共働きで帰ってくるのが遅く朝食で顔合わせて学校に行って帰ったら誰もいなくて夕飯は適当に食べて寝る少し前に両親が帰ってくるって感じ。

そのおかげか漫画やアニメといったオタクコンテンツにどっぷりはまってしまってこっちで物心ついた時には


「マスケットぶっ放すメイドとかどこの二挺拳銃トゥーハンドの出る漫画の猟犬だよ」

とか

「明らかに近接も強い執事とかどこの漢の教科書的吸血鬼漫画の執事だよ、いつか『パーフェクトだレンブラント』って言いたい」


とか思ったりもしたくらいだよ。



そんなある日酔っ払い運転の車に跳ねられた。ほんとに何が起きたのかもわからなかったから苦しみはしなかったんだろう。


気づいたら真っ白な空間にいてお決まりの転生特典やら色々付与されて転生、魔力も強いから魔導士もいいかと思ったけど魔導具の魅力にどっぷりはまってしまった。前世知識を駆使して便利魔導具のネタをそれとなーくお爺様に

「お部屋を冷やしたりする魔導具ってないの?」とか「食べ物を冷やして保管すればすぐに使い切らなくてもいいんじゃない?」

といった風にアイディアを出してお爺様が内部に付与する魔法陣とかを作るのを見たりハード面のアドバイスをしたりと将来は国家魔導具士として自活することを目指していた。


そりゃあいきなりこの世界にきて寂しくないわけじゃなかった。転生前に神様に頼んでその後の事も見せてもらったのが悪かったかなぁ…でもそのままってのも結局やきもきするだけだし。

私が見たのは自分の葬式。交友関係もそこそこにあったのもあり参列者は意外と多かったのを覚えてる。特に仲の良かった同級生がいてくれたのが嬉しかったなぁ…。

その子たちが弔辞で「もっと色んなこと話したかった」とか両親が「私たちのところに生まれてきてくれてありがとう」って言ってくれた。心残りはありまくりだけどこれ以上はどうしようもないしその日の夜に皆の夢にお邪魔させてもらってお礼をした。お父さんにはおまけで最近はやらなくなったほっぺにチューしてあげた。花嫁姿見せてあげられなくてごめんね。



そして転生、もちろんベイビーだから少し思い出し泣きしてもバレなかった。それから10年家族もはとより我が家に仕えてくれてるみんな優しいし転生したのがこの家で本当によかった。だから…





「だからお願いします。アカデミーを出て独立出来るまでこの家の子でいさせてください。」





正直こんな話信用してもらえるかもわからないし悪魔憑きとか思われるかもしれない。だけど今は一人でもいいから味方が欲しい。

どうすれば信じてもらえるかもわからないから頭を下げるしかない。


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~ここからティア目線~


自分の過去話をしていたらお嬢様の表情が何かを決意したような顔つきになりぽつぽつと語り始めました。曰く転生者。

実は珍しくはありますが前例がない話ではありませんでした。大体は前世で不慮の死を遂げてこの世界の神から特典と呼ばれる特殊な力を授かりその記憶を保持したまま生まれ変わると。

転生者は記憶を保持していることからこの世界に多大な利益をもたらす革新的な技術であったりその魔力を生かし武勲を立てたりすることが多いようです。


確かに聡明な方だとは思っていましたがまさかお嬢様がそうだとは…。確かに噂の通りであれば国家魔導具士として独立し工房を持つまでに至るかもしれませんし魔導士としての素養も十分ですからアカデミー卒業までに下地を作れば将来の選択肢は多い事でしょう…しかし


今私の目の前にいるのは目に涙をためて涙声でどうか追い出さないでくれと懇願する小さな少女。幸せに暮らしていたのにある日突然家族・友人から引き離され全く知らない世界に放り出される。逆に記憶がある分10年間ずっとその思いを隠してくるのはさぞつらかったことでしょう…。普段のお転婆ぶりからは想像もつかない触れたら崩れてしまいそうなお嬢様をそっと抱きしめ…




「転生者であろうとなかろうと私にとっては生まれた時から知っているマリンお嬢様であることには何の変わりもございません。そのような心配をなさる必要はまったくないのです。ここはあなた様の帰る場所であり私たちは家族です、そんな寂しい事をおっしゃらないで下さい…例えあなた様が世界の敵になろうとも私はあなた様の傍に命ある限りお仕えいたしますよ。」



「ティア…ありがとう…。でも…」

お嬢様が顔をあげてまだ何か言いたそうですが大体想像がつきます。


「はい、皆様にはもちろんお嬢様がお話ししない限りは黙っています。正直前例もこの世界にはありますし、下手に公表しますと良からぬ事に巻き込まれる事もあるようですので。」

私のような思いはして欲しくない。


「やっぱりそうなんだね…。多分このままマリンとして過ごしていくと思う。前世の名前もだったから違和感はないしね!そうなるとあんまり魔導具の方も抑えたほ方がいいかな?」


「今まで通りでよろしいかと思います。もっと盛大に出すのであればアカデミーで学び始めてからじゃんじゃんいっちゃいましょう!私も世の中が便利になるのは大歓迎です!なんなら侍従の仕事が減るような発明をしていただければ私はその分お嬢様に張り付いていられますので!」

真顔で答えるとお嬢様が困ったように笑いながら


「そうだね、でも完全に仕事を取っちゃわないように気を付けるよ!」



やはりお嬢様には笑顔が似合います。私はこの笑顔を守るためならなんだってします。例えこの命を差し出すことになっても。






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