03話 メイドさん昔話をします

オークの群れの襲撃から数日後、お嬢様が私の義足のデザインを見せてくれました。



「綺麗…」

思わずため息が出ます…。魔導義肢は魔導鉄を主原料にするためどうしても黒っぽい無骨なデザインになりがちですがお嬢様のデザインは白く女性らしいラインでこれは何の花でしょう…ピンクのかわいらしい花と細身の枝がセンス良く描かれています…


「それはね、『サクラ』っていう花なんだよ。なんの図鑑で見たか忘れちゃったけど東国の島国に咲く花で並木になってる場所もあってすごく綺麗だったの…」

少し伏し目がちにちょっとだけ寂しそうに…


「お嬢様?どうかされましたか?」


問うとハッと顔を上げていつもの笑顔で

「ううん、何でもないよ!気に入ってくれた?」

「もちろん。お嬢様のデザインならどんな物でも気に入ります!」

「あはは、実は外装デザイン以外はもうお爺様にお願いしてあるの!あとは絵を描くだけで終わるから今週中には使えるよ!」



早っ!お嬢様は時々10歳そこそことは思えない発想と行動力を発揮されますね…。将来が楽しみでしょうがありません。




さらに数日後


「出来たよー!そして今まではお爺様のデザインだったけど今回からティアの義足のデザインはコレがベースで私がデザインすることになりました!」

「本当に綺麗ですね…取り付けずに飾っておきたいくらい…」

「またそんなこと言ってぇ…。道具はね、使わなければ意味がないんだよ?確かに美術品みたいなのもあるけど私が作りたいのはみんなを幸せにする魔導具だもん!」


本当にお優しい方ですね…私のような端女のことなど気にせずともいいですのに…


「ありがとうございます…。早速使わせていただいてもよろしいですか…?」

少し涙声になりながら失礼して…お嬢様は興味津々な様子で交換作業を見ていらっしゃいます。


「どうかされましたか?」

「そういえば義足の付け替えって初めてみるなぁと思って…ごめん、嫌だった?」

「ありがとうございます。大して面白いものでもありませんがお嬢様でしたら構いませんよ。」

「そっか…。どう?今までのより少し細身だけどしなやかさって言ったらいいのかな?は上がってると思う。細く丸くを優先してデザインしたからオシャレも出来るようになるよ!」

「私はお嬢様に仕える身ですので何ならずっとこのお仕着せでも構わないのですが…」

「ダメだよ!ティアは可愛いんだから休みの日はオシャレしなきゃ!マックス他の人に取られちゃうよ!?」


何故そこでマックスが…


「私たちは幼馴染ですが二人ともこの家に全てを捧げた身ですのでお嬢様や『命を救っていただいた』旦那様方の幸せが私たちの幸せなのです。」


「お爺様たちは話してくれないけどそこまでして私たちに尽くす理由って何なの…?自分の幸せ以上に他人の幸せに命を懸ける程なの…?」


お嬢様が寂しそうに語りかけてきます…せっかく素晴らしい義足をいただいたのにまた曇らせてしまいました…ですがこれだけは譲れないのでお話させていただきましょうか…





「暗い話になってしまいますがお聞きいただけますか…?」





父は旦那様のご学友で親友でもあった元国家魔導士クラース=ローレット前伯爵、母はその侍従クリスティナ、いわゆる「庶子」というやつです。

父は一人しか妻帯せず一子…ジル=ローレット現伯爵を設けた後は子宝に恵まれなかったと聞いています。私が生まれる数年前に奥様を亡くしそのままジル伯爵に家督を譲った後は領内の山奥の別邸にて隠居生活をはじめました。

その際伴ったのが奥様の侍従であった私の母です。二人とも奥様が好きすぎて会話はほぼそればかりでお互いの傷を埋め合っているうちに歳は離れていても恋仲となり私が生まれました。


その事については旦那様も知っており隠居された際はひどく心配していたようで私が生まれた後も住んでいた場所がこの領との境界付近という事もあり時々遊びにもいらしていたようです。

山奥で少しだけ不便でしたが幸せな5年間でした…。5歳になると知っての通り鑑定が行われます。鑑定士は旦那様が買って出ていただき、いざ鑑定を行う前日に事件は起きました。




「クリスティナ…明日はいよいよティアの鑑定だがわかっている通りこの子の魔力は完全に私からの遺伝で5大石…もしくはそれ以上の可能性がある。」

「そうですね…しかし高すぎる魔力はこの子に幸せをもたらすとは思えないですね…。ましてや庶子とはいえジル様が快く思うはずがありませんね…」

「だからグランには平民並と報告してもらうつもりだ。そうすれば余計な家督争いに巻き込まれずに済む。家督を譲りはしたが我が息子ながらジルは危うい。私に何かあったときはグランを頼れ。」

「はい…。しかし正式な鑑定の場以外でも計測はありますでしょう?その際はどうするのですか?」

「グランは魔導具士としても優秀だ。魔力封じの魔導具も作ってもらうよう頼んである。」


「おとーさん、おかーさんむずかしいおはなししてるの?」


「ティア…眠れないのかい?」

「あしたはおじさまがくるんでしょう?たのしみでねむれないの!」

「そうか…アイツは面白い魔導具持ってくるからなぁ…でも早く寝ないと持ってくる魔導具を楽しむ前に眠くなっちゃうぞ?」

「わかった…こんどはどんなまどうぐもってきてくれるかなぁ♪」

「またとんでもない物を持ってきてくれるさ。今までティアを驚かせない物は無かったろう?」

「うん!しさくひんだー!とかいってしっぱいしたりもするけどそれもたのしいもの!それじゃあおやすみさい!」

「おやすみティア。」



そして私が寝ついた頃…



「誰だお前たちは!?ティアを離せ!」

「ティア…私たちはどうなっても構わないからその子だけは…ティアだけは…!」


「おとなしくしていてくれれば娘くらいは助けてやろう。その後の扱いは依頼人次第だがな。」


気づいた時私は黒づくめの男に抱えられ両親も囲まれていました。私が捕まっているために父もうかつに動けなかったようです…その時




ズドン!!!!!



魔法が炸裂する音が響き家に火が点きました。


「何だぁ…?話と違うじゃねぇか!」

黒づくめの男たちは狼狽えはじめそこに


「親父殿!無事か!」


ジル伯爵たちが駆け込んできて一気に男たちを無力化しました。


「すまないジル…だがどうしてここに…?」

「あぁ、親父殿が現役の時に捕まえた盗賊が脱獄して復讐しようとしていると聞いてな…早く知らせねばと思い駆けつけてみればこの有様よ」

「そうか…助かった。ティアとクリスティナも無事でよかっ…」




ザクッ




「ジ…ル…?」



私たちに駆け寄ろうとした父の背中に剣が振り下ろされました。


「ジル様…?嘘でしょう…?」

母も言葉を失いました



「親父殿が悪いんですよ。爵位を俺に譲るまではよかった。しかしそのあとに俺や息子たち以上に魔力の高い子を設けるなんて…。それじゃあ後々その娘に爵位が移る可能性があるじゃないか。」

この状況は伯爵が最初から仕組んでいたようです。私の魔力量が高かったため息子たちに爵位を継承できない可能性を考えての事だったようですね。庶子の私にそんな権利はほぼないというのに…。



燃え広がる周囲と私の前に歩み寄り剣を振り上げるジル伯爵


「ティア!」

私と伯爵の前に割り込んで庇い切りつけられる母


「侍従風情が邪魔をするな!」

それでも剣から守ろうと覆いかぶさる母に容赦なく剣が突き立てられ貫通した切っ先は私の体にも突き刺さりました。痛くて熱いのに父と母が切られたショックで声も上げることすらできませんでした…


「ティ…ア…ごめんね…守ってあげられなくてごめんね…」

「おかぁ…さん…?」

母の目から光が失われ動かなくなりました…。



「チッ…そろそろ崩れるか…まぁここまでやれば大丈夫か…。引き上げるぞ!」

逃げていくジル伯爵達。


「どうして…?おとうさんもおかあさんもなんにもわるいことしてないのに…どうして…?」


母の亡骸に覆いかぶさられたまま呆然としていると

「ティ…ア…?大丈夫か…?」

「おとうさん…?」

「よかった…生きているんだね…。クリスティナ…ありがとう…」



自分も瀕死なのに私と母の亡骸を抱え外に向かう父。



「ティア…よくお聞き。もうすぐグランがここに来る…。そうしたらグランと一緒に行くんだよ…?あいつは見た目はおっかないが優しいやつだ…きっと良くしてくれる…」

「いやだ…おとうさんもおかあさんもいっしょじゃなきゃやだよ…」

「ごめんな…本当は嫁に行くまでは見届けたかったんだがなぁ…」

「いかない!おとうさんとおかあさんがいないならおよめになんていかないから…だからいっしょにいてよ…おいてかないでよ…」


父が止血してくれていたとはいえ出血で意識が遠のく中でも泣き叫んでいました…


「あぁ…こんな状況じゃなきゃ父親冥利に尽きるんだけどなぁ…。よーしティア…もうすぐ外だからなぁ…外に出たらその足の治療しようなぁ…」


幸いジル伯爵達はすでに引き上げていてその場におらず安全な場所まで離れると父は倒れこみました。


「おとうさん…おきてよ…こんなところでねちゃったらかぜひいちゃうよ…?」

「ティ…ア…かわいいティア…顔を見せておくれ…君に泣き顔は似合わないよ…?どうか笑っておくれ…」


そう言って頬を撫でる大好きな父の大きな手…





クラァァァァァァァァァァス!!!!!!!

響き渡る旦那様の声。今思うと旦那様がここまで声を張り上げてるのはこの時くらいしか知りませんね…




「クラース!しっかりしろ!」

「グラン…か…?頼む…ティアの手当てを…私はもう…どうかティアを…頼む…」

「わかった…だからもう喋るな…」

「すまない…友よ…ティアを…頼んだぞ…」

満足そうに笑い息を引き取る父…


「まったく…お前がそういう時は昔から決まって無理難題を押し付ける時なんだ…だがこればっかりは違える訳にいかんじゃないか…」

涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら私に治癒魔術をかける旦那様。





いやだ…いヤだ…イヤダ…ドウシテ…?


ドクン…ドクン…


私の中で何かが弾ける感覚






ゴゥッ




「なにっ!?」

吹き飛ばされる旦那様。

魔力の暴走でした…属性もゴチャゴチャ。ただただ魔力を放出し周囲全てを破壊しつくす勢いで放たれ続ける私の魔力。燃え盛っていた家も暴風のような魔力で火が消え木に囲まれていたはずの周囲は50メルト程の円形の更地に変わっていました。



「ティア!全く…とんでもないお転婆を預けてくれたな…話には聞いていたがこれほどか…最初よりは勢いが弱まったな、今なら何とか行けるか…?」

押し負けないよう中和しながらゆっくり進んでくる旦那様。私の前まで辿り着き、私の魔力量が多い事を不安視した父から依頼のあった眼鏡の形をした封印具をかけてくれたところで暴走は収まり抱きしめてくれました。




「すまない…あと1日…いや、あと数時間早く着いていれば…恨んでくれていい…罵ってくれていい…それで君が前を向けるのであれば全て受け入れよう…君が幸せになるのであればなんだって受け入れよう…それが我が友との約束だ」






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その後治療とそれが終わり次第義足の経過観察も兼ねて行儀見習いとしてバルドフェルト家で受け入れるとローレット家を押し切り、近くの村で移動に耐えられるくらいまで回復するのを待ってこの屋敷に連れてきていただきました。

懸命に治療はしていただきましたが貫かれた右脚はダメだったようでこの状態になりました。あとは…もう一つ腹部の刺し傷ですかね…



「私はが出来ません。」



なので跡継ぎを残すことが最優先である嫁に行くという選択肢はないのですよ…。おかげでそういった声もかからずお嬢様付としていれるわけです。





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あとがき

単位としては1メルト=1メートル、あとはキロだったりミリだったり。

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