02話 メイドさん働きます

そろそろご朝食もお済みのようですが腹ごなしの運動などいかがでしょう?」

食堂の扉を開けた執事筆頭のレンブラント様の一言。


「またいいタイミングで来たなぁ…。今日はどっちだ?」

「本日も北の森からにございます。報告によりますと恐らく100頭クラス、進化個体も含むオークの群れと思われます。」

報告を聞きながら旦那様は顎を撫でながら思案する


「オークか…現状領で必要な素材としては魔石くらいか…ならば殲滅でも構わんな?」

「左様でございます。このくらいであれば我々でも十分ではございますが如何いたしましょう?」

旦那様の問いにレンブラント様は即答し先ほどの「お誘い」の確認。それに対し旦那様はニヤリと笑いながら


「そうだな、せっかくの腹ごなしのお誘いだ。ユーリ、行くか?」

「はい、お爺様。鍛えてもらった魔法の腕の確認をしたいと思っていたので丁度良かったです。」



「それでは我々も支度を致しますのでこれにて失礼いたします。ティアも支度を。」

「かしこまりました。それではお嬢様、また後程。」


「うん!大丈夫だと思うけど気を付けてね!」

お嬢さまから満面の笑顔で激励。これは気合を入れなければなりませんね。




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数分後、使用人のミーティングルームに集まったのは10名ほどの執事とメイド。



「今日の相手は進化個体を含む100頭程度のオークの群れ、必要な素材は魔石のみ。魔弾は炸裂弾で殲滅を目的とする。内容に質問はあるかね?」


「「「ありません」」」


レンブラント様の簡潔な作戦内容の説明。この程度であればこれで十分。何故騎士や魔導士でなく我々侍従がこのようなミーティングをしているかというとこれがバルドフェルト領の名物と言われる…




「それでは【戦闘侍従隊コンバットバトラー】行動開始。なお今回はグラン様・ユーリ様も参加されるのでほどほどに獲物を残すように。」

「「「了解」」」




他の領では騎士や魔導士がこういった事態に対応するのが基本ですが我が領では領地が広いため領都の守備に一部を残し遠征巡回に出ていることが多く、要人護衛も兼ねて護身術を侍従に仕込んでいたらいつの間にかこの位の規模の魔物の群れは私たちが担当する事になっていまい、領民の皆様からつけられた「戦闘侍従隊」呼び名をそのまま充てられたという感じです。規模や取れる素材によっては騎士・魔導士と連携することもあり戦力としては同等とみなされていて「バルトフェルトの屋敷は王宮並に難攻不落」とも言われています。





騎士であれば剣、魔導士であれば杖といったようにそれぞれ装備があるのですが私たちは「魔導銃」と呼ばれる魔導具を使用します。侍従は基本的に魔力量の多くない者やコントロールが苦手な者がなることが多いため魔術が付与された弾丸を撃ち出せるので安定した火力が得られるという事で元々火薬を使って撃ち出して再度弾を込める必要があったマスケットを旦那様が改良し、魔力の高い者は魔導士の杖と同じように銃身を媒介として弾がなくても使用できる優れものです。

防具はなんと普段のお仕着せです。即応という観点から着替えの時間を省略するという名目で旦那様が「面白いから」と魔導士のローブと同じ素材で魔力を通すことにより下手な鎧より対魔法・物理防御力が高いお仕着せとなっております。


…というわけでマスケットを背負った侍従たちの出動です。外敵の侵入を防ぐ外壁まで走るのですが走るのは民家の屋根の上。道路は生活に必要な物資や人が通るので混んでいると到達が遅れる可能性が高く、条例で我々が走りやすいよう屋根の一部を平らにすることが定められております。

日中の移動の時は目立つのでこれが名物になってしまった原因の一つです…。そして



「ティアちゃーん!がんばれよー!」

「あぁ…今回はユーリ様も…今日は一日幸せな気分で過ごせるわぁ…」

「今日はいい野菜が入ってるから厨房の人たちに伝えとくれー!」

「マクスウェルにツケ払えって言っといてー!」


通りざまに街の皆様からの黄色い声・野太い声・業務連絡etc...騎士のマクスウェルにはあとで説教ですね。


外壁に着地、そのまま外壁の外へ。数100メルトほど先に魔物の群れを視認。



「それでは旦那様、ユーリ様、お願いいたします。侍従隊は構えたまま待機。」

旦那様が持ってきたのは私たちの持っている銃より更に口径の大きな「魔導砲」を構えユーリ様がそれに火属性の魔力を流し込みます。暴発しないようコントロールが必要なのでいい練習になるそうです。



「撃て!!!」

ズガァァァァァンという轟音とともに群れの半数が消し飛びましたね。もうこれ私たち要らなかったんじゃ…



「続いて侍従隊一斉射撃。一撃をもって殲滅せよ!撃て!」

響く銃声と炸裂弾の爆ぜる音。命令通り一撃で殲滅が完了しました。私たちは通常業務があるので撤収、落としているであろう魔石は冒険者ギルドと提携しているので依頼として回収してもらいます。拾いに行くだけなので薬草取りに代表される低ランク冒険者に人気の依頼のようです。



その日の休憩中使用人たちの食堂にて同い年の騎士マクスウェルを見つけ朝に飲み屋の女将さんに言われたことを伝えます。


「ちょっとマックス、女将さんがツケを払えって怒ってたわよ?」

「あー、面目ない。ちょっと飲みすぎちまって財布出すのもおぼつかなくなってたみたいでなぁ…」

「しっかりしなさいよ、もう小隊長になったんでしょ?」

と同時期にお屋敷に来た癖のない金髪でぱっと見は均整の取れた顔の残念幼馴染との会話は割と砕けた話し方になり、マクスウェルだと長いのでほとんどの人が呼ぶマックスと私も呼んでいます。




「なんだぁ?また夫婦喧嘩かぁ?」

「私はお嬢様一筋なので」

「あんたたちも飽きもせずよくやるわねぇ…」

周りのみんなにからかわれ真顔で返す。これもいつもの事なので昔のようにあわてて否定してさらにいじられることもなくなりました。


「とにかく!女将さんのところにちゃんと払いに行きなさいよ!」


話を聞いてるんだか聞いてないんだかわからないマックスに念を押して食堂をあとにしてお嬢さまの教育係も兼ねているのでお勉強の準備に取り掛かりましょうか。アカデミー受験まであと半年、まぁ落ちることはないので入学まであと一年、お嬢様成分をしっかりチャージしておかなければなりませんね。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

口うるさい同い年のメイドが去ったあとの食堂で料理長とその奥さんがしみじみと語りだす。


「ティアもずいぶん明るくなったわよねぇ…ここに来たときは物言わぬお人形みたいな状態だったから余計にね…」

「そりゃぁそうだろ…ご両親を目の前で失って自分の右脚まで失くしたんだから」

「私たちの娘くらいの歳の子がどこをどうすればあんなこの世の終わりみたいな表情出来るのかねぇ…。あの子は私たちにとっても娘みたいなもんだからね、旦那様たちは勿論同い年のユーリ坊ちゃんやマックスにも感謝してるよ。」


「いきなり褒めないでくださいよ恥ずかしいなぁ…。俺らだけじゃなくアカデミーに行かせてもらえたってのも結構大きかったんじゃないですかね?あの5年は中々に濃かったですから。」

「あぁ、あんたたちの頃から拾われたりして屋敷勤めしてた平民・孤児・庶子とか訳あり向けのコースができたんだっけね?今も騎士団の連中の子供が何人か行ってるみたいだけどあんたたち結構暴れたみたいじゃないか。」

「暴れてないですって!そりゃちょっとした揉め事やなんかもありましたけど…。」



そこに非番の騎士団長も加わる

「なんか寮生にだけに伝わる秘密もあるらしいじゃねぇか。倅に聞いてもそれだけは教えてくれねぇんだよ」

「他の事ならいいですけどそれだけは答えらんないっすねぇ…【寮訓】だけは口が裂けても言えないっす。あんなん聞かれたらこっぱずかしくて死にたくなりますもん。てか団長爵位持ちなんすから息子さんあの寮に入れないっしょ。」


「それあれだろ?黒歴史ってやつだろ?『魔眼が疼く!』とかそーゆーやつ。」

「中身は違いますけど似たようなモンっすわ。」


「でもおかしな話じゃないか。アカデミーに在学中って身分は問わないんだろう?」

「今はそうかもしれないですけどね、俺らがその寮の一回生なんですよ。つまり平民コースの一番最初だから事務も講師も差別感バリバリな人がまだいたんですよねぇ。貴族同士でも爵位によってはあるでしょ。」




でもなぁ…あんな暑苦しくて青臭い寮訓…違うな…もう誓いとか呪いの類だなありゃ。アレがあの寮に入った人間の生きる意味なんだ。俺も、ティアも。




「あー、でもティアちゃんは特にか。あの子枠は平民だけど貴族の庶子だもんな。」











――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき




いやー、やりたことを文章だけで表現するのって難しい…。

次回からはティアの生まれの方の話をやっていこうかと。マックスのいう「暑苦しい寮訓(笑)」は中盤からクライマックスにかけて使いますので少々お待ちくださいw

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