衝突願望その2
私は先日、予約もなしに入った小さな精神科で軽度のうつ病と診断された。六十代で温厚な女性の精神科医は何も心配はないといっていた。
私は先ほどの世間話とお悩み相談はカウンセリングというのか診療というのかどちらなのだろうかと考えながら小さな駐車場に停めてあるピンク色の軽自動車を眺めた。私の愛車なのだが都会暮らしとはいえ泥やチリ、水垢で汚れ切っていた。カウンセリングを受けた後だから視界が開けた感じがするのだ。最近ガソリンスタンドではガソリンを入れるだけで洗車などはしていなかった
私はキーホルダーを取り出してボタンを押した。電子音がして車のドアが解錠された音がクリニックの駐車場に響いた。この日はお昼時だったので私しか患者がいなかったがネット検索したときにこのクリニックのレビューは高評価だったのでここを選んだ
勿論評判通りだった
「次の診療は予約してね、まあでも困った時はいつでもきていいよ」この言葉が頭の中で繰り返される。私は久しく感じていない幸福感を覚えていた
「なんか話を聞いてもらえるだけでスッキリするもんなんだな」
同じようにここ最近感じたことのなかった空腹感を覚えて私はランチを食べに行こうと意気込んだ。もちろん洗車も最安のプランで済ませてしまおうと思った
だけど車に乗り込んで座席に座るとあの
「まだエンジンがかかっていないから。いいよね…」
私はオートマチック車に装備された二つしかない足で操作するペダルの内左にあるブレーキペダルを思いっきり蹴り付けた。上半身はあまり動かないように誤魔化して
何度も何度も
ブレーキペダルを蹴り付けた後、ゆっくりとブレーキペダルを踏み込む儀式をしたジワジワとブレーキペダルを踏む。前に広がっている診療所の看板と駐車場マークの風景に横断歩道を渡る人をイメージする
現実で誰かに八つ当たりしてはいけないのだ。決してしてはいけない。どんなに上手くいっていなくても
そして深呼吸をして落ち着いた私は車のエンジンをかけて駐車場を出た。道路を走らせた時に肝心の周辺のレストランとガソリンスタンドを検索するのを忘れていたことに気づいた。最近はこういうふうに心の中で決めたことをすぐに忘れてしまう
「まあいいか地元のファミレス…コンビニのイートインでもいいか。まだ薬を飲んでいないし。安静にしないとね」
見知らぬ街の十字路の信号が赤になったので私は車を止めた。先ほどのようにブレーキを蹴り付けてしまうと急停止してしまって危険だから私はゆっくりと停止した後に周りを見渡した。平和な都外の田舎町。上京する前にいた田舎もこんな雰囲気だった。大きすぎるドラッグストア。ファストファッションの店。紳士礼服店。コンビニ。その他飲食店。私はブレーキをジリジリと押し込み続けた。信号が青になればブレーキから足を離すだけで急停止するようなトラブルは起きない
ランチの場所をコンビニのイートインに妥協したのだが私が勤務しているセブン◯レブンにはいけない。私はあの場所が日に日に嫌になっていく。特にこれといったパワハラなどはないのだが。休日にはしゃいでいる若者や子供を見ているうちに自分の閉塞的な人生と比べてしまうのだ。あとは年寄りのゆっくりとしたお釣りを探す動作や土木作業員の大きな笑い声。レジの店員は向いていないのかもしれない
都内に勤める夫は今日も帰りが遅い…
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