第3話
にらみ合うタヒナとクワイエット・ソース。
「形勢逆転ってわけね、でも戦わない理由にはならない!」
虎の姿から元の獣人の姿に戻されたクワイエット・ソースは多くの魔力を失ったが、それでもなお立ち向かおうと神経を集中させる。
「やはり、大元帥ね。こっちも負けないわよ!」
対するタヒナもまた残った魔力を肉体強化と剣に集中する。第二ラウンドの開始準備は互いに整ったのだ。
そんな時だった。巨大な黒い豹が現れたのは。
「そこまでだあああああ!!」
「えっ、何!?」
「あれはイラス!」
クワイエット・ソースが口にした通り、巨大な黒豹はイラス・ティスィティが変身した姿だった。そして、そのままの姿で二人の間に入ると、タヒナに向かって咆哮を浴びせる。
「ぐおおおおおおおおおおっ!!」
「きゃああああ!」
魔力の込められた咆哮は衝撃波を放つ。その衝撃でタヒナは吹っ飛ばされてしまった。
「イラス、どうしてここに!? まさか、私を助けるためにここまで来てくれたの!」
嬉しそうにとろけた笑顔で喜ぶクワイエット・ソース。彼女とイラス・ティスィティは恋人同士なのだ。
「ああ、もうじきここにはヤバい勇者が三人も来る。君の軍も撤退させたから後は僕達が撤退するだけだ。急ごう」
「ええ!? 私と二人で戦うんじゃ……?」
「ダメだ! 新米勇者とやらに出くわしたんだが、そいつがとんでもない実力者だった。もうすでにストレングも撤退を余儀なくされている。悔しいがここはもう……」
「そう、分かったわ。でも――」
クワイエット・ソースは後方を睨む。その先にいるのは、先ほどまで戦っていた女勇者がいるのだ。彼女との決着はついていない。それが心残りだった。
「ここは諦めよう。いずれまたチャンスはあるさ」
「……そうね、いきましょう」
悔しくて歯噛みするクワイエット・ソースは、巨大な黒豹の姿のイラス・ティスィティの背中にまたがった。そして、後ろを向いて得意の音魔法を発動する。
「もう追手が来てるみたい。音魔法『倍嗚鈴(バイオリン)』!」
放たれた音魔法は、人類連合の追手と思われる者達の足止めになった。こうして二人の大元帥は撤退したのであった。
◇
「大丈夫ですか!? グリン軍曹さん!」
「このバカが! 先走りおって!」
「おお、ブラク二等兵にレド伍長。お前達も無事であったか! いやあ、魔王軍大元帥の攻撃はものすごいものだったであります!」
「クックックッ、このイエロウ曹長を忘れんなよな~。いい道具を貸してやったから助かったんだぜ〜」
「ぶ、ブル兵長もいるよ!? 忘れないで!?」
クワイエット・ソースを追っていた人類連合軍の一小隊。彼らはクワイエット・ソースの攻撃を正面から食らったが、奇跡的に助かっていた。
「おのれ~、ここで大元帥を打ち倒せれば我らの出世は間違いなかったのに……」
「だから無茶だって言ったんですよ軍曹さんよぉ」
「もっと武器と武具を備えておればよかったのだ! 計画がずさんだ!」
「俺様に言ってくれりゃ良かったのによ~」
「い、いや、大元帥相手に僕ら五人だけはちょっと……」
その場で愚痴り合う呑気な小隊。彼らはこの後、他の部隊と合流して何の成果も残さずに本隊に戻っていくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます