第2話

 西の地域での戦いは人類側が追い詰められていた。



「人間達よ! 降伏しなさい! もはや貴方達は戦うこともできないでしょう! これ以上の抵抗は無意味、これ以上の犠牲を出したくなければ降伏しなさい!」



 魔王軍を率いる巨大な白い虎が人類連合軍に向かって吠える。白い虎の正体は魔王軍大元帥『クワイエット・ソース』が変身した姿。白い虎獣人とダークエルフとの間に生まれた魔族ゆえに普段は白い毛皮の虎の獣人、垂れた目で青い瞳、端麗な顔立ちだが、有事の際は巨大な白い虎に変身できるのだ。



「くっ、こんなところで……」



 それに対して追い詰められた人類連合軍の勇者の一人『タヒナ・ザサン』は悔しそうに歯噛みする。彼女は、大きな目に鳶色の瞳で薄い金髪をポニーテールにしている小柄で可愛らしい顔立ちの少女だが、『戦乙女』として二刀流の剣士で多彩な剣技を駆使して戦う勇者なのだ。そんな彼女は今、傷だらけで仲間たちと共に追い詰められていた。



「負けるわけにはいかない、まだ戦えるわ! 回復魔法『スーパーヒール』!」


「なっ!? 傷口がこんなに早く塞がるなんて!? なんて回復力なの!?」



 タヒナは回復魔法を最も得意とする。それを証明するかのように、タヒナは数秒間でクワイエット・ソースが驚きの声を上げるほど早く傷口を塞いで見せた。



「さあ、これで仕切り直しよ!」


「こ……これほどの速さで……でも、それだけの回復魔法なら随分魔力を消耗したはず、貴女に勝機はない!」


「それはどうかしら?」


「え? きゃあ!?」



 突如、クワイエット・ソースの体に大きな光の矢が命中した。その勢いでクワイエット・ソースはぶっ飛ばされてしまった。そして更に、巨大な白い虎の姿から元の白い毛皮の虎の獣人の姿に戻ってしまう。



「くっ……私としたことが……なっ!? 何故、元の姿に!? まさか、魔法の無効化!?」


「そうみたいよ、こんなことができるのはこっちの『魔法賢者』くらいだけどね」


「魔法賢者――『ポエイム・デイジェイ』か!」



 ポエイム・デイジェイとは、ウィンター帝国の魔法使いにして『魔法賢者』の称号を獲得した勇者の一人。人間が使える魔法全てを使うことができると言われたまほうつかいのことだ。実際、光の矢は彼の魔法であり、ついでに魔法を無効化する付与を掛けたのだ。





「よお~し、僕のプレゼントはうまく届いたみたいだね。敵の大元帥に」


「すげえなポエイム。俺みたいな弓兵でもないのにここから狙い撃ちできるとはな」


「ははは、バイパーさんには敵わないよ」


「当然だ。俺は百発百中だかんな」



 丁度、タヒナとクワイエット・ソースの戦闘が遠目で見えるところで会話するのは、タヒナを援護するためにクワイエット・ソースに向けて魔法の矢を放った金髪碧眼の少年ポエイムと、スプリング王国の勇者『バイパー・ヴェノム』だった。



 バイパー・ヴェノムは精悍な顔立ちをしているスキンヘッドで黒い瞳の二十代後半の男だが、年齢の割に三十代後半にも見えるくらい老けた顔をしている。その顔立ちに見合うように身長も高く、筋骨隆々で太い腕に腰、体格が大きい。それでいて『弓使い』なのは、優れた視力と動体視力からなのだ。


 バイパーは先ほどまで仲間たちと共に、魔王軍五大元帥の一人『ストレング・ライス』と交戦していた。何とかストレング・ライスの軍を退けることができたのだが、その戦いで相当な重傷を負った。瀕死の状態で今にも命の灯が消える寸前という所で、合流したポエイムによって最高レベルの回復魔法を掛けられて生還できたばかりなのだ。



「……すまんな。俺の回復につき合わせてしまったばかりに若い勇者たちの援護をおろそかにさせてしまって……」


「いいってことですよ。僕の仲間たちもそんなに弱くないから平気ですって。それに今みたいにここから援護してみせますから!」


「……ふっ、若い世代はうらやましい限りだな……」



 他愛のない会話をしながらも、ポエイムは援護に集中していた。


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