第8話

 クラウスたちは、アスランの家に到着する。アスランが玄関のドアを開けると、暖色の明かりがクラウスたちを照らした。

 軽い足音が、玄関に向かってくる。

「おかえり、兄さん」

 現れたのは、レーア。頭のリボンを揺らしながら、クラウスに飛びつく。

「ただいま、レーア」

「学校、楽しかった? ローゼマリーとは仲良くしてる? アレンに振りまわされてない?」

「最後の、余計だぞ。確かにあいつは天然だけど」

 クラウスは言いながら、レーアの頭を撫でた。

「ユージンに、ひどいこと言われてないよね。言われてたら、私叱りにいくよ?」

「そんなことしなくても大丈夫だ、レーア」

「よかった」

「……あの、お邪魔します」

 聞き慣れない声に、レーアはクラウスの体を放した。後ろの銀色の髪の少女を見る。

「父さん、この人誰?」

 レーアが、アスランに目を向ける。

「この人はエルヴィ。しばらくうちで預かることになった。お前も聞いただろう」

 アスランが言う。

「ほ、本当に女の人だったんだね……はあ」

 レーアはため息をついた。

「おや? 喜んでくれると思ったんだが」

そのとき、もう一人の家の人が玄関に現れた。ユーリス。アスランの妻であり、クラウスにとっての仮の母である。

「おかえりなさい。あら、話は聞いていたけど美人な子ね。銀色の髪がきれい」

 ユーリスの目がぱっと輝く。アスランは、そんなユーリスに歩み寄り、肩に手を載せた。

「エルヴィ、紹介する。うちの妻のユーリスだ。そして娘のレーア。仲良くしてくれるね」

「はい、えっと、エルヴィです。よろしくお願いします」

 ぺこりとエルヴィは頭を下げる。

「いいのいいの、さあ上がって。外は寒かったでしょう」

 ユーリスは陽気に手招く。エルヴィとは初対面なのを気にしていない。

「兄さんも早く来てよ」

 レーアが、クラウスの手を引いた。

 その姿に、エルヴィの硬かった表情も緩んだ。

「クラウス、レーアと仲良さそうね」

「ああ、自慢の妹だ」

 クラウスは、レーアの頭を撫でる。レーアは気持ちよさそうに、口元を緩ませた。

「なんだか本当の兄妹みたい」

 エルヴィも笑っている。

「最近あんまり家に帰ってきてくれないけどね」

 レーアがさらりと不満をぶちまけている。

「兵術学校は全寮制だ。休暇があるときにしか帰れないんだから、仕方ないだろ」

 クラウスは言い訳する。手を離そうとすると、レーアがとっさにその手を掴んで、自分の頭に押し当てた。

「撫でるのやめたらダメ。でないと、わかるね?」

 レーアのおでこは、絶妙なまでにクラウスの鳩尾の高さにある。頭突きされたらクリティカルヒット確定だ。

「しょうがないな。で、携帯で連絡を取り合うだけでもダメなのか?」

 クラウスは脅されるまま、レーアの頭を撫で続ける。

「こうやって一緒に家にいて、ご飯食べたりしないとダメだよ。兄さんはこれから冬季休暇なんだよね」

「ああ、年が明けるまでは、この家にいる」

「やった」

 笑顔を浮かべたレーアに、エルヴィもつられて笑う。

「よかったね、レーア。兄さんと一緒にいれて」

 エルヴィに声をかけられ、レーアは彼女のほうを見る。真顔になっていた。いきなり話しかけられて驚いた様子だ。

「ごめんなさい。会ったばかりなのに、余計なこと言ったかな」

 エルヴィが下を向いて謝る。

 クラウスは、少しどぎまぎした。いきなり現れたエルヴィに、レーアは警戒しているのかもしれない。これから当分一緒に住むにあたって、受け入れてくれるか。

だがクラウスの不安をよそに、レーアは再び笑顔を浮かべた。

「そんなことないよ。これから一緒に暮らすんだよね。遅くなったけど、レーアっていいます。これからよろしく」

 ぺこり、とレーアはエルヴィに頭を下げた。

 エルヴィも、レーアに倣って頭を下げた。

「ありがとう、よろしく。かわいいね」

「ありがと。嬉しい」

 レーアは、状況だけで敵と一方的に断定し、あからさまに警戒してきたユージンと真逆だ。クラウスは、四年前から兄と慕い続けてくれる仮の妹がありがたかった。もう一度、レーアのさらさらしていて触り心地のいい髪を撫でる。

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