第3話  共同作業

今は6限目の英語の授業の最中だ。ご存知の通りクラスの3分の1は眠りについていた。ちなみに、寺坂は男の絵の練習をしており、颯はウトウトとしており、陵大は爆睡していた。英語の教師は寝ている生徒に構うことなく授業を進める。

「え〜と、じゃーここの問題を、今日は5月12日だから足して17、冨樫、解いてみろ」

と先生が良く使う指名方法で颯が指名された。颯はその声で一気に目が覚めた。颯は答えはすべて埋まっていたが、答える場所がわからなかった。颯が焦っていると後ろから小さく可愛い声が聞こえてくる。

「I care about you(私はあなたが気になっています。」

颯はその言葉にドキッとした。

「あ、あい けあー あばうと ゆーです。」

と颯はカタコトな英語でそう言った。

「正解だ。まぁ発音は褒められたもんじゃないがな」

と黒板を見ながらそういう英語教師。寺坂も後ろでクスクスと笑っているのが、颯の耳に届く。

「じゃー次の問題を後ろいって寺坂」

と今度は寺坂がさされた。寺坂は笑い声をピタリと止め問題文に目をやる。颯もふと問題文に目をやる。そして、寺坂が指名された問題の答えの欄を確認する。すると、そこにはsixteen metersと書かれていた。颯はすぐに寺坂と6の相性の悪さを思い出した。そして、後ろからセー・・という言葉が聞こえたタイミングで颯は代わりに少し大きめの声で

「シックスティーンメーターズです!」

と答えた。教室の5名ほどの生徒が今の颯の声で起きた。寺坂も目が点になっていた。

「ん?先生は寺坂に聞いたんだが、まぁ積極的なのはいいことだからな。よし、正解だ。発音は相変わらずだがな」

と先生の言葉にクラスの数人が笑った。颯はものすごい恥ずかしかったが、寺坂の名誉を守るためだと思い、よくやったと自分で自分を褒めた。そうとも知らず、寺坂はまたクスクスと笑い出した。

キーンコーンカーンコーン・・・

と授業終了の鐘が鳴った。英語の先生が教室から出ていく。それと入れ替わりでいつものように担任の小藤先生が教室に入ってくる。そして、それと同時にクラスメイトは帰りの支度を始める。野球部の2人は部活に行こうとすでに席から立ち上がっていた。

「おい、木村と吉崎席座れ。今日は連絡事項あるから」

その言葉にクラス中の全員が今してる作業をやめ、担任の方を見る。約2週間ぶりの帰りのショートホームルームに驚きを隠せないクラスメイトたち。しかし、そんなことはお構いなしに小藤先生は話を進める。

「今日16時から体育祭実行委員は3階多目的教室で集まりがあるみたいだから行ってくれー。あと、団旗制作代表者2名も同じ時間にここの教室で集まりがあるからそっちもよろしくー。だから関係ない奴らはすぐ荷物持って教室から出ろよ。以上。」

というと、先生は連絡事項が書いてある紙を挟んでいるバインダーを閉じ、颯爽と教室から出ていった。珍しくあったとしてもこの短さである。クラスメイトもさすがに少し呆れていた。しかし、それがあの先生の良いところでもあると、次々と教室から出ていくクラスメイトたち。颯もそのクラスメイトたちと同じように、帰りの支度を終え荷物を持って教室から出ようとした。

「おい、おまえ荷物持ってどこ行くんだよ。」

すると、陵大に引き止められた。

「え、いやだって先生が関係ない奴らは荷物を持って教室から出るように言ってただろ」

と当然のように話す颯。

「いやいや、関係者だろお前!」

とすぐに訂正した陵大。全く心当たりのない颯。

「今日担当の先生いないから掃除はやらなくていいって言われた!ラッキー!」

とその時寺坂が昇降口から戻ってきた。

「どうしたの?」

と陵大と颯が見つめ合っていたため不思議に思った寺坂。

「いや、颯が今から帰ろうとしてるんだよ!」

と陵大は寺坂に言いつけた。

「いや、だからなんでダメなんだよ!」

困惑し続ける颯。すると、そこに他のクラスの奴らが次々と入ってくる。颯の困惑がさらに加速する。すると、その様子を見て全てを悟った寺坂が口を開く。

「いやー、冨樫くんダメだよ帰ったら・・・」

颯は寺坂の方をゆっくりと振り向く。

「私たち団旗制作代表者なんだから!」

・・・・

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


「それでは、これから団旗制作代表者会議を始めます。礼。」

「お願いします!」

始まりの挨拶をかわした後に会議は始まった。この会議は学年ごとで行われており計3箇所で開催されている。そのため、ここには一年生しかいない。みんな初めての試みで、いいものを作ろうととても張り切った様子である。1人を除いて。

「あ〜・・・」

とさっきから露骨に拗ねてるのか怒っているのか落ち込んでいるのかわからない表情をしているのは先程初めて自分が団旗制作代表者であることを知った颯である。

「そんなに変な顔しなくても」

と颯の顔を見てちょっと笑みが溢れる寺坂。しかし、すぐに真面目な顔になる寺坂。

「ごめんね」

と寺坂は一言呟いた。颯はこの言葉の意味が分からず、顔をいつもの顔に戻し、寺坂の方を見た。

「いやあの日って私が冨樫くんの家にお邪魔する日だったでしょ?で、確かその日って冨樫くんそのことしか頭に無くて、何を聞いても上の空だったし、だから、あの時も団旗制作代表者をやってくれるかを聞いてると知らずに返事しちゃったのかなって思って」

颯は本当に落ち込んでいる寺坂の表情を見てフォローしようとしたが、まさにその通りだったため何もできなかった。

「だから、もし本当に嫌だったら辞めてもいいよ。でも、代表者の蘭には最低でも2人の名前は必要らしいから名前だけは貸してね」

と申し訳なさと着飾った笑顔と少しの寂しさを含んだ顔を寺坂は颯に向けた。その顔を見て颯は心が痛む。別に颯もやりたくないわけではない。ただ、プロの漫画家を目指している今。そんな時間があるのかというのが本命である。とはいえでも、体育祭は6月後半に行われる。最悪

1ヶ月半だ。でも・・・と心の中で葛藤を続ける颯。

「でも、私はしたいな・・・」

と葛藤する颯の横で寺坂が口を開き始める。颯は思わず寺坂の方を見る。

「冨樫くんと初めての共同作業」

目が合う颯と寺坂。見つめ合うこと5秒。

「ちょっと、そこちゃんと聞いてるか?」

と団旗制作について説明していた先生が颯と寺坂の方を見ながら注意をする。颯と寺坂はすっと前を向いた。するとそれと同時に颯がその場で立ち上がった。

「1年6組団旗制作代表者の冨樫颯です!先輩方にも負けないものを作りたいと思います!よろしくお願いします!」

と大きな声で言い切った颯。寺坂以外の生徒はなんだこいつという目で見ている。

「おー、いい決意表明だ!そういえばまだ各々自己紹介してなかったな。じゃーせっかくだしやっとくか!じゃーそのまま冨樫の後ろいって7組の2人どちらか自己紹介よろしく」

と颯のせいで団旗制作代表者の自己紹介が始まった。颯は顔を赤くしながらそのままゆっくりと座った。少し沈黙が続き颯を見つめ続ける寺坂。

「え、えっと、そういうことなんで、これからよろしくお願いします」

と照れながら言う颯。寺坂は徐々に笑みが増えていき、

「こちらこそ!」

と満面の笑みで返事をした。

全クラスの自己紹介が終わった後は先生は団旗制作の説明に戻った。そして、最後に全てのクラスに一つずつ木の棒と真っ白の布を配布した。

「えー、最後に団旗のデザインについてですが、各クラス自分達のクラスカラーを基調としたものにしてください。また使用して良いものですが、基本的にはなんでも良いです。ただ、あくまで作るのは団旗ですので振るという行為に支障がない程度の装飾にしてください。また、体育祭は多少の小雨なら問題なく行いますので、雨で簡単に劣化しないものを使用してください。それ用の絵の具なら生徒会の方から貸しますので準備しなくて大丈夫です。また、材料費などは一切出ませんので、どうしてもお金が必要な場合はクラスで集金したりして各自で買ってください。とりあえず、今日のところはこんなとこかな。何か質問があれば私に聞くように。以上。じゃー号令よろしく。」

と担当の先生からの説明が終わり、生徒会に号令を委ねた。

「起立。これで団旗制作代表者会議を終わります。礼。」

「ありがとうございました!」

会議が終わると、生徒は次々と自分達の教室へと戻っていく。先生は次の会議に向けなにか生徒会の人と話し合っている。颯と寺坂は渡された木の棒と布をなんとなく旗のように重ねてみることにした。

「結構大きいね」

と重ね合わせた旗を見ながら寺坂がつぶやく。

「確かに、これを振るのかーキツイな」

と颯も旗を見ながらつぶやく。

「じゃー、早速だけどデザイン考えようか」

と寺坂が言うと、2人は一回旗を床に置くことにした。そして、デザインを考え始める2人。しかし、颯がすぐに口を開く。

「そういえば、うちのクラスカラーってなんなんだ?」

少し沈黙の時間が続いた。

「本当にあの日なんにも聞いてなかったんだね」

と呆れながら笑う寺坂。颯は申し訳なさそうな顔をした。

「青だよ、青」

と寺坂は制服の青いリボンを触りながら答えた。

「青か・・・」

と再び考え始める颯。するとそこに、体育祭実行委員会の集まりを終えた陵大と梶谷が教室に入ってきた。

「お疲れ〜、大丈夫か?今日自分が初めて団旗制作代表者だと気づいた颯くん」

と小馬鹿にしたような口調で話しかけてきた陵大。

「おう、今絶賛デザイン考え中だ」

対抗して少し怒り気味で答える颯。

「お疲れ様。体育祭実行委員、結構長引いたね」

と寺坂は梶谷に話しかける。

「石川さんが遅刻したため開始時刻が遅れたんです。」

と陵大を睨みながら答えた梶谷。

「いや、それは颯がわけ分からないこと言い出したからであって・・・」

と陵大は梶谷の誤解を解こうとしたが、全然聞く耳を持ってくれない梶谷。陵大は必死に説得を続けた。

「ねぇ、冨樫くんと石川くんって仲良いよね?」

と突然寺坂が颯に聞いた。

「あー、まぁー中学から一緒だからね」

と陵大の方を見ながら颯は答えた。

「そうなんだ、いいな私元中1人もいないから羨ましいよ」

と寺坂も少し寂しそうに陵大の方を見た。

「そんなんだ、でもこんだけ一緒にいると遠慮のえの字もなくなるからムカつくことばっかだよ」

と笑いながら冗談まじりで颯は寺坂に言った。

「へ〜、そうなんだ」

と寺坂も笑みを浮かべながら返事をした。すると、陵大がこっちの視線に気づいたのかこちらを振り向く。

「なんで2人してニヤニヤして見てるの?」

と颯だけならもう少し怒った口調になるが、今は寺坂がいるため少し優しめに聞く陵大。

「いや〜別に」

「そうそう、デザインどうしよかなって」

と2人はそれなりに誤魔化した。

「デザインのテーマ、海とかはいかがですか?」

すると、梶谷が唐突に口を開いた。3人は突然のことに少し驚いた。しかし、すぐに寺坂が口を開く。

「海か、確かにクラスカラー青だし、丁度いいかも」

と寺坂が梶谷の意見に賛同した。すると、寺坂が冨樫くんはどう?みたいな表情で見てくるため、颯もいいと思うと賛同の返事をした。少し嬉しそうな梶谷。

「じゃー、せっかくだし、貝殻とかで装飾したらどうかな?」

とワクワクさせながら提案をする寺坂。

「いいね!海って感じするし、手作り感とかオリジナル感も出るし」

と激しく同意する陵大。梶谷も何度もうなづいている。

「でも、貝殻って団旗に使用してよろしいんでしょうか?」

と梶谷が疑問に思い3人に聞いた。

「んー、団旗を振れればどんな装飾をしてもいいって言ってたけど、一応先生に聞きに行こっか!丁度そこにいるし」

というと寺坂は梶谷を連れて先生の元へ聞きにいった。すると、陵大は颯に近づきながら話し出した。

「いやー、でもやっぱ寺坂さんすごいよな」

颯はなんのことか分からなかったため何が?と陵大に聞いた。

「いやだってよ、今まで連絡事項くらいしかクラスメイトと話していなかった梶谷と今普通に話してるんだぜ。てか、梶谷の笑顔とか初めて見たし」

この言葉には颯も賛同した。すると、そこに2人が戻ってきた。

「貝殻全然大丈夫だって!」

と笑顔で寺坂は颯と陵大に伝えた。すると、4人は早速作業を始めようと机をくっつけたり、紙とペンを用意したりした。

「じゃー、みんなアイデア出してって冨樫がそれを描き起こすので!」

と寺坂に勝手に書記に任命された颯は仕方なく紙とペンを受け取る。

「構図は、海と浜辺の両方が見える感じにしようよ!」

と早速寺坂が案を颯に言う。颯は慌てて描き始める。

「浜辺の所々に貝殻を貼り付けたらいかがでしょうか?」

と梶谷もすぐにアイデアを出す。颯は急いで描き留める。

「あと、浮き輪なんかも描こうぜ!」

と陵大もその流れに乗っかる。颯はまだ貝殻を描いている。

「冨樫さんって絵お上手なんですね。」

と梶谷が颯の絵を見て感心した。

「ねぇー、男の子だけじゃなくて物とかの絵もうまいんだね」

と寺坂も続けて感心した。颯は少し嬉しくなりさらにペンを走らせる。

「寺坂さんは冨樫さんの絵以前にもご覧になったことがあるんですか?」

と梶谷が寺坂に聞いた。

「うん!1週間くらい前に学校で、覗き見だけどね。あとは冨樫くんの家でも見たよ」

と寺坂は笑顔で答えた。颯のペンが一気に止まる。

「えっ!颯の家に行ったんですか?寺坂さんが⁈」

と陵大がものすごい勢いで寺坂に聞いた。

「うん、兄弟たくさんいて、賑やかで楽しかったよ!」

と笑みを浮かべながら答えた寺坂。颯の方を睨む陵大。

「ごめん、ちょっと俺と颯、トイレ行ってくるね」

と言うと、陵大は颯に早く行くぞという目つきで颯の方を見た。颯は行くのを拒んだが、泣く泣く行くことにした。男子トイレに入るとすぐに陵大は颯に言った。

「颯くん、どう言うことかね。寺坂さんがお前の家に行った?そんなこと聞いてないんだけど?何した、どこまでした!」

と静かに怒りなから陵大は颯に聞いた。

「いや、ただ俺の絵を見に来ただけだって、陵大が思うようなことは何もしてないって!」

颯は必死に陵大の怒りを収めようとした。

「本当か?そう言って前嘘つかれたからな。お前、前の時、寺坂さんと話したのはちょっとした機会があったからだって言ってたけど、寺坂が自分の家にくるのかちょっとした機会な訳がねぇーだろ!」

陵大の怒りは増す一方である。

「いや、ちげーよ。その話は俺が寺坂さんの家に行った時の話であって寺坂さんが俺家に来た時の話じゃねーよ」

「お前寺坂さんの家にも行ったのかよ!」

墓穴を掘ってしまった颯。

「はぁー、まさかお前がこんな俺に隠し事が多いとは思わなかった!」

とムキになり始める陵大。颯はどうにかこの怒りを収めようとするがいいアイデアが思いつかない。

「どーせ、漫画家目指してることも寺坂さんに話したんだろ?」

と怒りながら聞いてくる陵大。

「いや、それは言ってないよ」

と正直に言う颯。

「嘘つけー!」

と疑心暗鬼になる陵大。

「本当だって、これだけはお前と家族以外誰にも言ってない!」

と真面目な顔で颯は陵大に言った。その顔にこれは本当なんだろうと思った陵大は少し気持ちが落ち着いた。

「そっか・・・、お前もう俺に黙ってることないだろうな?言うなら今のうちだぞ」

と少し落ち着いた様子で確認する陵大。

「ない!もう何もない!」

と両手を上に上げながら颯は陵大にそう言った。陵大は一つ大きく息をついた。

「次はないからな、覚悟しとけよ」

と言い残すと陵大はトイレから出ていく。颯もそれを見て、ついていくようにトイレから出た。そして、2人は一緒に自分たちのクラスに戻った。

「おかえり、トイレ長かったね」

と戻ってきた2人に寺坂は聞いた。

「いやー、こいつお腹弱くてさ、なかなか出てこなかったんだよね」

と颯を親指で指差しながら話す陵大。颯はないことを話されいつもなら訂正するが、まだ怒っている陵大にこれ以上の刺激は良くないと思い、そうなんだよねと適当に返す。

「そうなんだ、私もお腹は弱い方だからお互い苦労するね」

と寺坂は颯の方を見た。すると、陵大が再び颯を睨みつけた。お前が言ったんだろ!と思いながら特に何も言わない颯。そして、ふと寺坂の方を見るともうすでに出来上がっていた団旗のデザインが目に入った。

「おー、すげー、もうデザインできたんだね」

と露骨に話を逸らす颯。

「うん、梶谷さんと意見を出し合ってね。表がこれで、裏がこれなんだけどどうかな?」

と紙をひっくり返しながら颯と陵大に描きあげたデザインを見せる寺坂。

「おーすげー、てか寺坂さん本当に絵上手だったんだね」

と少し機嫌が良くなった陵大。

「これなら団旗最優秀賞取れるんじゃないか?」

と陵大が大きめの声でつぶやく。颯は思わず何それと陵大に聞いた。陵大は本当に呆れた様子で話し出す。

「お前まじで何も聞いてねぇじゃねぇーか。いいか、俺たちの学校は学年ごとに1位を決めるんだ。で、その順位はそれぞれの競技の点数の他にこの団旗の完成度も関係してくんだよ。団旗最優秀賞に選ばれたクラスには50点が追加されるんだ。ちなみに、一番競技の中で点数が高い全員リレーでさえ、1位のクラスに30点しか入んないから団旗の点数はまじででかい」

と陵大が言い終えると颯はなるほどといい、再びデザインの描かれた紙に目を向ける。

「ですが、この大量の貝殻はどうやって用意すればよろしいのでしょうか?」

と梶谷がつぶやく。

「海に取りに行けばいいんじゃないかな」

と颯が案を出す。

「それは名案ですね!海なら近くにありますし、費用も交通費ぐらいで済みますし」

と梶谷が賛同した。

「じゃー、今週末みんなで海に行こう!」

と寺坂が突然計画を立て始める。

「え、私もですか?」

「もちろん梶谷さんも一緒だよ」

「え、でも水着なんて小学生ぶりだし」

「じゃー今日この後買いに行こーか」

と寺坂と梶谷で話が盛り上がり始める。すると、ふと颯が陵大の方を見ると、陵大がグッと親指を上に向けていた。 

「颯よくやった!」

颯はなんのことだか分からず、ポカンとしている。

「寺坂さんと水着イベントをセッティングしてくれてありがとな!」

と満面の笑みで陵大は颯に言った。颯は次第に陵大の言っている内容を理解していき、それと同時に顔が赤くなった。俺無意識にそんなことしてたのかと後悔していたが、満面の笑みの陵大を見て、少しは機嫌を直してくれたと思い結果オーライと心の中で思った。

「いやー、それにしても寺坂さんの水着姿かーさぞ美しいんだろなー、な!颯!」

と上機嫌の陵大。

「そ、そうだねー」

と少し照れながら賛同する颯。

「いや、そんなことないよ」

と寺坂も少し照れながら答える。

「いやいや、寺坂さんスタイルいいし絶対似合うよ!足も膝までしか見てないけど、きっとめっちゃキレイで白くて細いんだろうなー、な!颯!」

とどういうつもりか全てに颯の賛同を求めてくる陵大。颯も面倒臭そうに先程と同じように賛同する。寺坂はそのよそよそしい返事をする颯に疑問を抱いた。

「いや、冨樫くんにはこの前見せたじゃない」

その言葉に寺坂以外の3人の動きが止まった。初めにこの膠着状態から解けたのは梶谷だった。

「え、見せたんですか?冨樫さんに?」

と顔を赤くしながら聞く梶谷。

「うん、太ももまでだけど。あ、そうそう冨樫くんって意外とガッチリしててね、腹筋が6つに割れてるの!」

「え、冨樫さんの裸も見たんですか?」

とさらに顔を赤くする梶谷。颯と陵大はまだ膠着していたが、颯は冷や汗だけは止まらず出続けていた。そして、ついに陵大が颯の方を向く。

「おい、次はないって言ったよな?」

と今までにないほど怒った声で颯にそう囁く陵大。すると、今度は問答無用に大声で

「どういうことだ颯ー!」

と陵大は颯に怒鳴った。颯はこの時もうこいつにだけはもう隠し事をしないと心に誓った。

                   続

                  










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る