第2話 自宅訪問2

「え〜、それじゃー次、障害物競走に出場したい人ー」

現在、6時間目のロングホームルームで6月に行われる体育祭の出場種目を決めている。体育祭実行委員である陵大は前に出てその司会進行をしていた。クラスメイトも高校初めての体育祭ということもあり大いに盛り上がりを見せていた。一部を除いて、

「ヤバイヤバイヤバイヤバイ・・・・。」

と颯は心の中でずっと唱えていた。何を隠そう今日はあの寺坂由美が颯の家に来る日だった。颯は前日からそのことで頭がいっぱいであった。

「どうしよう、昨日は申し訳なさから半分勢いでOK出しちゃったけど、改めて考えるとヤバイよな・・・。うん、ヤバイわ」

と心の中で颯が思っていると、自分の名前を呼ぶ陵大の声が耳に入ってくる。

「おい、なんかぼーっとしてたけど大丈夫か?」

と陵大が颯にそう言うと、クラスメイトの3分の1ぐらいもつられて颯の方を向く。颯は少しドキッとした後に慌てて返事をする。

「いや、あと出場種目決まってないのお前だけなんだけど、残ってる借り物競争でいいか?」

と種目表を見ながら陵大は颯にそう聞いた。

「お、おういいぜ」

正直今はそれどころじゃないと適当に返事をした颯。

「よーし、じゃー種目決めはこれで終わりなんですが、あと団旗の作成をしてくれる人を決めたいんですが誰かやってくれる人いますか?」

と陵大がクラスメイトに向けそう聞いた。しかし、皆周りを見渡すばかりで誰一人手を上げようとしない。すると、クラスメイトの一人が美術部にお願いすればいいんじゃないと提案する。

「おーい、うちのクラスに美術部はいねーぞー」

と今まで横から見てただけの担任の小藤先生が初めて口を開く。これにより、一気にネタ切れとなりしばらく沈黙が続いた。すると、その時一人が手を挙げた。

「じゃー、私やります!」

と言って立ち上がったのは寺坂だった。クラス中が騒めき出す。そして、女子の一人が寺坂さんって絵描けるのと聞いた。

「うん、まぁーそれなりにかな。誰も居ないならやってみたいなって」

とその言葉に再びクラス中が騒めき出す。その騒めきに中、陵大が話を切り出す。

「あー、ただやってもらうのはすごいありがたいんだけど、団旗の作成って結構大変だし、団旗作成者の欄にも最低でも2人の名前を書かなきゃいけないから最低あと1人は欲しいかな」

と団旗作成者の欄を指差し、その紙を寺坂に向けながら陵大はそう言った。すると、寺坂は少し考え、周りを見回した後に、

「じゃー、冨樫くんで!」

と前の席の颯を見ながら言った。その時、クラスが今日一日騒ついた。なんで冨樫なんだ?えー美由ちゃんどういうこと⁈もしかして・・・と疑問の声が多く飛びかった。しかし、陵大は颯が絵がうまいことを知っていたため何も疑問に思わなかった。そのため、なんのためらいもなく話し始める。

「てことだけど、どうだ颯?やってくれるか?」

しかし、先ほどから今日の放課後のことしか頭に無い颯にその声は届いて居なかった。それを見て陵大は再び呼びかける。すると、颯はハッと顔をあげる。すると、今度はクラスメイト全員が颯の方を向いている。颯は思わず、えっと声が出る。

「おい、本当に大丈夫か?で、どうだ?やってくれるか?」

と颯の方を見る陵大。颯はまた種目決めの話だと思い、体育祭にあまり興味のない颯は再び適当に返事をする。再び騒めき出すクラス。疑問に思う颯。

「よーしじゃー、よろしくね〜!2人でキツかったら俺も手伝うからさ」

第5歩をちゃっかり踏み出す陵大。とその時授業終了のチャイムが鳴り響く。体育祭実行委員の2人が自分の席に戻り始めると、先生が教卓を通り過ぎ、教室のドアを開ける。

「あ、今日も特に連絡事項ないからもう帰っていいぞ。」

と言い残しドアを閉めた。まさかの帰りのホームルーム・・・0秒。

すると、他の生徒も次々と教室を出ていく。

「冨樫くん!」

と後ろから寺坂が颯に話しかけた。颯は思わず少し机から飛び跳ねた。その様子にくすくすと笑い出す寺坂。

「私今週、昇降口の掃除当番だからちょっと待っててね!」

と言い残し寺坂は昇降口に向かって小走りで向かった。すると、寺坂と入れ替わりで今度は陵大が近づいてきた。

「いや〜寺坂さん、今日もかわいいね〜」

と気持ち悪い感じで颯に向かって言ってきた。

「その言い方気持ち悪いからやめてくれ」

と本音をぶちまけた颯。

「ごめん、ごめん、ていうか意外だったなーまさか寺坂さんが絵に自信があるなんて」

と腕を組みながら陵大は寺坂の席の方を見ながらそう言った。

「あー、結構前から絵は描いてるって言ってたな〜」

と放課後のことにしか頭に無い颯はなんのためらいもなくそう言った。

「そっかー結構前から・・てなんでお前そんなこと知ってんだ?」

とその言葉を聞いた時、颯は少し前に自分が言ったセリフを思い出しドキッとした。

「そういえば、さっき寺坂さんなんでお前のこと指名したんだ?お前が絵うまいこと知ってたってことか?」」

と後半はなんのことだかわからなかったが、颯は必死に誤魔化そうとした。

「え、いや昨日ちょっと話す時間があってそん時にちょっと話しただけだよ」

陵大は3秒ほど颯の顔を見つめた後に一つため息をついた。

「あーあ、いいなぁ〜席が近いっていうのは。先生早く席替えしてくれないかな〜」

颯はホッとして今日初めて肩の力が抜けた。

「石川さん、早く行かないと遅刻してしまいます。」

とすごい丁寧な口調で陵大に話しかけてきたのは、もう一人の体育祭実行委員の梶谷沙織(かじたに さおり)だ。

「おー、すまん今行く。それじゃーな颯」

そう言い残すと、陵大は梶谷と一緒に教室を後にした。すると、入れ替わるように今度は寺坂が颯の方に近づいてくる。

「ごめんお待たせ!じゃー行こっか!」

とその言葉に再び肩に力が入る颯。そして、二人は最後の生徒として教室をあとにした。帰路の最中は寺坂を中心に何気ない会話が続いた。しかし、颯の頭にはほとんど届いていなかった。そして、その時は刻一刻と迫ってきて、とうとう颯と寺坂は冨樫家についてしまった。

「へぇ〜、ここが冨樫くんのお家かぁ〜結構大きいね」

と見上げながら寺坂は言った。颯の家は3階建てで寺坂の言う通り普通の家に比べると大きく感じるだろうという大きさだ。すると、寺坂が感心している中、颯は自分家のドアに耳をくっつけていた。寺坂は疑問に思い、大丈夫?と尋ねる。しかし、特に返答がない。すると、少し経った後に颯が寺坂に近づき話し始める。

「寺坂さん、なるべく家の中では大きい声で話さないようにお願いします。」

と寺坂にお願いする颯。寺坂も初めは疑問に思ったが、ご近所付き合いとか色々あるんだなと思い、そのお願いを了承した。そして二人は玄関の前までいき、颯がゆっくりとドアを開ける。そして、誰もいないことを確認すると、寺坂についてこいと指示をする。まるで、スパイ映画のようだ。階段を上がり、廊下の一番奥の部屋まで辿り着くと、颯はドアを開け寺坂を中に入れ、ゆっくりと扉を閉め、大きく息を吐いた。

「はぁ〜、とりあえず一安心」

と颯は心の中でそう思った。

「ヘぇ〜ここが男の子の部屋かー」

と寺坂はもうすでに颯の部屋を見て回っていた。初めは全体を見ていた寺坂だったが、次第にベットの下を除いたり、クローゼットを開けたり、ダンボールの中身をチャックするようになり、颯は疑問に思った。

「寺坂さん?何やってるの?」

すると、寺坂は当たり前のような表情で言った。

「エロ本探してるだけだよ」

その言葉に颯は思わず野球部の先生並みの大声を上げた。

「え、ちょ、大丈夫なの?そんな大声出して?」

とそっちの心配をする寺坂。

「い、いや大丈夫じゃないけど、寺坂さんほどではない!」

と慌てて言い返す颯。

「え、でも男の子の部屋には女の子の部屋に鏡があるのと同じぐらいエロ本があるって漫画で見たよ」

と少し驚いた様子で話し出す寺坂。

「いやいや、それもう男にはエロ本が必須みたいになってるよね?それ何年前の漫画?」

と颯が聞くと寺坂は少し考えた後に10年前と答えた。

「10年か、まぁその時くらいならその知識で間違ってはないか。」

と冷静な分析をする颯。

「てことは、今は違うってこと?」

と寺坂が興味ありそうに聞いた。

「あー、今は一般的にはネットで見る人が多・・・!」

とほぼほぼセリフを言い終えたところで颯は慌てて口を塞いだ。すると、寺坂はニヤニヤしながらメモを取り始めた。

「いや、メモしなくていいから!忘れてくれ全国の男のためにも!」

と颯がやや大きめの声でツッコんだ。すると廊下からなんだか小走りで颯の部屋に近づいてくる足音がする。しかし、颯と寺坂は気づいていない。そして、その足音が颯の部屋の前で止まると、ガチャと部屋のドアが開いた。颯と寺坂は驚き振り向くとそこには小さな男の子が立っていた。颯は顔を青ざめた。寺坂は少し見た後にどこか颯に似ているなと思った。

「あれ、もしかして冨樫くんの弟君?」

しかし、その男の子はうんともすんとも言わずに、大きく息を吸い込み、

「お兄ちゃんが黙って女連れ込んでるー!」

と叫びながら颯の部屋を飛び出した。

「おい、待て!健太郎ー」

と颯も呼び止めようとしたがもう遅かった。

「へぇ〜、冨樫くんの弟健太郎って言うんだー」

と颯とは裏腹にのんきに話す寺坂。

「そんなこと言ってる場合じゃないよ寺坂さん!」

とさらに青ざめる颯。すると、先ほどよりさらに大きい足音が次第に近づいてくる。

「にいちゃんに彼女だと⁈」

と勢いよく部屋を覗いてきたのは三男の優斗だった。

「うぉー!めっちゃ可愛い!え、モデルさんか何かですか?」

とすごい勢いで寺坂に話しかける優斗。寺坂も流石に少し引気ぎみになった。

「にいちゃん!こんな可愛い女の子どうやって彼女にしたんだよ!」

と急に颯の方を見た。颯は彼女じゃないと訂正しようとするが、優斗の勢いは止まらない。

「あの!こんなぱっとしないにいちゃんじゃなくて僕と付き合ってくれませんか?」

唐突の告白。戸惑う寺坂。訂正しようとする颯。寺坂を見つめる優斗。

「それじゃ、考えておいて下さいね!」

と優斗は颯爽とその場をあとにした。寺坂と颯は展開が早すぎて何秒間かフリーズしていた。すると、それもつかの間、次の足音がやってくる。今度2人同時のようだ。

「おにいに彼女ってほんと?」

「おーお姫様みたいー」

と入ってきたのは次女の葵と三女の桜だった。

「うわーすごい肌綺麗!なんの化粧品使ってますか?」

「おーお姫様みたいー」

とこの2人もぐいぐい寺坂に迫る。

「おい2人とも迷惑だから離れろって」

と颯は寺坂に徐々に近づく2人を止めた。

「あ、そうだお母さんにも伝えなきゃ!行くよ桜」

と言い残し2人は颯の部屋を出ていった。颯は止めようとしたがまたもや逃がしてしまう。そして、再び違う足音が近づいてくる。颯は家族なので足音が誰のものか判別できる。そして、今回の足音が兄のものだと気づき、寺坂に目をつぶるように指示をした。しかし、寺坂はとっさのことに反応できなかった。

「颯〜俺のパンツある?かぁーさんまた、俺と颯のパンツ間違えたっぽいんだけど」

と長男の真次郎が全裸で颯の部屋に入ってきた。寺坂はその姿をはっきりと見た後に颯の言葉を理解し、目を手で隠した。しかし、真次郎は寺坂をお構いなしに颯の部屋のクローゼットを漁る。

「にいちゃん!女の子いるんだから服を着て服を!」

颯は兄がこういった性格であることを知っているため、疑問に思うことなく冷静につっこむ。

「いや、俺の裸もお前の裸も似たようなもんなんだからもう見慣れてるだろ?」

とあたかももうすでに寺坂が颯の裸を見た程で話す真次郎。

「いや、見せてないから!てか、彼女じゃないから!」

と訂正するが、真次郎はお構いなしにクローゼットを漁り続ける。

「彼女も目塞いでないで目開けろよ。俺はジムで鍛えてるからな、こいつよりもいい身体が見れるぞ〜。まぁ〜でも、あれはどんなに鍛えても大きくならないから、あれの大きさだけはこいつに負けるけどな」

と親指で颯を指差す。

「にいちゃーーーーーーーーん⁈」

と自分の体だけでなく颯の体についても紹介しだしたことに怒る颯。

一方、寺坂の頭の中では葛藤が起こっていた。先ほど見たといえほんの一瞬。現物の男の裸をじっくり見る機会なんて滅多にない。男のイラストを描く上で現物の男の体はこれ以上にない資料だ。しかし、見るのは恥ずかしい。すると、真次郎が寺坂の葛藤する姿を見越して、カウントダウンをしだした。刻一刻と時は過ぎていく。葛藤する寺坂。そして、真次郎が1をいったタイミングで寺坂は思いっきり目を開けた。すると、そこにはもうすでにパンツを履き終えた真次郎が立っていた。寺坂を大きく、それは大きくため息をついた。

「寺坂さん⁈」

と驚く颯。真次郎も寺坂の姿を見て笑い出す。

「おもしろいな彼女、まぁーお願いすればいつでも彼氏のコイツが立派なもん見せてくれるからそう落ち込むなよ」

と言い残し颯の部屋をあとにする真次郎。だから、彼女じゃないってと心の中で訂正する颯。

「見せてくれるの?」

「いや、見せないよ⁈」

と寺坂は少し颯をからかった。

「それにしても兄弟多いね、冨樫くん以外に何人いるの?」

とついに気になっていたことを聞く寺坂。

「俺以外で6人だな。」

と即答する颯。そして、指折り部屋に着た順でカウントしていく寺坂に対して、颯はそれに合わせて軽く兄弟全員の自己紹介をしていった。そして、2人してあと1人足りないことに気づく。そしてなんだか気配を感じ部屋のドアの方を見ると、今度は足音も立てずに長女の小百合(さゆり)が立っていた。

「ど〜も、長女の小百合です。颯がいつもお世話になっています。」

と礼儀正しく軽く会釈をしながら話しかける小百合に対し、寺坂もつられてお辞儀をする。すると、そこにお母さんがお菓子をボウルいっぱいに入れて持ってきた。

「あら、ほんとに綺麗な人ね。颯にはもったいないぐらいだわ」

と言いながらお菓子の入ったボウルを寺坂と颯の間に置く母 ちえ。

「ありがとうございます」

と寺坂が御礼を言うと、ちえはいえいえと軽く笑みを浮かべる。すると、ちえは小百合に耳打ちをする。そして、耳打ちを終えた後2人はごゆっくり〜と言い残し颯の部屋をあとにする。寺坂は突然出ていったことに疑問を抱いていたが、颯は違う。母の性格を知っている颯はお菓子の入ったボウルに目をやった。すると、お菓子にまぎれているコンドームを発見し、寺坂に気づかれないようにすぐに取り除いた。

「それにしても、賑やかだね」

と笑みを浮かべながら颯の方を見る寺坂。

「お、おう、ごめんなうちの家族が迷惑かけて」

とちょうどコンドームを右ポケットに入れたタイミングで話しかけられたため、少し動揺した返事となった颯。

「もしかして、今日一日おかしかったのってこれが原因?」

とズバリ寺坂が聞いた。颯ももう隠す必要なんてないと思い頷いた。

「そんなこと気にしなくていいのに、私兄弟いないからこんな賑やかなの初めてで、すごい楽しいよ!」

と寺坂が笑顔で言ってるのは見て、颯は安心した。すると、再び足跡が近づいてくる。

「あの、僕と付き合う件考えてくれました?」

と優斗が勢いよく部屋の入り口に現れた。

「2週目は聞いてない!」

と颯は颯爽と突っ込んだ。


「ところで、今日の本題覚えてる?」

とお菓子を食べながら寺坂は颯に聞いた。颯は一瞬本当になんのことだかわからなかったが、少し立った後に思い出した。

「あー、うん俺に女の子の絵を見せるんだよね。覚えてる覚えてるよー」

と自分のパソコンを取りに行く颯。そして、自分の描いた女の子の中では一番自信のある女の子のイラストを寺坂に見せた。すると、3秒ほど空白の時間を経た後に、

「変だね」

とストレートに言い放った。颯は少しショックを受けたが自分も寺坂に同じことを言ってしまったことを思い出し、素直に落ち込んだ。

「うそうそ冗談、昨日のお返し。」

とまた軽くからかう寺坂。寺坂はじっくり颯の絵を見た後に改めて口を開く。

「ここはもっと幅を持たせたほうがいいかも、あと足はもっと丸みを持たせた方がいいかな、あとあと胸は水風船を意識しながら描くといいよ。それから・・・」

と次々に目から鱗のアドバイスが飛び出す、颯は紙に書き留めようとすぐに近くにあった紙とペンを取り、アドバイスを書き留めていく。そして、一通りアドバイスができったところで颯は寺坂に質問をした。

「えっと、初めの足に丸みを持たせるというのはどういうこと?」

すると、寺坂はあの手この手で颯にこの感覚を説明しようとするが、なかなか伝わらない。ピンときていない颯の顔を見て寺坂はある方法を思いついた。

「じゃー実際に触って確かめてみよか!」


「え?」

颯は少し遅れてから反応した。混乱する颯に対し颯爽と制服のスカートの裾を上げる寺坂。颯はどんどん上に上がっていくスカートの裾に釘付けとなっていた。そして、寺坂はパンツが見えるか見えないかくらいのところで止めた。颯は少しがっかりした。

「はい、どうぞ」

と足を差し出す寺坂。颯は綺麗な寺坂の足に目を奪われていた。見ているだけでもドキドキしているのに、触るなんて絶対無理だとなかなか手を差し伸べない颯。それを見かねて寺坂は颯の両手の手首を掴み、自分の足首にセットした。颯は思わず声が出る。

「じゃー、行くよ」

と寺坂が言うと、颯の両手を徐々に上にスライドさせていく。

「はーい、ここがふくろはぎですよー。ね、丸みを帯びてるでしょ?」

と突然、女性の美脚ツアーが始まった。しかし、颯は全く寺坂の説明が頭に入ってこない。そして、幸せな時間は過ぎていき、ついに足の付け根付近にきた。すると、足ガイドの寺坂も進むべきかどうか悩んでいる。颯も寺坂の言葉が詰まったことに気づき、今自分の手がどこにあるか確認する。颯の手はスカートで見えなくなる寸前のところで止まっていた。颯はさすがにやばいと思ったが、颯も男の子だ。興味がないわけがない。颯は全て寺坂の判断に任せることにした。寺坂は迷った末に進むことを決心した。それと同時に颯の心臓も動き出す。そして、颯からは自分の手が見えなくなった。颯は神経を指先に集中させた。寺坂も恐る恐る手を進めていく。もう説明なんてしてる余裕はない。手はどんどん進んでいく。そして、ついに颯の指先が寺坂のパンツに少し触れたところで、キャッ!と寺坂が声を上げる。

「自分でやっといて⁈」

と思わず突っ込んでしまった颯。この寺坂の声を持って美脚ツアーは終了となった。


美脚ツアー終了後は、2人がお互いにモデルとなりお互いの体を観察しながら、模写をしていた。

「ねぇ、冨樫くんってなんかスポーツやってたの?」

と当然寺坂が話し出した。

「あー、小中と野球やってたけど、なんで?」

颯は正直に答えた後に疑問を感じた。

「いや、冨樫くんのことじっと見てたら、意外と体がっちりしてるなと思って」

と寺坂が颯に言った。確かに、颯はぱっと見ではそこら辺にいる男子と変わらないように見えるが、よく見ると意外としっかりしている。いわゆる隠れマッチョである。

「なんで野球辞めちゃったの?」

と続けて寺坂が颯に聞く。

「んー、絵に専念したかったからかな」

と颯は漫画家を目指していることは言わなかった。

「そっかー、まぁ私もバスケやめてイラストに専念するって決めたしな〜」

と少し上を見ながら話す寺坂。

「寺坂さんってバスケやってたんだ」

と意外そうに反応する颯。

「うん、小学生からずっとね、好きだったなバスケ」

と少し悲しそうに話す寺坂。

「両方やろうとは思わなかったの?」

と颯は寺坂に聞いた。

「んー、私ね高校卒業したらすぐイラストレーターとして活動したいの。そんな中、学業と絵の勉強の両立に加えて部活動なんて無理だと思ったの。本当に迷ったけど、バスケで食べていけるわけじゃないし、いつかは理想の夢から現実的な夢に車線を切り替えなきゃいけないと思ってね。だから私はバスケを辞めたの。ごめんね長々と」

真面目に話す寺坂に対し、颯は何も口を挟むことができなかった。

「なんでこんな話になったんだっけ?」

と笑って真面目な空気を変えようとする寺坂。颯も思わず笑みがこぼれる。

「そうだ、冨樫くんががっちりしてるって話だったよね」

と思い出した寺坂。

「じゃー、冨樫くん触らして!」

とお願いする寺坂。颯はピタリと笑みが止まった。

「じゃー失礼しまーす」

と颯の体に手を差し伸べる寺坂。

「いやいや、ちょっと待って!」

と慌てて止めようとする颯。

「えー、なんで?いいじゃん」

と寺坂はさらに手を颯に近づける。

「いや良くない良くない!」

と颯は寺坂の手を掴んで強制的に止めようとした。

「私の足あんなに触ったのに?」

颯の手がピタリと止まる。確かに触ったけどほぼ半強制だったよね。まぁちょっと嬉しかったけどなどと考えているうちに寺坂の手が颯の体にたどり着いた。颯はやわらかい寺坂の手の感触に言葉が出なかった。

「へぇ〜、結構硬いんだね。えい!」

と寺坂は颯の体に触れた後に今度は颯のワイシャツもめくった。これには颯も思わず声が出る。

「うわーすごいちゃんと割れてる!」

寺坂は目をキラキラさせた。颯は野球を辞めてもなお、筋トレだけは兄の真次郎と一緒にやっていたため、体は仕上がっていた。

「これ、なんて言うんだっけ?腹筋が6つに割れてること」

寺坂はsix packという単語が出てこなかった。そして、寺坂は颯の腹筋を指先でぐるぐるなぞりながら必死に思い出そうとしていた。颯はくすぐったくなり笑い出す。しかし、考えるのに夢中な寺坂はそれに気づかず、さらに回転のスピードを上げた。それに伴い颯の笑い声も大きくなった。そして、寺坂は思い出したのかハッと声を上げた。

「s◯x packだ!」

と寺坂ははっきりと言った。颯の笑い声がピタリと止まった。

「え、え〜と寺坂さん、なんて言った?」

颯は聞き間違えだと思い、再度寺坂に聞き直した。

「いや、だからs◯x packだって」

はっきり6の発音を間違えている寺坂。そして間違え方も最悪だった。颯は間違いを訂正しようとしたが女の子にそんなことを言う勇気はなかった。

「どういたの?冨樫くん?」

と不思議そうに見つめる寺坂。

「え、あ、いや、あ〜もうこんな時間だそろそろ帰んないとじゃない?」

と露骨に話を逸らす颯。しかし、外はもう真っ暗で帰りどきというのは本当であった。

「そうだね、そろそろお邪魔しなくちゃね」

と紙とペンを置き、帰りの支度を始める寺坂。颯も部屋を片付け始めた。帰りの準備をしていると今日何度目かわからない足音が近づいてきた。そして、桜と健太郎が部屋のドアを開けた。

「おーお姫様みたいー」

と桜が寺坂を見て言った。

「まだ言ってんのか」

と少し呆れた声で颯が言った。

「で、どうしたんだお前ら?」

と颯が続けて口を開く。

「お母さんがご飯できたってーで彼女さんも食べていってだってー」

と健太郎が必死に伝言を思い出しながらそう言った。

「え、私も?」

と寺坂が聞くと、桜と健太郎は無言で頷いた。

「ラブコメの王道展開だな」

と言いながら颯は立ち上がり、寺坂にどうだと誘う。寺坂も喜んでその誘いを引き受けた。階段をおり、リビングに行くと颯の兄弟たちが寺坂を歓迎した。そして一緒に大きな鍋を食べ楽しい時間を過ごした。しかし、ここでも寺坂が彼女ではないことを訂正することができず、寺坂は颯の彼女となったまま、帰ることとなった。今は颯が寺坂を家まで送っている最中である。

「ごめんな、訂正できなくて。うちの家族あーなったらどうしようもできなくてさ」

と申し訳なさそうにする颯。

「全然大丈夫だよ。最後はお鍋までご馳走になっちゃったしね。あんな大人数で食べたの初めてだよ。やっぱ大勢で食べると美味しいね!」

寺坂は笑みを浮かべる。

「今日帰ったらもう一度説得してみるよ」

と下を向きながら話す颯。そして、少し間があった後に寺坂が口を開く。

「別に訂正しなくてもいいよ」

その言葉に颯は顔をスッと上げ、寺坂の方を見た。すると、寺坂も颯の方を見ている。颯の頬がだんだんと赤くなる。

「なんかおもしろそうだし!」

と少し立った後に寺坂が前を向いて言った。

「あ、そう」

と颯は少しがっかりした後に再び下を向いた。この時、颯は暗くて見えていなかったかもしれないが寺坂の頬もほんの少し赤色に染まっていた。


                続
























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