俺は寺坂さんをヒロインにしたい!

@kstm

第1話 自宅訪問

「はい・・はい・・・そう・・ですか・・・はい、また頑張ります。はい、はい、失礼します。」

ピッ・・・

「はぁ〜〜〜、またダメか〜」

俺は冨樫颯17歳。桜山高騰学校に通い始めた高校1年生だ。

俺は5年ほど前から趣味で漫画を描いており、それを多くの人に見てもらおうとネット上にあげていた。初めは、なかなか見てもらえなかったが、だんだんと見てくれるようになり、俺の作品を楽しみに待ってくれるファンもできてきた。そんな時、2年ほど前にたまたま俺の作品がとある出版社の編集者の目に止まり、うちで本格的に漫画を描いてみないかと誘われた。ちなみに、先ほどの電話の相手がその編集者である。さらに、その人はとても若く、とても可愛い。俺はすぐにその誘いに乗った。別に相手が可愛いお姉さんだったからって訳ではない・・・決してない!そんな訳でなんとなくその場のノリで描き始めたのはいいものの、連載なんて夢のまた夢。特に成果が出ることもなく、2年が過ぎようとしていた。

何がダメなんだろうなんて俺は全く思っていない。理由は一つ。原因がはっきりしているからだ。それは・・・女だ!!!

彼女いない歴=年齢の俺は性欲がたまりにたまっていた。そのため、原稿に身が入らないのだ!そう、すべては女なのだ!女さえできれば俺は連載を勝ち取れるんだ!・・・・・・嘘です。すみません。本当はただ単に女の子の絵がド下手なだけです。ネットにあげてた頃は冒険ものがほとんどで、登場人物は99%男。女なんて冒険先で出会った村人くらい(しかも後ろ姿)。俺自身も下手なことは十分自覚していたため、女の子をあえて登場させない物語を描いていた。しかし、漫画を描き始めて少し経った後に、編集者から女の子も描いてみてよと言われた。俺は、あの時編集者が見せたゴミを見るような目は今でも覚えている。

そしたら、今まで通り女の子が出てこないストーリーにすればいいじゃないと思ったそこの君!俺もそう思ってた・・・でも、今はどんな漫画でもヒロインの可愛さはお寿司に醤油くらい必要なんだって!だから、俺は今絶賛女の子を描くための練習をしているのだが、全くうまくならない。男と体が違いすぎるんだよな〜・・・参考書とか動画は見てるけど、やっぱそれだけだとさっぱりわからん。まぁ、もう2時だし今日は寝るとするか・・・ちなみに、なんでこんな時間になったかと言うと、激かわ編集者が今回の作品の連載有無の連絡をすっかり忘れていたためである。まぁ〜、そう言うところ可愛いんですけどね!それじゃ、おやすみ。

「・・・・・・・・・・・」


「おーい、颯起きろー」

「・・・・・んぁ?」

目を覚ますと、そこには学校の机があり、目の前には俺の唯一の友達の石川陵大が立っていた。どうやって学校まで来たのかまるで記憶にない。

「おー、おはよう、なんで俺学校にいるんだ?」

すると、なぜか俺の唯一の友達がくすくすと笑い出した。

「お・・お前の妹さん2人がお前を抱えて教室に入ってきてそのまま椅子に座らせたんだよ・・・はぁ・・・まじ爆笑だったぜ・・」

皆さんはあまりにもクレイジーなことによく状況が飲み込めていないと思いますが、俺は冷静にこう思いました。アイツらならやりそう。

「帰ったらじっくりお仕置きしないとな・・」

「まぁ、そう怒るなよ。おかげでギリギリ遅刻せずに済んだんだから。まぁ・・そのせいで・・クラス全員にみられたけどな・・・」

陵大は再び笑い出した。

「本当、最悪だ・・・そういえば、次なんの授業だっけ?」

「・・・・・今は昼休みだぞ?」

どうやら俺は寝不足のせいか1時間目から4時間目までぶっ通しで寝てしまったようだ。毎時間起こそうとしてくれた陵大さん気づかなくてすみません。そして、ありがとうございます。

「とりあえず、飯食べようぜ〜」

「おう、寝てても腹は減るな〜」

そういうと、2人は机をお互いくっつけた。

「そういや、お前のその席誰のか知ってるか?」

「当たり前だろ!我がクラスのNo. 1美少女、寺坂美優さんの机だよ!」

俺は自分の席を使っているが、陵大は違う。陵大は俺と一緒に飯を食べるため、近くの人の席を借りていた。その人こそ先ほど名前が上がった寺坂美優だ!高校生活が始まってはや、1ヶ月。男たちは自分好みの女を探し始める。そして、男どもがこぞって目をつけたのが寺坂美優だ。スポーツ万能、成績優秀、黒髪ロングの清楚系女の子、身長は多分165cm、体重は??kg、血液型はAかBかOかAB型、彼氏は・・・・いるかわからない・・てか、いないでほしい!

「どうよ、美少女の机は」

「うん、なんか座ってるだけで何かが発散されてる気がする」

「普通にキモいな、でもいいな〜」

「何がいいな〜だよ、お前が一番いい思いしてるじゃねーか!」

「何が?」

「とぼけんな!寺坂さんと同じクラスだけでなく、席も初めから寺坂さんの後ろじゃねーか。しかも、最初の席替えで今度は寺坂さんの前ってどんな強運だよ!」

そう、俺は出席番号順の関係で初めから寺坂さんの席の後ろだった。そして、その後行われた席替えでもくじ引きで見事今度は寺坂さんの前を引き当て、今に至る。

「で、どうだ寺坂美優を前後で感じた感想は?」

「めちゃくちゃいい匂いがする!」

「・・・・それだけか?他に寺坂美優の情報はないのか?」

「ん・・・・あ、これは寺坂さんが友達と話しているのをたまたま聞いたんだが、実は寺坂さん・・・」

「・・・・・・・」

「目玉焼きは塩で食べる派らしい」

「・・・・・・・・おう。そうか」

「てか、考えてみれば颯があの寺坂さんと話せる訳ないか」

「当たり前だろ!見ることもできないしな!」

「いばるなよ・・・あ、そうだ俺今日放課後委員会あるから先帰ってくれ」

「あれ、陵大って体育祭実行委員だっけ?」

「そう、早いよな、もうそんな時期だよ」

「体育祭か、高校初の行事だし楽しみだな」

「そうだな、まぁ〜てことで今日は一緒に帰れないわ」

「了解〜」

そういうと2人は昼ごはんを食べ進めていった。ちなみに2人とも部活動には入っていない。颯は漫画家を目指しているためであるが、陵大は部活をするならバイトをするとのことだった。そして、2人は昼ごはんを食べ終え、5時間目の現代文を迎えた。


「そして、智くんは寝坊してしまったため、約束に遅れてしまいました。その結果、予期せぬものを受け取ることになったのですが、これが後々彼にとっては良き出会いとなった。そして、・・・」

今日の現代文は、先生がひたすら長い物語を読むという地獄の授業内容だった。昼ごはん後ということもあり、教室の3分の1の生徒が既に顔が上がらない状態となっていた。現代文の先生は読む時は完全に物語の世界に入り込んで話す人のため、寝ている生徒に気づかないことが多い。気づかれたのは、以前いびきをかいて寝ていた陵大ぐらいだ。そんな陵大は懲りずに今日も爆睡している。流石に、いびきはかいていないようだが。俺はというと今日1時間目から4時間目までずっと寝ていたため全く眠くない。しかし、特にやることのない俺は課題である女の子を描く練習をしていた。しかし、やはり思うように描けない。嫌になったため、俺は男の絵を描くことにした。

「男はそれなりに上手く描けるんだけどな・・・」

と颯は心の中で描き終えたものを自画自賛していた。

カキカキ、カキカキ・・・

すると、ふと後ろの席から何かをかく音が耳に入ってきた。

(あれ、今は朗読中・・・特に板書することなんてないはずだよな)

シャー、シャー・・・シャ・・・

(ドローイング?書いてるんじゃなくて、描いてる?後ろの席は寺坂さん、まさかあの寺坂さん絵描いているのか?どんな絵描くんだろう。

ちょっと後ろ振り向いて見てみようかな〜・・・いや、でも覗き見は良くないしな〜それに、その時たまたま目があったりしたら気まずすぎる!いや、でも見たいな〜、いやでも・・・

キーンコーンカーンコーン〜・・・

颯が葛藤しているうちに6時間目終了の鐘が鳴った。

「では、今日の授業はここまで、お疲れ様でした。」

と言い終えると現代文の先生はそのまま教室をあとにした。ちなみに、この先生は笑いなど一切ない真面目な美人教師だ。授業の挨拶は省くことが多い。

「よーし、帰りのショートやるぞー席つけ〜

とやる気のない感じで呼びかける小藤淳平(こふじじゅんぺい)先生の声に対してクラスメイトが黙々と帰りの準備を始める。

「え〜と、連絡事項は特にないなー。はい、終わり。気をつけて帰るように。以上」

とちょー短い帰りのホームルームを終えて颯爽と教室を出ていく小藤先生。そして、それに続くように多くのクラスメイトが部活や委員会、帰路のために教室から出ていく。そんな中颯は黙々と男性のイラストを描き続けていた。

「おーい、颯ー帰ろうぜ〜」

と帰りの支度を整えた陵大が颯に近づきながらそう言った。

「わりー、今日は先帰ってくれ」

颯は頭の中にあるアイディアが消えないうち紙に描き留めておきたかったため、陵大にそう言った。陵大は疑問を抱くこともなく、呆れた顔をしている。実は、颯は自分が漫画家を目指していることを陵大にだけは伝えていた。だから、こういったことも珍しいことではなかったのだ。

「ほどほどにしとけよな〜、前みたいに気づいたら夜でしたーとかやめろよな」

「あったなー、確かその時に見回りの先生が来て、誰もいないはずの教室から鉛筆を走らせる音がするっていって安富中学校七不思議が八不思議になったんだよなー」

と懐かしい感じで語り出した陵大と颯。ちなみに、安富中学校というのは陵大と颯の元中だ。

「まぁ〜いいや、それじゃまた明日な」

と言い残し陵大は教室を後にした。その後、颯はすぐ机に体を向け、再び絵を描き始めた。


カキカキ・・・シャーシャー・・・

鉛筆を走らせる颯。すでに、帰りのホームルームから1時間ほどが経過しようとしていた。

終わったーと颯は心の中で呟いた。颯は頭の中にあった男性のイラストを紙に描き終えたと同時に集中力もプツリと消えた。その時、ふわりと甘い良い匂いがした。それに、すぐ近くに顔もある気がするし、なんだか人の気配も感じる。颯はゆっくりとその気配がする方を見た。すると、そこには寺坂さんが立っていた。颯は声を出すこともなく、ただただ寺坂さんを見つめていた。寺坂さんも特に何もいうこともなく、ただ颯の描いたイラストを見つめていた。少し経った後に、寺坂さんが颯に見つめられていることに気づき慌てた様子で喋り出す。

「ご、ごめんなさい!覗き見する気はなかったの!」

いきなり話し始めたため颯は少し動揺した。

「実は、忘れ物を取りに来たんだけど、その時に後ろからチラッと冨樫くんが描いてる絵が見えちゃって、それで・・・」

と申し訳なさそうに話す寺坂に対して、颯は状況が把握できずただ呆然としていた。

「冨樫くんって絵上手なんだね!」

立て続けに颯に話しかける寺坂。ただ呆然としている颯。

「あの、よかったらなんだけど、、、」

寺坂は少し下を向き、両手の指先を合わせながら話し出した。そして、颯はただ呆然としている。

「私に男の子の絵の描き方を教えてくれないかな!」

と寺坂は頬を赤くし、目を閉じ、少し大きめの声でそう言った。今まで、フリーズしていた颯もこの言葉を聞いてハッとなった。

「え、絵を俺に?」

颯は右手の人差し指を自分に向けながらそう言った。

「うん、実は私イラストレーターを目指しているの。」

颯は思わず、へぇ〜と口から漏れてしまう。

「でも、女の子はともかく男の子を描くのが苦手で、どうしてもラッキョピーナッツみたいな男の子しか描けないの」

「ラッキョピーナッツ?」

颯は思わず、そう聞き返す。しかし、なんだか颯は急に親近感が湧いた。

「だから、その、描き方を教えて下さい!」

寺坂は少し頭を下げながら真面目な声でそう言った。颯は悩んだ。ただでさえ、女の子が描けずに苦戦しているのにこれ以上別のことに時間を使うわけにはいかない。しかし、彼女の真面目な態度を見ると断ることができなかった。

「自分なんかでよければ」

その言葉を聞いた瞬間寺坂はハッと顔をあげ、颯の両手を掴んだ。

「本当⁉︎ありがとう!」

颯は思わず目を逸らした。

「じゃー、早速なんだけど、、、」

颯は再び、寺坂の方に顔を向ける。

「うちに来て!」

・・・・・・・・・・・

「え?」


「さぁ、さぁ上がって上がって〜」

つい言われるがままついてきてしまった颯。颯にとっては初めての女子の家。さらに相手は学年で1番かわいい寺坂美由。(石川陵大調べ)当然のように緊張している。

「私の部屋は2階だよ」

と言いながら階段を上がる寺坂と颯。すると、階段を上がりながら再び寺坂が口を開く。

「そんな緊張しなくて大丈夫だよ。私一人っ子だし、親は共働きでいつも帰り遅いから。」

余計緊張してきた颯。そうこうしているうちにどうやら寺坂の部屋についたようだ。

「ここだよ〜どうぞ。」

とドアを開けた寺坂。その向こうには、いかにもな女の部屋が広がって・・・・・・いなかった!真っ先に飛び込んできたのは、大量に並べられたフィギュアの棚。おそらくイラストを描く際のポージングの参考にするためのものだろう。そして、本棚にぎっしりと詰められたイラストの参考書。極めつけは、机に堂々と置かれた液晶タブレットである。

「えへへ、ごめんね散らかってて。あと、変だよねこんな部屋」

と少し下を向く寺坂。すると、颯が何言ってんだこいつのような表情をしながら口を開く。

「いや、全然変じゃねーよ。俺の部屋もこんな感じだし」

すると、寺坂の顔が一気に上がる。

「本当⁈よかった〜今まで家族以外誰にも見せたことなかったから心配だったんだ」

寺坂は右手を胸に当てながらそう言った。

「あ、そうだ早速だけど私のイラスト見てくれる?」

とパソコンを取りにいく寺坂。颯もついていった。寺坂はパソコンを取ると、液晶タブレットがある机とは別の近くの机に正座した。颯も真似をするように向かい側にあぐらをかくように座った。すると、寺坂はパソコンの画面を颯の方に向けた。

「これなんだけど・・・。」

画面に目をやる颯。すると、画面にはラッキョピーナッツのような輪郭をした男の子?が描かれていた。それだけではない、体も異様に細いし、目も顔の3分の1を占めている。颯は反応に困っていた。すると、それを見越して寺坂が話し出す。

「やっぱ変だよね・・・。」

「変だな・・・。」

颯は思わず口に出してしまった。寺坂も少し驚いたが、すぐ受け入れた。

「だよね、正直な意見ありがとう。」

颯はとても罪悪感を感じた。

「ごめん」

と颯はせめてもの罪滅ぼしの意味を込めてそう言った。

「うんうん大丈夫!だって、そのために冨樫くんに教えてもらうんだもん!」

と満面の笑顔で寺坂はそう答えた。颯はその顔を見て少し安心した。

「ちなみに、他にはどんな絵を描くの?」

とアドバイスをするためにも他の作品も見たくなった颯がそういうと、寺坂は立ち上がって颯の隣に腰掛けた。

「うん、他にはね〜え〜と・・・」

と言いながら、寺坂はパソコンに手を差し伸べる。この時、寺坂の胸が颯の腕をかすめる。颯はどうしようか悩んだが、寺坂が気づいていない様子だったため、そのまま黙っておくことにした。そして、目線を逸らすという意味も込めて一度パソコンの画面に目を向ける。すると、颯はガシッとパソコンを掴んだ。

「と、冨樫くん・・?どうしたの?」

といきなりのことに寺坂も動揺していた。

「これ、寺坂さんが描いたの?」

とそこには先ほどのラッキョピーナッツのような顔とは打って変わったようなとても可愛い女の子のイラストが写っていた。

「え、うん、そうだけど・・・」

と不思議そうに寺坂は答えた。

「めっちゃうまいやん!てか、可愛い!」

颯は興奮のあまり少し大きめの声が出た。それもそのはず、なぜなら、寺坂が描く女の子はまさに颯が想像するヒロイン像そのものだったのである。

「あ、ありがとう」

と寺坂は少し照れくさそうに言った。

「なんで女の子はこんなに上手く描けるのに男の子はダメなんだ?」

と少し失礼な気もするが、テンションが上がっていた颯はそんなこと気にもせずに聞いた。

「ん〜、なんでだろうね?でも、やっぱ私も女だから男の子と比べると体の形を想像しやすいというかなんというか・・・」

となんだか自信が無さそうに話す寺坂だが、颯も寺坂の意見には同感だった。それはおそらく、颯が女の子を描けない理由も寺坂と一緒だったからだ。颯は再び寺坂に親近感が湧いた。それと同時に尊敬の気持ちも湧いてきた。それは、颯も寺坂のような女の子の絵を描きたいと思ったからである。すると颯は突然口を開く。

「寺坂さん!俺に女の子の描き方を教えてください!」


しばらく沈黙の時間が続いた。寺坂は上手く状況が飲み込めずにいた。

「え、えっと、これから私が冨樫くんに教わるんだよね?」

寺坂は確認するように颯にそう聞いた。

「もちろん、男の描き方は教える!ただ、俺、女の子は全く描けないんだ。」

と恥ずかしながらも少し勇気を出して颯が打ち明けた。再び沈黙が続いた後に、突然寺坂がぷっ・・と笑い出した。

「なんだよ、急に!」

颯は勇気を出して言ったこともあり、少しイラッとした。

「ごめんね、ただ私たちって似たもの同士だったんだなって」

その言葉と寺坂の笑顔で颯はイライラのイの字も無くなった。それどころか颯も釣られて笑い出した。二人の笑い声は18秒間鳴り止まなかった。

「いやー、笑った笑ったー。でも、そっかそっかー冨樫くんも異性の描き方には苦労しているんだね」

「うん、だから寺坂さんの気持ちもよくわかるよ」

「うんうん、それで、富樫くんはどんな女の子描くの?見せて見せて!」

「いやー、俺も絵はデジタルだから絵は全部パソコンに入ってるんだよねー」

「そっかーじゃー今は見れないか・・・あ、それなら明日冨樫くんの家に行くからその時見せてよ!」

 ・・・

「え?」

とこれまで順調だった会話が止まった。

「いやー、冨樫くんの男の子の絵は見たけど、女の子はどんなかなー」

それでも寺坂はなお、順調な会話を続ける。

「いやいや、ちょっと待って、俺ん家に来るの?寺坂さんが?」

と慌てた様子で颯は寺坂にそう尋ねた。

「そうだけど、ダメ?」

と不思議そうに寺坂はそう答えた。

「いやいやいや、ダメでしょ?」

「なんで?」

「なんでって・・・」

颯はさまざまな理由から異性を家に上げることに抵抗があった。そのためなんとしてでも寺坂が家に来ない方向でなんとか話をおさめたかった。

「明日学校にパソコン持ってくからその時に・・・。」

「学校パソコン持ち込みダメだよね?」

ごもっとも!

「じゃー、明日俺が学校終わった後、一回家にパソコンを取りに戻ってからファミレスかなんかに集合ってのは・・・」

「二度手間じゃない?」

ごもっとも!

「えっと、俺、女の子の絵マジで下手くそだから本当に見せたくないというか・・・」

「私は下手くそな男の子の絵見せたのに・・・。」

ごもっとも!!!

颯は頭をフル回転させて他の言い訳を考えた。すると、その様子を見ていた寺坂が口を開く。

「あの、もしかして迷惑かな?」

と申し訳なさそうに聞く寺坂。

「いや、別に、迷惑ってわけじゃないけど・・・」

と颯も申し訳なさそうにそう答えた。

「ごめんね、いきなり家に行くだなんて確かにへんだよね。絵を見るだけなら、今日写真を撮って明日学校で見せてもらうとかで良いもんね。」

颯は心の中で、その手があったかと思った。

「でもね、実は冨樫くんの女の子と同じくらい男の子の部屋も見てみたいの。」

と頬を赤らめて寺坂は話す。

「私今まで彼氏も、家に行くほど親しい男友達もできたことないから男の子の部屋がどんな感じかわからないの。だから、その、絵を描く参考になるかもだから、一度見ておきたいというかなんというか・・・」

と寺坂が恥ずかしそうに、自信がないようにそう言った。しかし、それを聞いていた颯も同じ気持ちだった。颯も今まさに女子の部屋にいるが確かに得るものもある。部屋中に漂う甘い良い香り。ベットの周りに置かれた大量のぬいぐるみ。そして、それ一個くらい絶対使ってないやつあるやろと思わせる程の大量の化粧道具。間違えなく可愛い女の子を描くための情報になっている。俺は少なくとも昨日よりは確実に1ミリぐらいは成長している。それなのに、俺はもらうものだけもらっておいて何も返さないのか。これ、女子中学生の誕生日でやったら、友達関係崩壊するぞ。と少し飛躍した葛藤を繰り返していた。そして、少し経ってから颯が口を開く。

「わかった。じゃー、明日学校終わったら俺の家な」

颯は右の親指を自分に向けながらそう言った。

「本当に⁈いいの?」

とやたら嬉しそうな寺坂。

「おう、俺の部屋でよければ好きなだけ参考にしちゃっていいよー」

と冗談半分で颯がそう言った。

「うん、じゃー思う存分参考にさせてもらうね」

と寺坂も冗談半分でそう返した。


「じゃー、今日はお邪魔しました。」

颯は家のドアの前で寺坂にそう言った。

「うんうん、こちらこそ急に来てもらってごめんね」

と寺坂は笑みを浮かべながら颯にそう言った。そして、お互いに手を振り別れを告げた後に颯は自分の家に向かい歩き始めた。今日は颯にとってとても刺激的な1日だった。学年1可愛いと言われている寺坂美由に話しかけられ、家にお邪魔し、お互いに生徒・教師の立場となった。いろいろなことがありすぎたせいで颯の頭の中はまだ全く整理できていなかった。ただ、今の颯の頭の中にはある一つの事しかなかった。

「明日、どうしよう・・・」


                   続















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