第27話 地竜に乗って隣町へ
「ねえ! 近場の町でいいところあったでしょ。えーと、ロー……ロー」
「ローダンセのこと?」
「あ! そうそこ! ローダンセは今も流行りの服がいっぱいあるんでしょ? 久しぶりに行ってみたい!」
ワクワク顔のフィアに聞かれ、俺はうーんと悩みつつも、
「流行りは俺にはぜんぜん分からないが。まあ世話になってるからな。ちょっと行ってみるか」
と返事して遊びに行くことが決定した。
ローダンセというのは近隣にある町の一つで、この界隈じゃかなり栄えてる。大体の場合、俺たちみたいな歳の連中が遊ぶところといえばあそこが定番なんだ。
そういえばフィアは、昔から急に気が変わったり、唐突に遊びに行こうと誘ってきたりすることがよくあった。真面目でしっかりしていると思いきや、頑張っていた反動で弾けたりする。でも、人ってきっと誰しもそうなのかもしれない。
「うぇーい! おっ買い物! テンション上がるね」
「な、なんだよそのノリは。どこの兄ちゃんだ。せっかくだから地竜を借りて行こうか」
「嬉しいー。地竜ちゃんに乗るの久しぶり」
朗らかな笑顔に、俺もまんざらじゃない気分になってくる。地竜っていうのは竜の一種で、人間と昔から付き合いのある珍しい魔物だ。馬よりも走るのが格段に速いので、慣れれば地上で最速の移動手段とも言える。
「楽しみー。ジークに私の乗竜テクを見せてあげるねっ」
ほほう、自信があるじゃないか。でも、操るのはかなりコツがいる。落ちたりすると本当に危ない。だから大抵の人は馬車で移動するし、地竜は借りると料金もなかなかに高いという短所もある。
ちょっとばかり不安になりつつ、レオの村に一つだけある地竜屋へと向かうことにした。
小屋がいくつも並んでいる、ぱっと見は牧場っぽいそこは、地竜の貸し出し小屋だ。ちゃんとした誓約書とか色々書かないといけないのがちょっとめんどい。
「おじさーん! 久しぶり。ねえねえ、地竜貸して」
「お? おおー! フィアちゃんじゃないか。帰ってきてたのは知ってたが、綺麗になったなー!」
それからしばらく、地竜小屋のおじさんとフィアの会話が続く。もうこのオヤジってば嬉しそう。まあね、聖女様はなんたって村人みんなの憧れみたいなもんだし。
ずっと喋り続けるおじさんに、最初こそノリノリだったフィアはちょっぴり苦笑混じりになる。困らせたことにようやく気づいたおじさんは、
「っと、そこにいるのはジークじゃないか」
なんて今更ながらに声をかけてきた。
「うす。地竜を一頭お借りしたいんですけど」
「おう! まあ別にかまわ……一頭だと?」
よーし、これでサクッと隣町まで行けるぞ……ってあれ? 少しの間固まっていたおじさんは、突如猛スピードで俺に詰め寄ってきたと思ったら、ガツ! と肩を掴んできた。いきなりなんだよ怖いって!
「ま、まさかジーク。フィアちゃんといちゃつこうって魂胆じゃないよな? な?」
「そんなわけないじゃん。あいつには許嫁もいるんだよ」
ヒソヒソ声で詰問してくるおじさん、とってもうざい。少し離れていたところで竜に構っていたフィアは、こちらの様子に気づくと不思議そうな顔をしている。
「どうしたの?」
「ああ、いや。フィアちゃんはこの村一番の日陰者と、一体どこに行くのかなと不思議になってな」
「誰が村一番の日陰者だ!」
失敬な。多分三番目くらいだ。
「もう、おじさんってば。ジークは全然そんなんじゃないでしょ。ローダンセの町に行くの! お買い物付き合ってもらって、その後はカフェで美味しいものを食べて、それから何処か劇場でも」
ギリギリ、と見えないところでおじさんが、俺の肩を圧殺せんばかりに握ってくる。
「いてて! ちょ、ちょっと離してくれ!」
「ゆ、許さん。許さんぞ!」
「誤解だおっちゃん!」
「ぐ……フィアちゃん。地竜の二人乗りはきっと危ない。おじさんのお気に入りを貸そう。特別にタダで」
「ええー! いいの。おじさん優しいね!」
フィアは思いっきり喜んだみたいで、もし尻尾があったらブンブン振りそうなほどはしゃぎだした。おじさんもまた幸せそうに笑う。この流れに乗らない手はない。俺もタダで地竜に乗ってしまおう。
「ありがとう! じゃあ俺はあっちの地竜で行くよ」
「おう! じゃあ3,000Gな」
え、俺はお金払うの? しかもいつもより値上げしてない?
「わぁ! この子賢ーい」
地竜に跨ったフィアは、手綱を握りながら子供みたいに笑っている。俺はといえば必死の交渉も虚しく、値切ることさえ叶わなかった。ああ、なけなしの3,000Gがおっさんの懐に入っていく姿は絶望ものだ。
ガックリとしながらもう一頭を借りて、ローダンセに向かって出発することにした。すると、さっきまでの悔しい気持ちが嘘みたいに晴れていく。やっぱ地竜の背中は全然違う。
まるで本当に風を切っているみたいに、爽快感抜群の乗り心地だ。馬よりもずっと速いので、山を二つほど超えた隣町へもあっという間に着くだろう。
そう思いつつ、隣を走っているはずのフィアを横目で確認しようとしたが、なぜかいない。
「きゃああー。落ちるーーーー!」
「ん? おお!? フィア、大丈夫かー!」
地竜にしがみつく形になっているフィアが、顔を青くさせながら叫んでいた。さっきまでの余裕はどこに行ったんだよと思いつつ、何度か止まって助けてあげた。
「うう……私、本当に上手くなったはずなのにぃ」
「気にするなよ。地竜によっては乗りこなすのが難しい奴とかもいるんだ」
「ごめんね、地竜ちゃん」
フィアの相棒となった地竜は、彼女がすぐに落ちそうになるから随分とやりにくそうにしていた。でも、思いやってもらえるあたり仲は良さそう。途中からどっちが操ってるのか分からない感じになったが、なんとか町には到着したから問題なし。
謎の達成感に満たされた俺とフィアは、少々くたびれながらも町へと繰り出すのだった。
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